第540話 リュウヤに伝える

 翌日。風曜日。

昨夜セシリアから部屋に寄って欲しいと言われ、そのまま泊まってしまった。

けして欲望に負けたわけではなく、翌朝から王都で仕事があったからだ。


「【レッドドラゴン纏】、【遠隔召喚】レッドドラゴン、訓練ダンジョンマスタールームへ!」


 そう、訓練ダンジョンで魔導砲の素材集めをするのだ。

と言っても、俺が直接魔物を倒して素材を得るのではない。

特定の場所、特定の魔物を倒すと、目的の素材をドロップするように、DPを使ってダンジョン設定に変更を加えるのだ。

それを訓練と称して騎士団に討伐させ、素材を国に納めさせるのだ。

冒険者を使うと、素材を買い取らなければならなくなるからな。

なので、国から給料の出ている騎士や兵士たちに仕事として素材を集めさせるのだ。

まあ、その特定の場所には彼らしか入れないようにするし、倒せば訓練になるちょい強めの魔物を設定しているので、騎士たちも楽しく訓練が出来ることだろう。


「よし、これで良いだろう。

あとは騎士団に命令を出しておけば素材回収は完璧だな」


 DPは消費するが、その天文学的数字の残高に比べれば微々たるものだ。

むしろ大人数の騎士団がダンジョンに入ることで、DPが稼げている。


「【遠隔召喚戻し】レッドドラゴン!、王城転移バルコニー」


 マスタールームから王城の転移バルコニーに戻る。


「【纏解除】」


 王城に戻り、レッドドラゴン纏を解除した。

王城には騎士団による素材回収を指示しに来たのだ。


「……という感じで騎士団に素材回収を任せる。

これが命令書だ。軍務卿に渡してくれ」


「かしこまりました」


 この後、直ぐに出かけなければならないので、昨晩用意していた命令書を軍務卿に渡すように指示を出す。

どの旅団が動くかは、軍務卿に丸投げだ。

最適な者たちが行くように調整してくれるだろう。

王はそこまで細かく指示する必要はない。

むしろ、王が指名などをすると、それが利権や僻みを産んだりするため、王が直接関与しない方が逆に良いのだ。


「【カブトン纏】、【眷属遠隔召喚】カブトン、リュウヤの領地へ!」


 レッドドラゴンをダンジョンへの疑似転移で使ってしまったので、レッドドラゴンは2時間の疑似転移待ちクールタイムに入ってしまっている。

なので予め召喚して王城転移バルコニーで待機していたカブトンを纏い、疑似転移したのだ。

目的地はリュウヤの領地。実は俺も領地の名前を知らない。

領地の命名権はリュウヤに預けてあるので、決まったならば知りたいとことだ。

その領地の名前がリュウヤの伯爵としての家名になるのだ。

本名のキムラ領でも良いのだが、そこは本人次第ということになっている。


 リュウヤの領地は、アーケランド王国の東端、フラメシア教国と国境を接する地だ。

一応、勇者排斥論を捨てた教国は無害という判断だったのだが、裏ではまだテロ集団を抱えているとか、今回奴隷狩りや魔導砲の存在が発覚したため、一気に敵国認定されるに至った。

そこと相対しているなんて、一番やっかいな領地になってしまった。


「さすがに直接伝えるのが誠意だよな」


 そのため俺自身がリュウヤの領地にやって来たのだ。

ここへは領地を没収する時と、リュウヤを送り届ける時の2度来ているため、俺の疑似転移が可能だった。


 リュウヤの領地は、アレックス派だったために取り潰しにあった伯爵家の領地だった。

悪徳領主だったため、新領主のリュウヤは民衆に好意的に受け入れられている。

その伯爵家の名前が領都の名前になっているのだが、そこは新家名に準じて変更されることになる。

領主館がそのまま残っていたため、リュウヤもそこに住んでいるはずだ。


「【カブトン纏解除】」


 さすがに虫人間が訪ねて来たら、門番も戸惑うだろう。

なので、纏を解いて人だと示す。


 ひと悶着あったのは省略し、やっとリュウヤと会うことが出来た。


「どうした? 急に?」


 一応俺が王様でリュウヤがその配下の伯爵閣下だが、俺たちの間に敬語は無い。

王城内とか特別な場所では配慮してもらうが、その他ではこれで良いのだ。

カドハチともそんな関係で居たかったのだが、彼は実直故か明確な身分の線引きをして来た。悲しいことだ。


 リュウヤは俺を領主屋敷に招き入れ、応接室の上座に案内した。

そこに遠慮せずに座る。

するとリュウヤの家令が素早く紅茶を配膳する。

その紅茶を飲んで落ち着いたところで話し始める。


「リュウヤに謝らなければならない。

この領地は教国と国境を接しているだろ?」


「ああ、それがどうした?」


 リュウヤが探る様な声になる。

何か掴んでいるのか?


