第548話 帆船を調査1

 交代のために現れたフラメシア国の帆船を魔導砲で焼いた。

船体にいくつか穴が開き、上部構造物が燃えたが、船体は湿っていたせいか燃えずに残った。

帆船はマストも風魔法の推進装置も焼けてしまったので航行不能となっていた。


「このまま放置すると、海流でどこかへ行ってしまうか」


 俺たち召喚勇者にも王国アーケランドにも造船技術はない。

今後、この北の海を開発していくためには、造船技術は手に入れておきたい。

そのお手本となるのが、マストを失った奴隷船と、漂流中の帆船だった。


「コピーするならば、お手本が2隻あった方が良いよな」


「あれのコピーで良いの?」


 結衣が言いたいのは、もっと新しいタイプの船を造ればということだろう。


「造船の知識が無いからね。

船体なんかはコピーするしかないよ。

まあ、知り得る技術、たとえばスクリューなんかの推進装置は改良するかもね」


 帆船を調べる事は教国の技術力を知ることにもなる。

教国が、いきなりこのような帆船を作る技術を手にしたのには、何か秘密があるのかもしれない。

例えば、やつらの側教国にも召喚者がいるとか。


 そこは不死者アンデッド化したドナートヴィチを尋問するか。

実は、彼しか以前の知能が維持出来ていないのだ。

大司教は生きているけど、王都の地下牢だしな。

騎士はもう魔物である死霊騎士になっていて、前世の知能や知識を失っていたのだ。

その他の船員もニューゾンビになっている。

腐った死体ゾンビでは困るため、魔法的な防腐処置が施され、死んでいる以外は人となんら変わりがない。

ただし生前の人としても意識は無い。

扱いは永久奴隷だろうか。


「船員に小船を用意させろ。

帆船に乗り込むぞ」


「大丈夫なの?」


「あそこまで燃えては、抵抗する者もい中の人も無事じゃないだろう。

小船を降ろしたり、海に飛び込んだ形跡もないしね」


「じゃあ私も「やめといた方が良い!」えっ?」


 俺は同行したいと声を上げる前に結衣を止めた。

それは焼けた船上の悲惨な状況を結衣に見せたくなかったからだ。

黒こげの死体。窒息して苦しんだだろう死体の顔を結衣に見せるわけにはいかない。


「斬り込み隊を募るから大丈夫だ」


 だが、死体を見せたくないとは結衣には言わない。

それだけで悲惨な状況を想像出来てしまうだろうからだ。

ああ、しまった。そうなるとゾンビ化するのもまずいな。

そのものの死体が歩き回ることになる。

あれでは損傷が激しくてニューゾンビには出来ないぞ。

諦めるか、スケルトンにするか?


「「「「「我らが同行いたします!」」」」」


 斬り込み隊の獣人たちは直ぐに集まった。

彼らは教国による奴隷化により、家族を、仲間を亡くしており、教国には恨みがあるのだ。

斬り込み隊と言われれば希望者続出だった。

だが、慌てず争わず秩序だって志願して来ていた。

既に自ら最終選考まで終えて、残った20人のようだった。


 小船は2艘用意されていた。

1艘に推進装置漕ぎ手となる船員が4人。

その他乗員を10人乗せることが出来る。

今回は獣人も回復し漕ぎ手が出来るので、1艘につき8人が漕ぎ手になる。

6人がお客さん状態だ。

それが2艘分となる。


 こうしてニューゾンビの船員8人に加え、獣人20人が小船に乗り、燃えた帆船へと向かった。

俺か? 俺はレッドドラゴン纏で空からだ。


 ◇


 空から燃えた帆船に向かうと、意外と火が燻っていた。

どうやら誰も消火活動など出来なかったようだ。

船上に動く者は無し。


「しょうがないな。

【ウォーターシャワー】」


 俺は空から生活魔法でシャワーを撒き、燻っていた火を消した。

どうやら魔導砲8門の直撃はやりすぎたようだ。

もしかすると片舷10門の魔導砲は、命中率が低いからあの数なのかもしれない。


「鍵爪付き縄梯子を準備しました!

