第528話 大猿の巣探索

 チュンチュンと雀が鳴く中、隣で寝ているセシリアを起こさないように、そっと寝室から抜け出す。

着がえはアイテムボックスの中。

緊急の要件で対処しなければならないと、セシリアを説得して今日からまた獣人の村に向かう。

本来であれば王都で執務をしなければならない予定だが、そこは数日後ろに回すことにして説得をした。

つまりセシリアとしては、俺と会える日数に変化はない。

それで渋々納得してもらうことになった。


「やっぱり嫌だとか言われないうちに、さっさと行ってしまおう」


 そのために寝室を抜け出して来たのだ。

着がえをすると転移バルコニーに向かう。


「行くぞカブトン。眷属遠隔召喚カブトン、獣人の村」


 今日はカブトンに触れて疑似転移を使う。

獣人の村でもカブトン纏は気味悪がられて評判が悪いのだ。

よくよく考えたら疑似転移ならば飛んでいなくても良いわけで、このような形になった。


 カブトンを指名したのは、王城にカブトンが待機していたからだ。

余所から眷属を呼び出すと、それが召喚1回とカウントされて、元の場所に戻す以外の再召喚は2時間待ちとなる。

眷属を連れての疑似転移も出来ないし、なかなか面倒くさい。

緊急で転移するためには、眷属を身の回りに侍らせておく必要がある。

眷属を疑似空間に収納できるようになったのは便利なのだが、そこから召喚すると、後が面倒だったのだ。

便利なのか不便なのか。

まあ、眷属が増えすぎると侍らせておくのも困るようになるので、それはそれで助かっている。


「早いわね」


 朝一の到着に裁縫女子が目ざとく気付き、寄って来る。

なんだかんだ言って、裁縫女子も朝が早いだろうに。

彼女たちは獣人の村で一番良い建物を貸してもらっているのだ。

さすがに村を守ってくれる者たちには便宜をはかるのだろう。

そこには人族に対する恨みというものは無いようだ。

国によっては獣人差別の裏返しで人族嫌悪があるようだけど、この村の獣人にはそれはないようだ。


 裁縫女子が考えに耽る俺の顔を覗いて来る。

慌てて俺は言い訳を口にする。


「夜には別件で帰らないとならないからな」


「ハーレム主は大変ね」


「ハーレム言うな!」


「あははは、私も入ろうかな?」


「ほんと、そういう冗談はやめて欲しいぞ」


 裁縫女子め、なんという冗談を。

ただでさえ、一緒に行動することで疑いの目――主に同級生男子から――が向けられているのに、勘弁して欲しいところだ。


「むー」


 あれ? 裁縫女子さん、なんで落ち込むかな?

なんか返しをしくじったか?


「綾、まさか本……」


「ああもう! さっさと仕事の話をするわよ!」


 さすがに本気という事は無いか。


「ああ、なるべく早く解決しよう」


 どうやら裁縫女子も気にしていないようだ。

なんだったんだろうな、あれは?


「獣人たちは、この直系数十kmに渡る大穴の中にいくつかの村に分かれて住んでいたそうよ。

そこに大猿が襲ってきて、村を追われて放浪の末、ここに移り住んだらしいの。

ここが獣人たちの最後の砦というところらしいわ」


「平和だったのに、ある時突然襲われたのか。

となると、大猿は外部から侵入して来たということか?」


 それで生存圏が重なって不幸な諍いとなったのかな?


「そのようね」


「それならば、大猿の数は有限ってことだよな?

全て倒してしまえば終わるってことか?」


 大猿が外からの流れ者ならば、一定数以下になれば逃げていくはず。

人に害なす魔物であれば、全滅させて終わりということも出来る。

そうなれば、獣人たちは、ここを離れようとはしないだろうな。


「それが倒しても倒してもらちがあかなかったそうよ。

まるで次から次へと増援が来ている感じらしいわ」


「え? なぜだ?」


 大穴の外に大猿の大集団がいて、そこから次々に増援が来ている?

つまり意図的な侵略ということか?

それとも、まさか大猿の……。


「湧き点かな?

それだと見つけて潰すしかないぞ」


「それか迷宮かな?」


「いや、迷宮ならば大猿だけのはずがない」


「それもそうね」


「何れにしろ、大猿の本拠地を探らないといけないということか。

この村は竜種が居れば護れているんだよな?」


「ええ。今のところ大猿は寄り着かないわ。

獣人たちはこのままドラゴンにすがりたいらしいわよ?」


「それは駄目だろ」


 借り物の竜種たちで維持される平和なんて、竜種が居なくなったら終わりだよ?

俺だって、いつまでもこの村にドラゴンを貸してられないからな。


「やっぱり大猿退治だわね」


「うん、空と陸から大猿の本拠地を探すとするか」


 散り散りになった獣人たちもまだ居るというし、それも含めて探索するか。


「さちぽよ、オスカル、紗希は飛竜で捜索。

裁縫女子と陽菜は村で留守番ね。

何かあったらハッチに念話を飛ばさせろ」


「「「了解」」」

「「わかったー」」


 さて、俺はレッドドラゴン纏で森を蹂躙するかな。

さすがにレッドドラゴンは村の外に召喚しないとな。

そして、纏うところは獣人たちには見せないようにしよう。

俺は村を出てしばらくしてからレッドゴンを呼んだ。


「眷属召喚レッドドラゴン、レッドドラゴン纏!」


 これで大猿の湧き点なんかイチコロだろう。

いや、湧き点と決まったわけではないんだけどね。

あとは【探知】をかけつつ森の中を探るしかない。

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