第547話 魔導砲発射
いわゆる安息日のため、温泉拠点に建設中の城にいる。
城はまだアンドレが建てている最中だが、外観は建築魔法でほぼ完成し、下の階から順に内装工事が進み、使えるところから使用するようになっていた。
今は3階の寝室まで内装が完成している。
注文した家具はまだ出来ていないが、屋敷で使っていた物を運び込んで皆で住み始めている。
『トントントン』
それはちょうど俺が温泉拠点の城1階のリビングで寛いでいる時だった。
俺の頭に響いたのは、岩窟要塞に配備していたカメレオン6のノックだった。
その岩窟要塞は北の海駐屯地の入江東側の突端にある岬にあった。
カメレオン6は、俺たちが去った後の監視及び連絡要員として北の海岸に赴任していた。
外洋を見渡せる岩窟要塞から、敵船――教国の船だな――の襲来を監視、警戒していたのだ。
「視覚共有、カメレオン6」
魔物である
それに俺が応えることで、何が起きたのかを把握出来るのだ。
「あー、教国の帆船がもう来たのか」
カメレオン6の視覚からは、大海原を航海して来る帆船が見えていた。
俺たちが奴隷船を襲ってから、直ぐに教国に援軍要請が行っていたとして、それはあまりにも早い到着だった。
「おそらく、既に出航していた帆船が辿り着いたのだろうな」
事情を知らないならば、知られる前に対処するべきだろう。
「ごめん、ちょっと出て来る」
俺はカメレオン6との視覚共有を切って立ち上がった。
「北の海に教国の帆船が来たのね?」
俺の呟きを聞いていたのだろう。
結衣が不穏な空気を感じて訊ねて来た。
「ああ、そうだ」
「皆、休みでだらけてるわよね……」
それは、誰を連れて行くのかという確認でもあったのだろう。
「いや、俺ひとりで行く気だったんだけど」
「だめよ。飛竜に乗れるメンバーと一緒に行って」
結衣が頬を膨らませて言う。
どうやら俺に護衛が居ない状況に不満があるようだ。
「向こうには獣人もいるし、魔導砲もあるから。
それにいま、ここには誰も居ないじゃん。
緊急事態で時間がないんだよ」
いま、リビングには俺と結衣以外誰も居なかった。
今から誰かを呼んだのでは、帆船が入江に辿り着いてしまいかねない。
「じゃあ、私がラキと行く。
ヒロくんは仕事しすぎだよ!」
「結衣は飛竜に乗れないし、護衛でもないだろ」
「1人よりマシ!」
こうなったら結衣も引かない。
時間もないし、仕方がない。
「しょうがないな。【眷属遠隔召喚】ラキ、北の海指揮所へ」
俺は結衣の胸に収まっているラキに触れて疑似転移した。
疑似転移には、別の眷属を同行出来ないため、ラキをメインにしたのだ。
俺が纏うレッドドラゴンは、移動先で召喚すれば良いのだ。
行先はカメレオン6が待つ岩窟要塞ではなく、岩窟要塞を統括する指揮所だ。
転移用の部屋が特別に用意されていて、誰かが邪魔になるということが無いようになっている。
「王よ、いかがなされた?」
転移部屋を出ると、指揮所に詰めている獅子族の男性が慌てて駆け寄って来た。
この防衛拠点のリーダーとなっているゴラオンだ。
緊急事態だと察したのか、同行している初対面の結衣のことには触れない。
「教国の帆船が来た。
この入江を見たら攻撃して来る可能性が高い」
「もしかすると、次の船が来る時期だったのかもしれませんな」
ゴラオンが言うには、奴隷船が満杯になりそうだったために、次の船が交代で来るような話があったということだった。
彼も奴隷船の船倉に詰め込まれて弱っていたため、今になってそのような話を思い出したという。
「とりあえず、俺も纏をしなければな」
ラキで疑似転移して来たので、レッドドラゴンを先に纏うことが出来なかったのだ。
俺は指揮所を出て、レッドドラゴン纏を唱える。
一応、事故を考えてオープンな場で纏うようにしているのだ。
ドラゴンの巨体で何かを潰してしまったら困るからだ。
「【眷属召喚】レッドドラゴン、【眷属纏】レッドドラゴン!」
眷属召喚と眷属纏を連続して唱えると、異空間からレッドドラゴンが出て来ると同時に光の粒子となって俺の身体に纏わりついて赤い鎧となった。
「よし」
俺は竜頭の顔覆いを上げて顔を出し、指揮所へと戻った。
これから魔導砲の威力を確かめなければならないのだ。
指揮所には、魔導砲の遠隔装置が備え付けられている。
その遠隔装置はボタンと画面で構成されていた。
それが2セットある。
2つの画面には別々の距離と角度から帆船が映っている。
1つの画面が帆船が掲げる国旗にズームする。
この世界の船にも国を表す国旗を掲げる義務があるが、この船はフラメシア国の旗が掲げられていた。
フラメシア教国ではなくフラメシア国の国旗だ。
「この画面は?」
結衣が不思議そうに見ている画面は魔導具で、カメレオンの見ている映像を受信している。
カメレオン6とカメレオン7の視覚映像だ。それで画面が2つしかないのだ。
これは、視覚共有のスキルを魔法陣に転写することで映せるようになっている。
入江の先端にある2つの岬、それぞれそこにカメレオンたちが配備されているのだ。
「カメレオンたちの視覚だよ。
彼らのおかげで三角測量が出来るんだ」
カメレオンたちには自分たちが向いている方角や上下角を示す魔導具が与えられている。
その観測場所と角度から、ターゲットの詳細な位置がわかるのだ。
敵の位置が判明すれば、そこに魔導砲を自動照準出来る。
魔導砲の魔法が直進しかしないので直接照準が容易なのだ。
「国旗から交戦国の船――敵船と認定。
岩窟要塞の魔導砲で排除する」
「現在、1番2番19番20番の4門しか狙えません」
オペレーターの熊族の女性が発射可能の魔導砲の番号を読み上げる。
これらの番号の魔導砲は外洋に面している。
それが自動的に向きを変えてターゲットに照準を合わせる。
岬の内側に設置されている魔導砲は死角でまだ撃てないのだ。
「もっと引き付けてから撃つ」
敵船は、自分たちの仲間がやられたことを知らないはずだった。
それを知るのは入江の中が見えた時だ。
そこにはマスト2本を切り倒された、奴隷船が見えるはずだからだ。
さすがにマストが無ければ攻撃されたと気付くだろう。
それは敵船が東側の岬を回り込むその時だ。
「3番4番、照準合いました。
1番2番19番20番自動追尾順調に作動」
敵船が東から向かって来るので、東側の岬の内側が死角になる。
内側の奥に魔導砲を配置したのは失敗だったかもしれない。
そこが照準出来るようになるためには、敵船を入江の中まで誘い込む必要があった。
それは現実的ではない。
「5番6番、照準合いました。
1番2番3番4番19番20番自動追尾順調に作動」
ここらで良いか。
「1番から6番、19番に20番発射!」
「発射します」
発射ボタンはゴラオンが押した。
奴隷船から降ろされ、俺がちょっと改良を加えた魔導砲8門は、正確に敵船を直撃し火あぶりにした。
「ああ、これは来なくて良かったわね」
それは結衣が呆れるほどのワンサイドゲームだった。
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