「教国との戦争の兆しがある。

実際、大司教と自称する者から宣戦布告を受けている。

そんな領地に赴任させてしまった。」


「それは問題ないが、宣戦布告などなんと無謀な……」


 あれ? 違う? 戦争の兆しを掴んでいたわけではないのか。


「それが、どうやら無謀でもないようだ。

教国は、最新兵器を持っていたんだ。これだ」


 俺は応接室の床に魔導砲を出した。

それが出せるぐらい広い部屋で良かったよ。

前伯爵が不正で得たお金で無駄に広くしたおかげだというのが微妙だが。


「巨大な魔法の杖か? 魔導具?」


 リュウヤは、これも知らなかったか。


「まさに魔法を発射する魔導具だ。

これを教国が持っている。

帆船1隻にこれが20門搭載されていた」


「大量破壊兵器になるな。

これを陸でも使われたら、戦争が変わるぞ」


「さすがに帆船だから、この大きさでも搭載出来たのだろう。

これを運ぶ馬車や、そのまま撃てるような戦車はまだ実用化されていないはず。

だが、分解した状態で部品ごとに運ばれ、戦場で組み立てるという運用は可能だろう」


「戦地で据え置き型の設置か……」


 リュウヤもその対策に頭を捻っている様子だ。


「そこは教国側を常に監視してもらいたい。

魔導砲設置の兆しがあったら、撃たれる前に破壊するべきだ。

それと、魔導砲はこっちでもコピーが可能だ。

それを国境砦に配置して、対抗しようと思う」


「まさか、コピー出来たのか?」


「まだ材料を集めているところだ。

だが、作れるだろうと確信している」


「そうか……」


 ん? 朗報のはずなのに、なぜリュウヤは落ち込む?


「どうした? 悩み事か?」


「うん、まあ……」


「なんだ言ってみろよ」


 俺の説得にリュウヤが躊躇いながらも口を開いた。

結構深刻な様子だ。


「身内の話で恥ずかしいんだが、クララがフラメシア教に入信してしまった」


「なんだってー」


 クララはリュウヤの側室で、アーケランドの農村の出だ。

まさか、騙されて壺とかを高く買わされているのか?


「最初は人助けの慈善事業の団体を手伝う程度だったらしいんだが……。

その人助けにはお金が必要だと、いつのまにか伯爵家の金に手を付けて献金していた……」


 うわー。カルトの手口じゃんか。

入口が慈善事業というのが質が悪い。


「どうするつもりだ?」


「脱会が無理ならば離婚かな」


 家の金を勝手に持ち出させるのは、既に宗教活動を逸脱している。

その金で魔導砲の材料を買っているのだろうか?

それと、教国の裏教義では、まだ勇者排斥を捨てていないはずだ。

勇者であるリュウヤにいつ狂信者となったクララが襲い掛かるかわからないぞ。

これは、強硬手段も取らざるを得ないかもな。


「さすがに身内が入信は、これから戦争になりかねない相手だからまずい。

リュウヤ、この世界でしか出来ない方法もあるがどうする?」


「なんだそれは? その方法で解決するならば何だってやるぞ」


 リュウヤのやつ、嫁が入信で相当参っていたようだぞ。

ここは非人道的だが、あれを使うしかない。


「洗脳で教国嫌いにさせよう。

人助けという行為は否定しないけど、そのお金が目的外の人殺しに使われるかもしれないんじゃ、これ以上はまずいだろ」


「そうか、教国に洗脳されている可能性もあるのか!」


 たぶん、洗脳というよりも、思考を誘導する手口があるのだろう。

そうなると、こっちの洗脳の方が悪質に見えるな。


「教国の教義しか頭にない状態を洗脳で上書きしてやろう。

そして、違う方法で、目に見える形の人助けをさせてあげれば良いんだよ」


「そうだな。人助けは他でさせれば良いんだよな」


 俺たち2人は、クララを救うために洗脳を使うことに決めた。

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