第549話 帆船を調査2

 モササウルスに押してもらって、焼けた帆船を入江の中まで運び込んだ。

モササウルスが舷側を押し、帆船をゆっくりと奴隷船の横に付ける。

その間も獣人たちが船内を捜索していたが、これまで生存者は見つかっていなかった。


「王よ、船底に水没している区画がある。

構造的に船体に穴は開いていないと思うのだが、まるでそこだけ水槽があるように水没している。

これ以上の捜索は我らには無理だ」


 猫系獣人は水を嫌う。

ここには獅子・虎・豹の獣人が多かった。

犬系獣人も潜水まではさすがに無理か。

彼らに潜ってまで調べろとは言えなかった。


 生存者無し。

これでこの船内捜索も終わりかと俺は思った。

見つかったのは火災による死亡者だけ。

あとは生ゾンビを量産するだけか、そう思った時。


「うわー! なんだこいつら!」


 船底へと続く、ラッタル船内階段から、伝声管のようにくぐもった声が聞こえて来た。

何かの伝導によるものだろう。

そうでなければ、異変に気付けなかったかもしれない。


「グギャギャギャギャ」


 得体の知れない生き物の声も聞こえて来る。

教国の奴らは何か俺たちの知らない魔物を連れて来ていたのかもしれない。

ドナートヴィチが連れていた大猿たちのように。


「うわ! 舷側から魔物が!」


 それはマーマンと呼ばれる半魚人だった。

人の形をした魚という外観だ。

半分が人間で半分が魚のタイプではない。

昆虫人間が昆虫と人間のハイブリッド的だったのと同様に魚と人間が融合している感じだ。

カサゴ系の魚が二足歩行の人型に進化した感じと言えばわかるだろうか?


 甲板上に戻って来ていた獣人たちがマーマンと剣で斬り結ぶ。

ここには大柄の獣人たちが多い。

船内が狭すぎたため、捜索よりも死体の運び出しなどを行なっていたのだ。


「どっちだ? 使役されているのか、このあたりの原生種か?」


 原生種ならば、この先もこの入江はマーマンに悩まされ続けることになるだろう。

だが、この帆船が連れて来た使役魔物であれば、こいつらを倒せば終わるはずだ。


「皆、一先ず甲板に上がれ! 狭い場所では不利だ」


 マーマンは鰭から進化したのか、その指先は鋭い爪になっていた。

それで引っ掻いて来るので、狭い場所での格闘戦はやっかいだった。

身体は鱗に覆われており、それが強固な鎧となっていた。

さらに、背びれ他には鋭い刺が生えていて、それを体当たりなどで効率よく使って来ていた。


 一方獣人たちは、騎士から奪った長剣や解体作業用の短剣しか持っていなかった。

防具などもない。後で支給する必要があるな。

人相手ならば、その膂力も加わって対処可能だが、素早く動くマーマン相手では、身体も大きく、船内では不利だった。


「こいつら、手練れだぞ」


 黒豹族の男が甲板上でマーマンと斬り結んでいた。

そのマーマンは特別なのか、長い三又矛を持っていた。

海から上がって来た連中だろう。


「こいつら、水没区画から出てきやがった!」


 船底から上がって来た猫獣人が重要な情報を齎した。

マーマンは船底の水没区画に閉じ込めらていたのだ。

それは構造的に外と繋がっていないとの報告から明らかだ。

つまり、マーマンは長期に船で運ぶのには水中に居させる必要があった。

だから水没させていた。


 となると、使役されている魔物か奴隷だろう。

それに対して海から上がって来たマーマンは武装もしていて違って見える。

まさか、原生種と共闘しているのか?


「ぐわ!」


 数の暴力で、獣人たちにも被害が出始めた。

このままではまずい。

種族間戦争になってしまう。

俺が手を出せば簡単に終わる。

だが、そうなると、マーマンが次から次へと襲って来ることになる。

俺はなんとか、彼らと戦わない手はないかと考えた。


 すると、マーマンが甲板上の瓦礫から離れる動作をしたのが目に付いた。

あれは!


「火だ! これを使え!」


 俺はそこらで燻っていた木材を手に取った。

そして、その先端に火魔法で火をつけ、獣人たちに配った。

マーマンが火に怯む。

先程のマーマンも炭になって燻っている木材を避けていたのだ。

これで牽制している間に対処を考えよう。


「待、こいずー


 その時、聞き取り辛いが人語が聞こえて来た。

それは一際立派な三又矛を持ったマーマンだった。


 彼によると――聞き取り辛いので要約する――彼らも仲間を奴隷として教国に拉致されれた被害者だった。

その奴隷にされたマーマン集団が船底の水没区画に居た。

隷属魔法が切れた――魔導砲の攻撃で使役してた奴が死んだ――ので、海水を通して音波で仲間に救助を要請したらしい。

そして、獣人が水没区画へと通じる扉を開けたため、一斉蜂起に至る。


「海神ざま、いっょ」


 どうやら、俺の眷属であるモササウルスが帆船を動かしたのも、マーマン蜂起のきっかけのようだ。


 マーマンは、海神と崇めるモササウルスが俺の眷属と知り、しかも俺が教国の連中と敵対していると獣人たちに聞いたため、態度を一変させていた。


「(魔)王ざまに悪いごどじことした」


 マーマンの長が俺を海神の上の存在だと崇め始めてしまった。

でも、これ以上、襲われないで済んで良かったよ。


 この後、船底の水没区画に閉じ込められていたマーマンを解放した。

そこには、上半身人で下半身魚のマーメイドもいた。

おそらく、教国の奴隷商が求めていたのはそっちなのだろう。

マーメイドは人として見ると美女ばかりだったのだ。

ポロリだしな。

ある種の方たちが好むタイプで間違いない。


 なぜか俺はマーマン半魚人の一族を配下に治めてしまった。

彼らが言うには、外敵との交戦に加えて漁業を行なえるそうだ。


 こうして俺は、棚ボタ的に優秀な漁師を手に入れたのだった。

漁業従事者を移住させないとならないと思っていたので、それは願ったり叶ったりだ。

漁業も行うようになれば、防衛戦力も増強しなければならない。

そうなると、北の海岸にも街を作る必要があった。

やることが増えすぎる。


 それが海中を住処とするマーマンに丸投げ出来るのだ。


「でも、彼らマーマンって魔物だよな?

人魚マーメイドは獣人の扱い?

その差って何だろうな」


 それは人間と魔族の差のように曖昧なものなのかもしれない。

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