第542話 洗脳汚染はどこまで?

「これはクララだけの問題ではないな。

教団の教えというか洗脳が領民の間に浸透している可能性があるぞ」 


「ああ、あれが教団の洗脳によるものならば、民衆を煽って暴動を起こされる危険もある。

直ぐに調べるとしよう」


「調べるにしても、洗脳や精神干渉の有無が判らないとな。

闇魔法が使える腐ーちゃんか、聖なる力の麗を連れて来るか……。

いや、腐ーちゃんは体調不良だし、麗の存在を教国に知られたくないし、どうすれば良いのか……」


「【鑑定】持ちならば、状態異常を見られるよ?」


 さゆゆが困り果てていた俺とリュウヤの会話に入って来た。

たしかに【鑑定】でステータスに状態異常があれば、そこで洗脳の有無もわかるだろう。

問題は、それが出来るレベルの【鑑定】スキル持ちがいるかどうかだ。


「だとしても、そんな都合の良い人物がどこに?」


 そう俺が言うと、さゆゆは得意そうに胸を張った。

つい目が行ってしまったが、他人の嫁なので感想は差し控えさせてもらう。


「実は私の【詳細分析】は鑑定の上位スキルなのだ」


「あれか! リボーンするための全ての情報が得られるという、あのスキルのことか!」


 死んでも人体をその魂ごと再生できるという【再構築】、その元となる情報をさゆゆは【詳細分析】から得ているという。

そんな細かい情報が得られるのならば、たかが状態異常など簡単に知ることが出来るということだろう。


「そうよ。射程距離が短いから相手に近付かないとならないけどね」


 これは期待出来る。

スキルによっては俺の【洗脳】みたいに接触しなければ有効でないものもある。

触らなくても良いならば、複数を同時に見ることも出来るかもしれない。

そして、その同時処理可能な情報量は何人もの人の詳細情報を保管できるものなのだ。


「リュウヤ、さゆゆに任せても大丈夫か?」


 俺はリュウヤが大切な嫁を危険に晒されることを拒むかと思って訊ねた。


「俺が付きっ切りで護衛するから問題ない」


 そんな俺の懸念をリュウヤは自身満々に否定した。

格好いいな。この夫婦。


「頼もしいな」


 リュウヤの領地は広いが、飛竜に乗れば上空から調べて回ることも可能だろう。

それに領主命令を使えば人を集めることもできる。

そこらへんの運用はリュウヤに丸投げで良いな。


「後は頼む。

おそらく、この領地が一番教国の影響を受けているはずだ」


「ああ、そうだろうな。

今回、クララは人助けの団体から教国の布教組織――教団に繋がってしまった。

そういった一見無害に見える団体から調査していくつもりだ」


 さすがリュウヤ、頼もしい限りだ。

入口になるフロント団体をまず抑える。

そうすれば、新たな被害者を増やさないで済むというわけだ。


「ああ、しまった。

そういや教会の建設はNGにしたけど、賃貸物件での布教は認めてしまったんだった」


 俺は教国からの教会建設の要請を、賃貸ならば良いと譲歩してしまっていた。

このような洗脳事案が出たとなると、これは早急に禁止にしないとならないな。


「悪い、これから王城に帰って政策の訂正をしないとならない。

ここの領主であるリュウヤには王として先に命じておく。

教国のアーケランドへの布教活動は全面禁止だ」


「理由はどうする?

急に方針を変えては、納得してもらえないぞ。

不満から信者の暴動が起きると困る」


「教国の大司教を称する男がやらかしたからだと言っておけ。

疑いが晴れるまでは布教活動禁止だとな」


 あの大司教、奴隷狩りはもちろん、他でも何かやらかしている可能性が高い。

後ろ暗いことばかりある教国ならば、疑心暗鬼になって追及が弱まるに違いない。


「それに、その暴動に参加する信者こそ、洗脳されているかを調べる絶好のチャンスだ」


「なるほど」


 リュウヤが納得したので、ここでお暇することにした。


「じゃあな、頑張って領主してくれよ」


「お前も王様頑張れよ」


「ははは」


 俺は乾いた笑いを残してその場を去った。

後ろではリュウヤがクララを抱き締めて慰めるところが見えた。


「【眷属纏】カブトン、【眷属遠隔召喚戻し】カブトン、アーケランド王城転移バルコニーへ」


 俺はカブトン纏で転移バルコニーへ戻った。

これで2時間、カブトンは疑似転移出来ない。

だが、ここには待機させていたレッドドラゴンがいる。

しっかりクールタイムは消化されているはずだ。


「カブトン纏解除」


 そして、先程発覚した教国による洗脳騒動を宰相に相談するため、王城内の俺の執務室へと向かった。

王様として、宰相の執務室に訪問するわけにはいかないのだ。


「宰相を呼べ。俺は執務室に向かう」


「はっ!」


 この場合、俺は騎士や使用人に命じて宰相を呼ばなけばならない。

それが王様としてのマナーとなる。

いろいろ面倒くさいのだ。

転移バルコニーには警備の近衛騎士が常駐している。

彼に宰相を呼んでもらった。


 俺が執務机につくと直ぐに、宰相であるタルコット侯爵が現れた。


「火急なご用件と伺い馳せ参じました」


「すまんな。教国に関してなんだが、何か聞いているか?」


「はっ、自称大司教と違法奴隷の件ですな?」


 さすがタルコット侯爵だ。もう知っていたか。


「そうだ。それに加えてジャスティン卿リュウヤの側妃が教団に洗脳されるという事件があった」


 リュウヤはアーケランドではジャスティン卿と言った方が通りがよい。

領地の名前が決まったら、そちらで呼ぶのだが、まだ決まってないんだよな。


「なんと!」


「どうやら、教国との関係を隠して別団体として布教活動をしていたようだ。

そこで一旦、教国の布教活動は禁止とする。

理由は大司教がやらかしたからだと言っておけ」


 大司教は複数いるが、あの大司教を預かっていることは伝わるだろう。

それで教国には察してもらう。


「承知いたしました。

おのれ教国! 貴族の側妃に洗脳など、宣戦布告に等しい!」


 宣戦布告ならば、あの大司教から受けてるけどね。

なんでも神に誓った宣戦布告は、神託により本国の教皇にも伝わるのだとか。

だが、あの大司教の意識では、戦争相手国は北の海を領する田舎領主ということになっているだろう。

こちらの準備が整うまでは、アーケランドが宣戦布告されたことは黙っておいた方が良いな。

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