第552話 港湾都市と決意
温泉拠点の拡大に伴う外壁工事が完成し、城も外観は完成を見た。
ゴーレムたちの仕事は街の上下水道の整備と、移民して来た獣人たちの家の建築に移行していた。
そして、ゴーレムたちの半数が、北の海岸に派遣された。
彼らの任務は造船ドックと港、そして空港の建築だった。
北の海岸の港湾都市化計画だ。
北の海岸では、岩窟要塞に設置された魔導砲により安全が保たれていた。
教国の帆船もそんなに数が無いようで、頻繁にやって来ることは無かったし、奴隷船が帰らないという異常事態を察して、次の帆船が教国本国からやって来るにしても、月単位の時間が必要だった。
俺はそれに対抗するため、帆の折れた奴隷船を改造し、遊撃戦力とすることに決めた。
そのために造船ドックと、大型船を運用するための港を建築することにしたのだ。
その建築にゴーレムたちは携わる。
一方、配下に加わったマーマンたちが、警備に加え本業として漁師をしてくれることになった。
彼らは平和な時は漁師で、緊急時には警備にまわるという、港湾都市にとって有難すぎる存在となった。
彼らが対価として要求するのは貴金属と山の幸。
貴金属は彼らの習性でキラキラしたものを好むというものがあるためで、マーマンとマーメイド共に誰もが収集癖を持っていた。
山の幸は単純に珍しい物が食べたいらしい。
その漁業による海産物や対価となる品を、温泉拠点と港湾都市間で運ぶことになるのだが、港湾都市と温泉拠点の間は魔の森と台地に隔てられていた。
獣人が住んでいた大穴も、魔の森と荒れ地を経由した先にある。
そこに道を通し、魔の森の魔物の脅威から守るというのは非現実的だった。
仮に、大穴までの道を完成させることが出来たとしても、その先は聳え立つ台地で隔てられており、そこを上り下りする手段が必要だった。
日本で言うと栃木県上田の段丘、世界的に言えばギアナ高地のテーブルマウンテンのような感じなのだ。
そこに九十九折りの道を通すにしても、崖を抉って道を作らねばならず、やっと昇った先も魔物が跋扈する魔境だった。
魔物が魔の森よりも弱くなっていることだけは救いだが、教国の連中でさえも騎士や大猿の護衛を必要にするなど、けして安全な場所ではなかった。
危険な道、護衛は必須、移動に時間もかかる。
鮮度が大切な海産物を運ぶには、あまりにも現実的ではなかった。
ではどうすれば良いのか?
せっかくの海産物を温泉拠点まで運ぶためには、俺か陽菜の転移に頼ることになってしまうのだ。
そこで考えたのが、マジックバッグと翼竜による航空輸送だった。
容量重量軽減と時間停止機能のあるマジックバッグに、海産物を入れて翼竜で運ぶ。
そのための空港を港湾都市に設置する。
空港と言っても、翼竜が飛び立ったり降りたりする空き地の整備と、翼竜が一時的に休むことの出来る
空港が出来れば、飛竜による人員の輸送も有りだ。
そのためには、飛竜が掴んで運べる客室付きの箱が必要になる。
箱ならば剥き出しではないので、高所恐怖症の者も克服出来るだろう。たぶん。
箱馬車程度のものならば、今でもどうにかなるが、それでは大きさや重量的に搭乗人数が4人程度までとなる。
今後は
箱はなるべく軽く強い材質で作らなければならず、その開発が難航しているところだ。
これらは、港湾都市が俺や陽菜の手を離れてもやっていけるようにするためだ。
飛び地の統治は難しいものだ。
◇
「農業国で異変?」
王城で執務をしていると外交部からの報告が上がって来た。
アーケランドは間諜組織を持っているが、アレックス以前の王家が他国に迷惑をかけっぱなしだったため、今は教国にしか間者は送っていない。
特に農業国は委員長が迷惑をかけたため、そういった態度で示して友好を深めるしかなかったのだ。
王様が変わったので過去の事は忘れて、とはならないのだ。
悪徳貴族は粛清されたが、俺の嫁はアーケランド王家の血統だし、他国が疑心暗鬼になっていても不思議ではない。
アーケランドの血筋が勇者召喚に必須のため、皆殺しとはいかない。
同級生たち、翼たち次代勇者の中にも帰りたい者はいる。
その希望を断ってしまうわけにはいかないのだ。
