第530話 大猿って使役されてるの?

お知らせ

 第528話で、オスカルとするところを陽菜と間違えている場面がありました。

飛竜で大猿探索に出たのは、さちぽよ、オスカル、紗希の3人です。

単独で飛竜に乗れない陽菜のわけがありません。

訂正いたしました。

――――――――――――――――――――――――――――――


 現場に到着すると、そこには異様な光景が待ち受けていた。

大猿たちが獣人を捕まえて人工的な檻に入れているところだったのだ。


「バカな、あの大猿の魔物にそのような知能があるわけがない!」


 オスカルが驚きの声を上げる。

俺も同意見だ。

その光景はまるで奴隷商人が奴隷にするために獣人を襲って捕まえているようだったからだ。

組織的、しかも魔物とは思えない統率の取れた行動を大猿はしていた。


「まるで誰かに使役されて、奴隷商の真似事をしているみたいだ」


「真似事どころか、マジ奴隷商じゃね?」

「あ、納得」


 つまり、この大穴に獣人の村があることを知って、どこかの奴隷商が大猿を使って誘拐、奴隷として売ろうとしているということか。


「獣人奴隷って温泉拠点には居なかったよな?」


「そもそも獣人が居るって知らなかったよ!

知ってたら、僕がモフリ倒してるところさ」


 紗希、そんな自慢げに言うんじゃない。

だが、たしかにその通りだろう。

あの獣人の村でも、紗希の周囲には獣人の子供が寄り着いていなかったからな。

欲望のままにモフり倒したんだろうな。


 となると、獣人は傷病奴隷なんかには混ざらない特別ルートの奴隷ということか。

このような魔物が闊歩するような魔の森に住んでいるのだから、獣人男性はそれ相応の戦闘力があり、獣人女性はその容姿から愛玩用にということだろうか。


 そんな厄介な相手だから、腕力のある大猿に襲わせていたってことか。

となると……。


「どこかに指示役の人間がいるはずだな」


「探知出来ないのー?」


 さちぽよにそう言われて常時使用していた【探知】の画面を見る。


「奴隷商をマーク」


 そして、奴隷商をターゲットに指定する。

しじゃし、何処にも反応が現れない。

俺の目の前にある大穴の壁で探知が途切れているのだ。

そうか!


「オスカル、台地の上に」


「わかった」


 オスカルに飛竜を上昇させてもらう。

俺の予測が正しければ……。


「いたぞ! 台地の上に指示役がいるぞ!」


「じゃあ、殺っちゃうよ」


 オスカルが物騒なことを言い出す。

獣人たちの扱いに怒りを抑えていたところ、その黒幕を見てブチっと来たらしい。


「待て待て、背後関係を吐かせて、今まで攫われた獣人を助けないとならないんだぞ!」


「じゃあ半殺しまでは良いよね?」


 やばい、オスカルの怒りは相当なものだ。

ここは縛っておくより自由にさせた方が良いか。

それと、指示役が倒れれば、大猿の制御が心配だ。

制御を離れて暴れ、獣人たちに危害を加えられたらたまったものではない。


「わかった。オスカルはあの奴隷商を死なない程度に無力化して確保。

飛竜に奴の護衛や大猿を排除させても良いんだからな。

俺は降りてさちぽよたちに合流する」


「わかった。

この人でなしが!

獣人たちは返してもらうわよ!」


 オスカルは俺には笑顔で返事をしたが、奴隷商に振り返った顔は般若の形相だった。

オスカルにもこんな一面があったんだな。

今後はオスカルを怒らせないようにしよう。

そう俺は決意した。


 俺は、そのまま飛竜から降りてレッドドラゴンの力で飛ぶ。

もうスピードは必要ないから単独で飛ぶことにしたのだ。

そして、大穴に降りて、大猿たちと対峙しているさちぽよたちに声をかけた。


「さちぽよ、紗希、大猿を排除して、獣人たちを助ける」


「待ってたよ」

「マジムカついてたんだぞ」


 あ、こっちもキレてたか。

よく待っていてくれたもんだ。


 大猿たちは獣人たちを襲おうとしていたが、俺たちの登場で警戒して動きが止まっていた。

そして、睨み合いが今まで続いていたのだ。

その大猿の1匹に飛竜から飛び降りた紗希の拳がめり込む。

相変わらず無茶をする。


 さちぽよは飛竜を使い、上空から大猿の群へとブレスを吐きかけ、獣人に危害を加えそうな大猿に接近し剣で斬る。

どうやら、こちらは2人と飛竜に任せれば大丈夫なようだ。


「むしろ危ないのはオスカルの方か」


 大猿の増援の秘密もわかっていない。

湧き点でないならば、奴隷商がどこからか継続的に連れて来ているのだ。

その援軍がいつ来るかわからない。

ならば、俺はオスカルの援護に向かった方が良い。


「2人ともここは任せるぞ。

俺はオスカルの援護に向かう」


「わかった」「おっけー」


 だが、その心配は杞憂に終わった。

台地の上では、殲滅された大猿たちの死骸と、行動不能になった奴隷商の護衛、そして手足を潰されて身動きの出来なくなった奴隷商が転がっていた。


「うわー。えぐいな」


 オスカルは奴隷商の傷を死なない程度に回復薬で治療し、胸倉を掴んで尋問していた。


「おい、お前らはどこの国のものだ?」


「ひ、ひーっ! 殺さないで!」


「あーん? 獣人たちもそう言ったはずだぞ。

その時おまえらはどうしたんだ?」


「やめてー! 俺は貴族なんだぞ!」


 奴隷商がビビりすぎて自分は貴族だと言い張る。

貴族に危害を加えれば国際問題ってか?


「そこまでにしとこうよ。

答えるものも答えられないぞ」


「でも、こいつら!」


「まあ、国はこいつのステータスを見ればわかるし。

それが知ってる国だったら、そこの王様国家元首に言いつけてやるから」


「ふふふ、それならこいつが貴族でも終わりだな」


「ひーっ! まさか貴様も貴族か!」


 残念。国王でした。


「ここは俺の領地でね。

そこから民を誘拐した。

それがどういう意味かわかるよな?」


「国際問題……」


「そうだ。だから全て吐いて、誘拐した獣人を返した方が身のためだぞ」


「わかった! 命だけはお助けを!」


 どうやらやっと素直に話してもらえそうだ。

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