第538話 看病と防衛力増強
当初の予定では攫われた獣人たちを獣人の村に行かせ、そこでの生活続行は難しいと納得してもらって、俺が作る街への移住を考えてもらうつもりだった。
だが、人族に恨みを持つ獣人たちとの間に、これから発生するであろう諍いを回避するために、獣人の村からウルドを調停役として呼んだところ、彼も移住したいという話になってしまった。
奴隷船に乗せられていた獣人たちはウルドが説得してくれるという。
ならば俺は、説得後に直接温泉拠点に作った街へと獣人たちを転移させれば良いだけだ。
獣人の村を経由しないで済むので、転移回数が減って良い事尽くめだ。
「いや、この状態だと、まず看護だと僕は思うぞ」
帆船から獣人たちを移送して来た紗希が異を唱えた。
帆船に積まれた獣人たちは、荷物と同じ扱いを受けており、人ひとりが寝そべるサイズの棚に、整然と押し込まれていた。
食事も満足に与えられず、ほぼ水のみ、それも排泄物垂れ流しの状態で鎖に繋がれていた。
そんな劣悪な環境だ。帆船から救出されたと言っても、そこから療養が必要な者が大半だった。
「一時待機所のつもりだったけど、これは救護所になるな」
雑魚寝状態で看病される獣人たちを見て、思わずそう口に出てしまった。
言うとはなしの発言だったのだが、それを
「食糧も回復薬もヒロキのアイテムボックスにあったから良かったけど、看護をする手が足りないわね」
ここで元気なのは俺と探検隊の5人、そして集積所の檻に捕まっていた10人ほどの獣人だけだ。
その人数で110人の獣人の看護をしなければならない。
解放され帆船上で武器をとった獣人たちも命がけの空元気だったのだ。
そこは獣人の凄さというところだろう。
加えて俺は、いつ来るかわからないフラメシア国の帆船を迎撃出来る体制を整えないとならなかった。
俺はその作業に集中することになる。
さらに夜には王城まで行って、フラメシア教国を探るように手配しなければならない。
「そこで、
俺はデュラさんに頼んで、デュラさん配下となっていた
獣人たちは嫌がるだろうが、ここは
「見た目は死人っぽくないのね。
その鎧は脱げないの?」
「どうなの? デュラさん?」
「我が君、鎧含めて死霊騎士という扱いであります。
脱ぐことは不可能ですな」
そうなると、自分たちを捕まえ虐待した奴らという認識も含めて、かなり獣人たちに嫌がられるな。
「もー。しょうがないなぁ。
40人ならば村まで連れてけるよ?
そっちで看病したらー?」
陽菜の提案は獣人の村に陽菜が転移で病人を連れて行くということだった。
「いや、獣人の村には40人も受け容れられる建物がない。
俺が建物を作りについて行ったら、こちらの作業が困る」
「そっかー。それなら陽菜がこっちに来なければ良かったね。
来てなければ、向こうから手伝いを連れて来れたのにー」
「それだ!」
獣人の村から遠隔召喚したから、ハッチを獣人の村に戻すことが出来る。
これに陽菜を便乗させれば、クールタイムなく陽菜の転移で手伝いを連れて来れる。
陽菜が転移で獣人の街に行ったら、2時間は戻って来れなかったので、これはやる価値がある。
こちらに建物が必要だが、どうせ防衛拠点を作らねばならないのだ。
「ハッチと陽菜を獣人の村に戻す。
陽菜は、看病のための人員を要請して、転移でここまで戻るんだ」
「あ、そうかー。でもハッチが困らん?」
陽菜が言うのはハッチに召喚のクールタイムが発生するということだ。
「2時間待てばこっちに呼べるから大丈夫だ。
それに獣人たちはハッチが魔物だからと危害を加えないだろ?」
俺の昆虫系眷属には、バンダナが結んである。
それで野生の魔物と区別出来るのだ。
「そっかー。間違えないように言っとく」
そう言うとハッチの脚を陽菜が掴む。
「【遠隔召喚戻し】ハッチ、獣人の村へ」
戻しの疑似転移でハッチと陽菜が獣人の村へと戻った。
陽菜が戻るまではしばらく時間がかかるだろう。
獣人たちに、この集積所と獣人たちの現状を知らせ、看護をする人員を募るのだ。
その時間がどのくらいかかるかは検討もつかない。
なので、その時間を埋めるため――いや時間がもったいないので俺は違う仕事をすることにした。
それは、この集積所改め救護所の防衛体制を築くことだった。
帆船を海岸に座礁させ、そのまま砲台にすることも考えたのだが、未だ獣人救出中である帆船は動かせなかった。
船底に穴でも開いてしまえば、船倉の底の方に積まれた彼らに被害が出てしまうからだ。
なので、帆船に積まれている武器がいかなるものかを調べることにした。
「航海時代の帆船の火薬式大砲のように設置されているな」
それは帆船の舷側に開いた穴に2段に設置されていた。
見た目は巨大な魔法の杖、その根元にエネルギー源となる魔石と制御用の魔法陣が描かれた箱が付いていた。
RPGで良く見る杖に箱が付いている感じだ。
杖の先には魔法を発現する宝石のようなものが見える。
その大きさが尋常ではない。
「片舷10門、合計20門とは、この世界では要塞なみか?」
こんな兵器はアーケランド王国でもアトランディア皇国でも見たことが無い。
両国は個々の能力により魔法や剣技で戦っていた。
それが魔導具による飛び道具とは、時代が進み過ぎている。
「まさかの教国がこのような技術を持っていたとは」
アーケランド王国に刃向かえないほどの国という認識だったが、改める必要があるようだ。
いや、これだけの技術をもってしてもアーケランド勇者に敵わなかったのか?
教国は要警戒だな。リュウヤにも気を付けるように言っておかないとな。
俺はその魔導具――便宜上魔導砲と呼ぶことにした――を帆船から外し、アイテムボックスに入れた。
これを入江を囲むように崖に穴を掘って設置しよう。
相手が船ならば、入江に入ったとたんに十字砲火で撃退出来るだろう。
なんせ、相手は同じ方向かその逆にしか砲火を集中出来ないのだ。
「戻ったよー」
そんな魔導具のための岩窟要塞を作っていると、やっと陽菜が帰って来た。
さすがに獣人説得に時間がかかったようだ。
それでもクールタイム2時間よりは早かった。
獣人たちの看護は待ったなしだ。時間が節約出来て良かったよ。
陽菜は看護要員の獣人女性20人を連れて来た。
これで獣人女性25人で110人の獣人患者の看病をすることが出来るようになった。
元気な獣人男性5人とウルドには俺たちとの間を取り持ってもらっている。
「看病は
俺は岩窟要塞を完成させよう」
夜になったら、一度王城へ戻ってフラメシア教国に探りを入れておこう。
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