第539話 教国の情報を得る
魔導砲の仕組みは簡単だった。
魔力の元となる魔石、そのエネルギーを火魔法に変換する魔法陣、その触媒と発信体となる魔宝石、それらを纏めて魔力を伝導する構造材で構成されていた。
錬金術、付与魔法、陣魔法を使用し材料を揃えれば、俺でも作れる代物だった。
その材料が手に入らないのが逆に問題なのだが。
それはダンジョンに潜らなければ手に入らない……。
「あ、訓練ダンジョンのDPで手に入るんじゃね?」
俺はひょんなことで王都にある訓練ダンジョンのマスターになった。
おかげで、ダンジョンの富を自由に出来るようになった。
自分たちに都合の良いようにドロップ品を制御したり、経験値が高く討伐が容易な魔物の出現確率を上げたり出来る。
長く放置されていたため、保有DPがとんでもないことになっていたおかげだが、仲間の訓練や戦争で疲弊したアーケランド経済を回復するために利用させてもらっている。
つまりそのDPを使って、ダンジョンマスターの力で必要な素材を手に入れれば、魔導砲などいくらでも作れるということだった。
砲台の数は多い方が良い。
布教という大義名分で侵略し、これだけの兵器を量産していたなんて。
今はこっそり人攫いをしているが、いつかその力を他国に向けるに違いない。
海岸の集積所改め救護所は、施設的、人員的、物資的にも満足のいく状態となった。
魔導砲も、この海岸から遠隔操作出来るようにしておいた。
もし教国の帆船がやって来たとしても、岩窟要塞に据えた魔導砲と飛竜がいれば、救護所が攻撃を受ける前に沈めることも出来るだろう。
「ということで、俺は一度王城に行って来る。
さすがに、教国がこの事態を把握するのは当分先だと思うけど、たまたま帆船が来るタイミングだったなんてことも有り得る。
その時はよろしく」
「ちょっと! 何がその時はよろしくよ!」
あの捕虜とした自称教国の大司教も掴まれて一緒だ。
転移先はアーケランド王城の転移専用バルコニーだ。
「いかがなされたのですか!?」
俺が夜になって転移してくるのは稀な事だった。
つまり、王城警備をしている騎士たちにとって、それは緊急事態を意味していた。
まあ、緊急と言えば緊急かな?
「教国の動きを知りたい。何か報告は上がっているか、担当の者を呼んでくれ。
それとこいつは教国の大司教を名乗っている捕虜だ。
後で尋問するので牢に入れておいてくれ」
「承知いたしました」
転移バルコニー警備の騎士隊長が部下を走らせる。
そして数人の騎士がわらわらと来て自称大司教を連行した。
俺は、そのまま執務室に向かう。
そして、執務室内に入って直ぐにドン引きした。
「うわ、机の上に未決済の書類が……」
一応、これは3日後に処理するということだったはずだ。
だが、俺以外は通常と同じスケジュールで動いているのだ。
急に書類が止まるわけでもないのだ。
俺は書類の山を見なかったことにして、教国担当の情報官の到着を待った。
たぶん、既に帰宅したところを呼び出されているのだろう。
「旦那様、お会いしたかったですわ♡
今日は急にどうされたのですか?」
俺が王城に転移して来た様子を侍女が見ていたのだろうか?
俺が執務室に到着して直ぐにセシリアがやって来た。
セシリアは、執務机の脇にある応接セットのソファーにちょこんと座る。
いつもの俺ならば、今夜は温泉拠点に帰っていて、また朝に戻って来るシフトだ。
寂しい思いをさせているので、いつか俺の執務室も彼女の居室も温泉拠点の城に移したいと思っているところだ。
「探索先で問題があった。
なんとフラメシア教国の帆船が北の土地を侵略していたんだ」
「え? あの教国がですか?」
セシリアが驚くのも無理はない。
教国はアーケランドとの戦いに屈し、属国化されないようにと腰抜け外交に終始していたのだ。
ただ、利用価値もそんなに無かったことと、宗教という扱いにくい面があったために、教義の一部を変えさせるだけで、そのまま放置されていた。
まさか、その裏で侵略行為をしているなどとは思ってもいなかったのだろう。
王女がそんな認識ならば、アーケランドの情報部も、大した情報は持っていないのかもしれない。
「魔導砲というものを知っているか?」
「いいえ」
「火魔法を発する魔法の杖があるだろう。
あれを大型にしたものだ。
あれが戦場に出て来たら、今のアーケランド軍の装備では歯が立たないぞ」
「まあ大変。勇者様たちでも勝てないのでしょうか?」
ああ、なるほど。
アーケランドは、勇者の力で教国を抑えて来たから、危機感が薄いのか。
全て勇者様がなんとかしてくれる、という感覚が根強いのだろう。
その平和維持のために、今までどれだけの召喚者が血を流して来たのだろうか。
元の世界に帰れない割には、生き残ってる召喚者が少なすぎる。
「勇者も人だからな。
不覚を取れば危ないかもな」
「まあ、怖い。旦那様もお気をつけくださいね」
ちょっと恐怖を煽り過ぎたか?
