第553話 偽宗教団体設立1

「(ここのご飯はやっぱり)美味いっす!」


「なんでここに居る?」


 知らないうちに星流ひかるが旧屋敷に住みついていた。

今は城のキッチンまでやって来て、ちゃっかり結衣が作ったご飯を食べている。


「わざわざご飯を食べさせなくても良いぞ、結衣」


「えー困るっす」


 困るのはこっちと、放置された領地の領民だ。

お前には領地を与えて、しっかり統治するように言ってあっただろ?


「何があった?」


「一揆っす」


 どうやら星流ひかるは領地経営に行き詰って逃げて来たようだ。

たしか、内政官を派遣してあったはずだが?


「内政官は?」


「逃げたっす」


 うん、これは事情を説明できる者がいないということだな。

さすがに、このような重大事は行間を読めないぞ。


 たしか、星流ひかるは飛行能力があるからと、ここからは遠い領地を任せたんだったな。

その飛行能力で逃げて来たということでもあるが……。

どちらかというと東寄り、リュウヤの領地に近い、つまり教国にも近いということか。


「一揆の原因は?」


「うーん、宗教っすかね?」


 宗教だって?

アーケランドで宗教といえば、女神教でも穏健な方だったはず。

一揆をおこすような過激なものではないし、教国と違って星流ひかるのような勇者は崇める存在だ。

勇者である領主に対して一揆を行うとは考えにくい。

やはりこれは、立地的にも教国による工作か?

農業国がやられた状況と同じなのではないか?


「(これを)見て欲しいっす」


 星流ひかるが懐から出して来たのは、内政官が書いた報告書だった。

そこには切実な状況が書かれていた。

これをまとめることが出来る内政官って……有能だったんだろうな。

星流ひかるに説明させていたら、何も伝わって来なかったところだぞ。


 そこには……。


 星流ひかるの思い付きで、日本での先進的な大規模農業をやろうとして、破綻した様子が書かれていた。

知らないことを知らないまま、知っている部分だけを持ち出してやらかしたらしい。

それにより収穫量が激減し生活が困窮、それでも税が下がらなかったことで農民たちが激怒、一揆に至ったようだ。


星流ひかるが悪い」


「えー」


 だが、そのしくじりは軽い方だ

崇められる存在の勇者であれば、激怒にいたるほどの被害があったわけではない。

星流ひかるが悪くても、内政官が頑張って支援物資を送るなどして立て直そうともしている。

税制は直ぐに対応されたようだ。

そうまでしてもまだ農民たちが一揆に至った理由は……。


「宣教師による先導だと?」


 それに気付いたため、内政官は命を狙われて逃げたと。

要は、星流ひかるが付け入る隙を盛大に作り、教国の宣教師により煽られたということだった。

小さな火に盛大に燃料をくべられたのだ。


「また教国か!」


 いや、アーケランド領内では初めてか。

女神教の布教だけならば良いと認めてしまったツケが出たか。

前領主が粛清され、新しい領主に代わって混乱している中、星流ひかるが良かれと思ってやったことが裏目に出た。

救いは女神教の中にと付け込まれた形だろう。

そこにはクララのような軽い洗脳もあったに違いない。


「おまえ、完全に舐められたな」


 その争いの中で、領軍、一揆の参加者ともに被害者が出たらしい。


「だって(俺が本気出したら)死んじゃうじゃん」


 これでも星流ひかるは頑張った方らしい。

そのやり方を知らなかっただけなのだ。

教国の宣教師ならば、そこらへんのノウハウは蓄積済みだろう。

そして、一揆の参加者の生死なんか気にもしていない。

その差が出たのだろう。


「だが、これは好機かもしれない」


 負傷者が出ているならば、麗に行ってもらって治療するとしよう。

そして、麗の奇跡の力を以って聖女であるとアピールするのだ。

宣教師よりも圧倒的な治癒の力。

それをまざまざと見せつけて、教国の教えを否定するのだ。


「麗を呼べ! 星流ひかるの領地に向かうぞ!」


 幸いなことに、召喚勇者を派遣した領地には、俺が1度は訪問するようにしておいたのだ。

おかげで疑似転移で行くことが出来る。

高所恐怖症の麗に空の移動は厳禁なのだ。


裁縫女子、聖女の衣は出来ているか?」


「ばっちりだよ」


 宗教団体を設立すると決めてから、いかにも聖女という衣裳も裁縫女子に発注済みだ。

俺や護衛のベルばらコンビ用の衣裳もある。

さて、いよいよ偽宗教団体の活動開始だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る