第550話 教国の対外戦略は?

 マーマンたちの話によると、教国はマーマンを水中から上陸させる特殊部隊として使っているようだ。

海岸沿いの街など、この特殊部隊による奇襲で制圧されかねない。

まあ、アーケランドには、この元集積指揮所の入江しか海沿いの拠点は無いんだけどね。

獣人たちも守りに就いているし、新たに配下となったマーマンたちもいるので大丈夫だろう。


 この北大陸にある国は大きく6つ。

アーケランド王国、アトランディア皇国、エール王国、グランディエル農業国、フラメシア教国、そして西の国だ。

その他に都市1つレベルの小国が複数存在する。


 皇国の事情は良く解からないが、皇国が接する海は極地だという話から、マーマンも教国の船も活動圏外だと思われる。


 隣国エール王国は海がない。

西隣の西の国を越えると海があるという。

その西の国のことを俺はあまり良く知らない。

今度、瞳美ちゃんに訊いてみよう。

瞳美ちゃんならば、書籍知識で周辺国の事情を知っているはずだ。


 西の海岸は、教国が北大陸の東側なため、中継地点を確保出来なければ、補給の点で進出は難しいだろう。

北周りは極地経由のため無理だし、東から惑星を半周するのはそれこそ大海洋を補給無しで航海しなければならない。


 皇国、隣国エール王国、西の国も今のところ危険は無いだろう。


 残るは農業国だ。

農業国の南は海で、そのさらに南、赤道を越えた先には南大陸がある。

農業国の南部は温暖で、熱帯雨林の原生林が広がっている未開の地らしい。

一応、港のある街が点在しているが、南大陸と交易するほどの造船技術は無い。


 余談だが、なぜ南大陸があると知っているかというと、過去の勇者が残した地図が存在していたからだそうだ。

そのおかげでこの惑星が球体だということも知られている。

だから東に大海洋をずっと進めば北大陸の西側に辿り着くという知識があるのだ。


 話を戻して。

つまり、教国が北大陸の西岸を狙うならば、南ルート一択。

まず最初に農業国の港、あるいは独立小国が危ないということだった。

農業国からは、まだそういった話は伝わって来ないが、この北の海同様に教国の帆船が南の海にも進出している可能性は充分にある。

住民が元々女神教を信仰しているならば、そこから教国寄りの軽い洗脳に至ってしまうかもしれない。


「ということで、まだ教国がマーマンを使役していて、農業国の港を襲う危険があると思うんだ」


 俺は結衣に事情を説明した。

北の拠点ここも守らなければならないが、農業国も危ないというのは間違いないのだ。


「教国だけが進んだ技術を持っているのが困りものだよ。

あれには農業国は太刀打ち出来ないよ?」


 教国の造船技術と魔導砲は、この世界では突出して進んだ技術だ。

その技術は何処から来たのか?

俺たちと同じような召喚者がいて、造船技術者だったのだろうか?

勇者排斥主義の教国が、勇者を使ったというのも疑問が残るが、技術は技術でしかないということだろうか?


 魔導砲は既存技術の大型化のようだけれど、その材料が贅沢過ぎて通常は入手が困難なものだった。

俺はダンジョンでズルをしたから製造出来るけど、教国はフロント団体を使って他国から材料を入手しようとまでしていた。


 帆船にあれだけの数の魔導砲を載せられるのは明らかに異常なのだ。

その分は俺と同じように何処かからズルで手に入れたとしか思えない。

それでも足りないから他国から買おうとする。

それは何のためか?

戦争だろう。教国には、なんとしてでも倒したい国が存在するのだろう。


 あの自称大司教の態度から、小国との戦争は大司教の判断で行って良いとの許可が教国中枢から出ている。

だが、そのターゲットがアーケランドなのか? 皇国なのか?

そして農業国なのか?

今はその時期ではなく、沿岸付近の未開地の占拠や、奴隷狩りが行なわれている程度なのだろう。


 陸路でリュウヤの領地も狙われていた形跡がある。

クララの入信、そして洗脳。あれによって領地ごと骨抜きにされる危険があった。

ある意味、あのタイミングで防げたのは偶然にしろ運が良かったと言える。

となると、残りは……。


「やはり農業国の南部が危ないな」


「農業国もヒロくんが守るつもりなの?」


 それは烏滸がましいと俺も思う。

独立国に対して、俺が守ろうだなんてさ。


「さすがにそこまでは手を出せないよ。

でも、なんらかの協力は可能だと思う。

俺たちにお米を売ってくれている国だし、なんと言ってもノブちんと栄ちゃんが守っていた国だからね」


 教国が侵略を始めたら、参戦する用意はある。

いや、他の国と連合を組んで教国にあたるつもりだ。

あれだけの強力な武器、マーマンの使役、どうみても戦争準備だからな。


「相手が移動する船だから、対抗するにはこちらも船がいるか……」


 砲艦外交というが、それだけの脅威が移動して来るから脅しになるのだ。


 幸い、2隻の帆船の見本と部品がある。

改良して俺たちも対抗手段を持つべきかもしれない。


「でも、魔導砲で撃たれたら、あの帆船じゃ丸焦げだよ?」


 そう、帆船には魔導砲対策が全く無かった。

つまり、独占技術だと奢って、他者が魔導砲を持つと想定していなかったのだ。

たしかに、俺が魔導砲に手を加えて性能を上げてしまったのは事実だ。

そのせいで、1発撃っただけで、燃料となる魔石のエネルギーが尽きた。

俺ならば魔石を交換すれば問題ないが、教国がそれを買うとなるととんでもない金額となる。


 戦争は経済力と経済力の戦いだ。

いくら強力な武器が、いくら強力な軍団があっても、金が無くなれば戦えなくなる。

魔導砲は、強力だが、あまりにも経済的ではないのだ。

それこそ、1機10万円のドローンを1機1億円の対空ミサイルで撃ち落としていては大損なのだ。

そんな戦い方をしていてはいつか金欠で負ける。


「魔導砲、もしかすると対帆船を想定していない、もっと使いどころの違う武器なのかもしれない」


 俺はDPを使ってダンジョンからこの特殊なサイズの魔石を手に入れられる。

だから魔石のエネルギーを使い切っても次がある。

もしかしたら、教国の魔導砲は、示威行動のため、見せかけの武器なのかもしれない。

1発撃って威力を見せつけて降伏を迫る。

その強力な兵器が全部で20門もあるのだぞと。


 使わない武器ならば、帆船の防御力が低くても勝ち目はある。

だから、マーマンを奴隷化して戦力化していたのか。


「岩窟要塞に魔導砲、自動照準自動追尾装置、やりすぎだったかもしれない」


 もう開き直って、そんな示威行動の出来る高性能な船を用意してしまおうか。

魔導砲の威力で戦う気を失わせる。

何も教国の専売特許ではない。


 船を作る、あるいは改造するには乾ドックが必要だ。

それが先になる。

ああ、俺の仕事がまた増えるな。 

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