俺が居なくなったらと涙目になっている。
新たな勇者召喚が出来ない中で、教国が強力な武器を得たとなれば、それは怖いだろうな。
ああ、だから教国は勇者排斥を推進するのか。
勇者さえ居なければ、教国が世界を支配出来るって事なんだな。
「大丈夫だ。
こちらも同じ兵器を持てば良い。
そちらの確保は既にあてがある」
「まあ、良かった。
さすが旦那様ですわ♡」
とりあえず王城据え付けの魔導砲は早急に配備するべきか。
あと、国境を接している貴族領……あ、リュウヤの所じゃないか。
魔導砲は大型帆船だから運べたようなものだが、これを地上でも運用出来るようになれば、矢面に立つのはリュウヤになるのか。
これはまずいな。
「失礼いたします。
情報局長官がお見えです」
執事がセシリアとの会話が途切れたタイミングで情報局長官の来訪を告げた。
教国担当の情報官を呼んだのだが、最も上の上司が来てしまったようだ。
悪いことをしたな。
「入れろ」
俺は執事に頷くと入室許可を出した。
「セシリア、今は下がっていてくれ」
「後で寄っていただけますか?」
「ああ、必ず」
セシリアが退室するのと入れ替わりに情報局長官が入ってくる。
「教国のことでお呼びと伺い、参上いたしました」
「帰宅していた所を済まないな。
緊急の案件だ」
「もったいないお言葉。
我らはそのために居るのです。
お気になさらないでください」
「わかった。
教国の動き、何か掴んでいるか?」
「教国の動きですか?」
情報局長官が怪訝な顔をする。
どうやら何も掴んでいないようだ。
「北の海岸に教国の帆船が上陸し、奴隷狩りをしていた。
ああ、その土地は俺の直轄領だ」
本来、魔の森に連なる北の海岸はどこの国のものでもない。
俺が個人的に領有を主張しているだけだ。
むしろ先に到達した教国に領有権があるかもしれないが、そこは獣人たちを救うため、魔の森は全て俺の直轄領ということで拡大解釈しておく。
「なんと! それは戦争行為となりますぞ」
「ああ、ご丁寧に教国の大司教を名乗る人物に宣戦布告までもらった。
その人物を連れて来ている。本物か確認してくれ」
本物だと確信しているが、証拠は押さえておきたい。
「かしこまりました」
「教国にも探りを入れてくれ。
大司教は国を代表して宣戦布告出来るのかと」
自称大司教が宣戦布告して来たということは伏せておいた方が良いだろう。
だが、その権限の有無は重要なカードになる。
「そして、教国が戦争準備をしているか確認して欲しい」
「直ぐに指示を出しましょう」
「ああ、それからフラメシア国という国は存在しているのか?」
「把握しております。
教国の宗教活動と離れた部分を担当する表向きの国家のようです。
汚いことも行ないますので、それを教国がやったとするのは困るために作った国でしょうな。
実体は同一だと認識しております」
やはりそうか。
今回の侵略行為や宣戦布告も、フラメシア国がやったことと逃げるつもりかもしれないな。
「
いつ教国からの侵攻があるかわからん。
いつでも戦える準備をしろと、軍務卿に伝えよ」
俺の命を受け執事が直ぐに書面を作成する。
それに署名し玉璽を押す。
これにより、アーケランド王国はフラメシア教国を敵国として認識し警戒することとなった。
教国には魔導砲を陸上移動させ展開する技術はまだ無さそうだ。
それが実用化されるまでに、魔導砲に対抗できる装備を整えなければならないな。
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