第532話 死んでもアンデッドにして利用する

 やってしまったのは仕方がないが、船の位置などまだ訊きたいことは沢山あった。

まあ、飛竜で空から向かえば船など簡単に見つかるだろうが、奇襲を望むのならば、手前で降りてひっそりと向かった方が良いに決まっている。

そのための案内はまだ必要だった。


 オスカルの闇落ちも心配だったが、人死にに責任を感じている様子はない。

戦って死にかかった犯罪者に止めを刺したという、悪いことをしていないという思いのおかげなのかは良く解からない。

だけどその行動には、もう元の世界に帰れないという諦めがあったのは事実だろう。


 さて、この後どうしようか。

死体に案内させるわけにも……。

ん? 死体に案内?


「そういや闇魔法に死霊術があったな」


 死霊術は、魔族勇者が使用して来たことがあった。

あれはギフトスキルによる強力なもので、死んだ魔族勇者のスキルまで使って見せたが、この奴隷商を操る程度のことは俺の闇魔法でも出来るかもしれない。

以前ならば闇落するかもという懸念が付き纏ったが、今はそんな気はしていない。


「あ、まさか」


 オスカルの闇落ち回避も、俺と同様にアレックスの欠片を除去したおかげかもしれない。

依り代の魔王化を促進して自らの身体として育てる。

それが闇落ちを促していたのかもしれなかった。


 アレックスは初見の俺の事を召喚勇者だとは思っていなかった。

もし依り代の1人だと気付かれていたならば、今の状況は変わっていたかもしれない。

いや、俺だけステータスがバグっていたから、回避出来たのかもしれない。

そこはどちらでも良く、結果論として助かって良かったと思っておこう。


「ちょっと、こいつら不死者アンデッドとして使役してみる」


「は?」


「奴隷化して利用しようと思ってたんだけど、オスカルが斬っちゃったからな」


「そ、それはすまないことをした」


「まあ、移動を考えたら、逆に良かったかもだがな」


 奴隷ならば移動手段が必要になる。

奴隷商1人ならばさちぽよと飛竜にタンデムという手もあるが、絶対にさちぽよが嫌がる。

俺と奴隷商で飛竜に乗るのも微妙に嫌すぎる。

尤も、奴隷商の護衛もいるので、単純に足手纏いだ。

空の移動は人数的に無理で、飛竜と同じ移動速度は望めない。


 その点、不死者アンデッドならば事は簡単に済む。

闇の空間に仕舞い込んで、後で召喚することが可能なのだ。

眷属のデュラさんなど、そうやって収納と召喚が可能だった。

尤も、眷属収納が出来るようになって、その利点は失われていたんだけどね。


「【闇魔法・不死者アンデッド化】」


 とりあえず奴隷商を不死者アンデッド化する。

やつは、オスカルが手足を潰して痛みだけを取り除いた状態だった。

オスカルがドSすぎて引くが、最も効果的な無力化ではあった。

それをサクッと心臓一突きで殺してしまっていた。


 不死者アンデッド化で、奴隷商の身体に変化が現れた。

それは、破損した身体を修復し元通りとなるような不死者アンデッド化だった。


「至高の御方のお呼びだし、真に光栄の至り」


 それはヴァンパイアにも通じる高位アンデッドだった。


「まさか、こうなるとは……」


 ゾンビは腐っていやだなとは思っていた。

グールも知性が足りないよなとも思っていた。

手足も治さないと誰かが運ぶことになるなとも思っていた。

その結果が高位アンデッドだとは……。

まるで、魔王の配下……あながち間違ってないかもしれない。


「他の連中も【闇魔法・不死者アンデッド化】だ!」


 護衛の4人の騎士もアンデッドになった。

勢い余って、大猿10匹までがアンデッド化してしまった。

どうやら連中という曖昧さが大猿にも及んだらしい。


「デュラさん!」


「はっ、ここに」


 俺の呼びかけにデュラさんが地面の影の中から現れる。

デュラさんには俺の影の中に潜んでもらっていたのだ。

眷属収納の空間から出入りするよりも、再召喚までの待機時間クールタイが無いので便利なのだ。


「デュラさん、こいつらを配下にして使ってやって欲しい。

移動先でまた呼ぶ。奴隷商こいつを使えるように教育してやってくれ」


「はっ、お任せを」


 デュラさんが奴隷商と騎士4人、そして大猿10匹を連れて影の中に戻る。

これが不死者アンデッド化が移動に便利になる秘密だ。

不死者アンデッド軍団を影の中に入れて運べるのだ。


「まるで生き返ったみたいだった」


 確かに。あそこまでの高位アンデッドならば、生きているのと同じだ。

人として死んだだけで、魔人として蘇ったようなものだ。

うーん、やらかした気がする。

眷属や配下に魔族とか魔人とか不死者アンデッドとか、強力な魔物とか……。

俺ってやっぱり魔王化まっしぐらじゃね?


 人を害するのにも、相手が犯罪者や明確に命を狙って来た敵ならば躊躇しなくなった。

いや、俺の知り合いが害されただけでも、相手を殺す動機に成り得る。

今後、教国みたいな宗教がらみの敵と戦うことも有り得るのだ。

その時俺は、魔王と呼ばれている気がするな。

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