第531話 奴隷商の正体

 大猿を使役していたのは、ステータスで見て判っていたが、フラメシアの貴族だった。

奴隷商もさすがにステータスが見られたら嘘がバレると理解したのか、そこは正直に答えた。


「フラメシアというと教国か」


 宗教国家ともあろう国の貴族が奴隷狩りだと?

いや、元々この世界の宗教は単一人種に拘るところがあったりするのか。

神が祝福したのは自分たち人種ひとしゅだけで、獣人は下等な亜人だって平気で差別したりする。

人種ひとしゅでなけれな亜人は奴隷にしても構わないって感覚のなのかも。

ほら、召喚勇者も人扱いされてなかったし。


「いいや、ただのフラメシア国だ」


 奴隷商が訳の分からないことをほざいだ。


「何が言いたいのか分からない」


 まさか、フラメシア教国とは違うフラメシア国があるとでも言うつもりか?

それとも宗教的差別を隠すために教国の関与を否定したい?


「教国とは別の国なのだ。

その国の中の半分が宗教国家フラメシア教国で、俺たちは教団に所属していないもう半分の国の者だ」


 なんだか教国が罪を逃れるための方便な気もするが、そう公に決まっているのならば致し方ない。

実際にステータス画面も教国とはなっていないので、それが正しいということなのだろう。


「まあ、とりあえずは置いておいて良いか。

フラメシアだとすると、この大陸の東端だろう。

どうやってこんなところまで来た?」


「それは……」


 奴隷商が口を濁す。

まさか、ここから北にある海から上陸した時に拠点でも作ったのか?

そこに港あるいは輸出拠点で村でも作られていたら、実効支配ということになるぞ。

俺の領地に勝手にそんなものを作ったら、外交的にかなり不味い。

それで濁して来たか。

だが、それは好都合だ。

そこも俺の領地ということにしておこう、知らない土地では逆に奴らに領有を主張されかねないぞ。

ここはカマをかけておくか。


「まさか、北の海岸から上陸したのか?

貴様ら、あの土地に手を出したのか?」


「いいえ、とんでもない!

ただ沖合に船を泊めて、小舟で上陸しただけだ。

ちょっと荷物は置いたけど、それだけだ。

既に誰かが領有している土地だなんて知らなかったんだ!」


 よし、これで違法行為をしたのは向こうってことに出来たぞ。

俺は魔の森の領有を宣言しているから、そこも範囲内ってことで良いよね。


「その船に獣人たちが送られたのか?」


「ああ、そうだ」


「まだ国には送っていないのね?」


 オスカルが凄みを利かせて訊ねる。

その勢いに思わず頷く奴隷商。

おそらく事実を話していることだろう。


「教国とは話を付けられるが、そちらとの外交ルートは無さそうだな。

本国に送っていたら、大変な外交案件になっていたぞ」


 こいつ奴隷商を無事に帰せばフラメシア国との間で揉め事にはならないだろう。

だが、こいつを痛めつけ過ぎたかもしれないな。

フラメシア教国とならば外交ルートがあるが、教国仲介での交渉となると拗れそうだ。


 初めて来た未開の地で金になりそうだから獣人を攫ったのだとしたら、このまま船ごと帰さなければ、遭難したと思うのではないか?

いや、さすがにそこまでしては不味いか。


「頼む! 獣人なんて・・・全て返すから、命だけは助けてくれ!」


 俺が面倒そうだという顔をしてしまったのだろう。

それを皆殺しにして面倒な交渉事を無くそうと考えていると取ったのだろう。

奴隷商が慌てた様子懇願して来た。

実際に皆殺しにすれば楽だなと、ちょっと頭に過ったのは事実だ。


「攫った獣人は何人だ?」


「120ぐらいだ」


 その回答に、俺は違和感を覚えた。

獣人たちから聞いた話では、50人規模の村が8つ襲われているのだ。

400人が村を追われ、最後の砦に100人ぐらいが集まった。

まだ森の中を散り散りに逃げている者たちが100人として、80人ぐらい数が合わない。


「まさか……。

死んだ獣人は何人だ?」


「さあな。100はないぐらいだろ」


 奴隷商の言い様が獣人を人として見ていない差別的なものであることは、俺もなんとなく感じていた。

だが、さすがに自分たちが殺した人数を、物の数のように言うとは思っていなかった。

そこには何の感情も乗ってなく、ただただ商品の数が減ったぐらいの軽さだったのだ。


「商品価値の無いものは数え「人を物の数のように言うな!」」


 それに敏感に反応したのはオスカルだった。

彼女はその剣を奴隷商の首に刺し、その発言の続きを許さなかった。


「ああ、やっちまった!」


 俺が止める間もなく、奴隷商は死んだ。


「オスカル、気持ちはわかるが、まだ尋問中だ。

もし、定期的に船が来ていたり、複数の船が運航していたらどうするつもりだ?」


「あっ……」


「こんな外道でも、こいつは貴族だぞ。

こいつを探しにフラメシア国から船が来るぞ」


 生きている獣人を奪い返し、死者に対する賠償金を要求する。

そういった解決方法もあったはずだ。

それが罪人でも貴族を殺されたとなると、国が動きかねない。


「どうしよう!」


「これで船に居る連中も帰すわけにはいかなくなった。

全力で無かったことにするぞ!」


「わかった!」


 そう言うとオスカルは護衛も殺してしまった。

数々の修羅場を潜り抜け、オスカルも精神的に強くなった。

相手が罪人ならば、容赦なく殺せるようになった。

この世界、躊躇えば逆に殺されてしまうのだ。


「ちょっと複雑な思いだが……。

この世界に馴染んだな、オスカル」


 まあ対人戦では頼もしい相棒だわな。

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