投げてもよろしいですか?」


 小船が帆船の舷側に到着し、乗船用の縄梯子をかけると獣人たちが叫ぶ。

本来ならば舷側には丈夫なネットが降ろされて、それをつたって甲板へと上がるのだが、そのネットは焼けて無くなっていたのだ。


「投げるより、俺に渡せ。上から降ろしてやる」


「王にそのようなことを頼めません」


「じゃあこうだ」


 俺は縄梯子を持った獣人を抱え上げて飛ぶと船上に降ろした。


「ほら、ここから降ろすと良い」


「は、はい」


 獣人は仰天して、何か言おうとしたが、そのまま作業に移った。

どうやら俺の行動を正そうとしたのだが、無駄だと悟って諦めたようだ。

鍵爪を船の縁にかけ、その下に縄梯子を垂らす。

それを2つ設置した。


 残る獣人たち19人は、その縄梯子を器用に上って来て、俺の前に整列した。


「船内に生存者が居ないかを確認する。

その際に、風魔法を使える者で船内の空気を入れ替えろ。

火の毒の空気一酸化炭素は知っているな?

窓があれば開けてまわれ。換気に気を付けるんだ」


 魔導砲による攻撃で、船体に穴が開いているので大丈夫だとは思うが、燃えた船だ、気密が高めの所は気を付けないとならない。


「生存者が居たらまず知らせろ。

他の場所から連れて来られた被害者の場合もあるし、教国人でも情報を得なければならない」


 獣人たちが血気に逸って殺してしまう可能性も考えて注意しておいた。

まあ、俺に対する忠誠心が上回っているから、短絡的に殺したりはしないだろう。


「「「「「了解です」」」」」


「4人1組で動け。

では開始だ!」


 獣人たちが船内の調査を始めた。

俺はとりあえず上甲板の黒こげ死体を、闇魔法で不死者アンデッド化してまわる。

外側が使えないのでスケルトンにするつもりだ。


「デュラさん!」


「はっ、ここに」


 俺の影からデュラさんが出て来る。

不死者アンデッド化した後の処理は全てデュラさんに任せているのだ。


「黒こげなので、スケルトンにならば使えるよね?」


「あるいはレイスなどの死霊系ですかな」


 その手もあったか。

だけど、作業をさせるには実体があった方が良いよね。

死体の損傷的に不快にならない程度に。

腐るのと黒こげは精神ダメージが大きすぎる。


「スケルトンで頼む」


「お任せください」


「他も不死者アンデッド化するから頼むぞ」


「ははっ」


 さて。この帆船の残骸は、放っておけば流れて行ってしまう。

どうやって入江の中まで動かすかだが……。


 帆も風をおこす魔導具もない。

当然、スクリュー他の推進装置もない。

この巨大な物体を動かすには、水の中から引っ張るか押すしかない。


「たまご召喚の出番だな」


 実はたまごショップで出ていた卵をアイテムボックスの時間経過庫(遅延)で保存中だ。

孵化直前で時間を遅くして孵化を遅れさせていたものだ。

北の海を目指すにあたって毎日たまごショップを覗いては、めぼしい卵を集めていたのだ。

「こんなこともあろうかと」というやつだ。


 その有力候補の1つが『海で役立つかもしれない卵」だった。

当然のようにご都合主義を期待している。

俺はアイテムボックスから卵を出す。

鶏の卵に近い形。大きさ的には竜卵だ。

これで時間経過が通常に戻るので、5分弱で卵が孵るのだ。


パキパキパキ。


 卵に罅が入る。

その卵が割れ、中から出て来たのは……。


「モササウルス!」


 それは、温泉拠点での魔族勇者との戦いで失ったモササウルスだった。

同じ個体ではないが、またモササウルスを眷属に出来るとは嬉しい限りだ。

今は幼体だが、水に入れば直ぐに5mぐらいになるはずだ。

船を動かす事が出来るだろう。


 一説によると、モササウルスは卵胎生で産み落とされる時が5mらしいが、うちの子は卵から出て直ぐの状態だ。

それでも以前の幼体よりも大きい。

もしかすると、以前はトカゲ卵から出て来たが、今回は竜卵だったから大きいのかもしれない。


「モササウルス、頼むぞ!」


 俺はモササウルスを眷属化して、海中へと放った。

するとモササウルスはみるみる巨大化し、10mぐらいになった。

これも竜卵から出て来た影響だろうか?


 モササウルスが帆船の後ろにまわり、その巨体で押し始めた。

帆船が動き出す。

帆船の進路は入江の入口。

そこに到達したらモササウルスに入江の中へと進路を変えてもらうつもりだ。 


 よし、いいぞ。そのうち造船所や修理用のドックを建設しないとな。

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