そんな状況で他国の情報を集めるには、フリーの商人や行商人から情報を買うか、外交により直接他国の情報を得るしかない。
今回は農業国から直接情報提供があったという。
つまり、教国に不審な動きがあると、農業国に伝えていたことが功を奏したということだった。
「農業国東部で、異常な不作により一揆が起きているということです」
「一揆か。
農業国のことだ、きちんと対処したのだろう?」
「支援物資を送ったそうですが、それも略奪され、豊作だった村が襲われるなどしているようです」
そんな国の運営の不手際とも言えることを他国に伝えるというのが既に異常事態だった。
「農業国東部……。教国の関与が疑われているのだな?」
地理的に北大陸東部は教国の影響力が強い。
「はい、そのため我が国にも情報が伝わって来たのです。
なんでも一揆を行っている農民たちが、田畑の汚れを祓うためにお金を浄化する必要があると言い出したそうで、そこに自称女神教の聖女が関わっているとのことです」
不安を煽り、改宗させ、信仰により救われると洗脳し、金品を献金として巻き上げる。
「カルトの手口かよ!」
地球のように宗教が成熟していても、一部の者が破戒すれば簡単に同じことが起きてしまう。
良い宗教の教えを隠れ蓑に、私利私欲に走るなんて誰でも出来てしまうのだ。
それがカルトだ。
「迷信や神の教え、それが免罪符となれば、簡単に暴走するのか……」
そして、信仰を利用して、対立組織、対立国に対して破壊活動を行わせる。
それが農業国に対して開始されたということだろう。
「特に、献金を重視しているらしく、娘を奴隷に売ってまで金策に走っているようです」
「それが教国の言う神の救いなのか!?」
間違っている。
救われるのは娘の生活であるはず。
誰かを不幸にしての救い、行き過ぎた奉仕により家族が不幸になるようなことがあれば、それは似非宗教だ。
「教国は女神信仰を私利私欲の手段にしてしまっているのか?」
大義名分。
そこまでしてでも、達成しなければならない目的があると言うのか?
目の前の悪事に目を瞑ってでも、その先に実現すべき大義がある。
その大義のためならば犯罪行為も許容する。
「そんな宗教、違うだろ」
教国は、だめだ。
女神様を信仰するのは良いが、手段が間違っている。
教国が敵対するならば、容赦するわけにはいかない。
「だけど、矢面に立つのが宗教を信じてしまっているだけの被害者だとなると、俺はその農民たちを討てるのだろうか?」
狂信者ほど怖い。
討たねば、こちらの国民が犠牲になる。
信仰という名の元に行なわれる洗脳を解くのは難しい。
良いことをしている、世界を救うための行動。
その思い、行動は無垢そのもの。そこを悪人に付け込まれているのだ。
俺たちには、それは違うと解かっていても、その考えを覆すのは難しい。
「いっそ悪人になれた方が、楽なんだろうな」
織田信長なんて、理不尽の塊だったように見える。
だけど、その行動は国を守るため、その時々で必要なことだったのかもしれない。
結果、部下に裏切られる。
「是非も無し」と言ったらしいが、為政者とは恨まれることを許容しなければならないのだろうな。
それこそ間違いに対する自浄作用なのだろうか。
「俺がしなければならないのは、俺たちが生き残ること。
教国のように国を跨いで絡め手で来るならば、宗教弾圧も必要なのかもな」
俺は教国の布教を禁止することにした。
だが、その背後には女神様を信仰する無垢の信者たちが存在する。
教国に関係なく女神様は崇められているのだ。
その女神様を利用して、教国が間違った道を進んでいる。
そうだ、女神様を信じる違う宗教を作ってしまおう。
「うちには本物の聖女様がいるじゃないか」
麗の癒しの力を目の当たりにして、信じない者は居ないだろう。
その麗に教国を否定させる。
麗に危険が及んでしまうが、そこは俺たちが全力で守る。
さあ、どんな宗教をでっち上げようか。
なんだか、俺たちの方がカルトっぽいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。