第527話 獣人の街、到着

 食事休憩を挟みつつカブトン纏で飛び続けて2日と半日。

さすがに休憩の間は飛び続ける事が出来ないので野営をしたけど、なぜか魔物に襲われることもなく無事に過ごすことが出来た。

猿が獣人たちを襲っているというが、そんな形跡は微塵も無かった。

俺の身体も、カブトン纏の負担も全然なく、健康そのものだ。


 夜間は温泉拠点に疑似転移で戻った。

ほら、夜のお仕事があるからさ。

そして朝一でまたカブトン纏で中断地点に疑似転移する。

それを2日繰り返し、今は3日目の昼になる。

本来ならば、王城に出仕していなければならない時間なので、かなりまずいところだ。


 そしてついに裁縫女子たちが待っている獣人の村に到着した。

村に近付くとハッチが飛んで来て誘導してくれたのだ。

その村は森の中にひっそりと作られていたが、猿が木の上から侵入しないようにと、周囲の木を切り倒しているため、近付けばそれとわかってしまうものだった。


「お待たせ」


「うわ! また昆虫人間インセクターなの?」


 裁縫女子をみつけて目の前に降りると、綾が驚きの声をあげた。

そういやカブトン纏は、魔物の昆虫人間に見えるんだった。

その姿は変身ヒーローの洗練されたデザインではなく、虫と人の融合したものでしかないのだ。

村に降り立ったその俺の姿を見て、獣人たちがパニックになるのも当然だろう。


「ああ、悪い。カブトン纏解除」


 俺は昆虫人間から、纏を解除して人の姿にもどる。


「ほら、大丈夫だから! 人間だから!」


 綾が獣人たちを宥めてまわっている。

だが、俺には時間的余裕が無い。

用件を済ませて、さっさと戻らなければならないのだ。


「疑似転移でまた来れるから、今日は護衛の眷属を置いて戻るね」


「「「「「はあっ?」」」」」


「いや、さすがに昼まで遅刻だと、セシリアが怒るんだよ」


「「私たちはずっとお預けだったっしょ(のにー)!」」


 さすがにさちぽよ陽菜の性獣2人にその言い訳はまずかったか。

ハモりで突っ込んで来た。


「今日だけだから、埋め合わせはするから!」


「「むー」」


 セシリアも明日以降も留守にして大丈夫だろうか?

王城の仕事が溜まるが、さすがに獣人の村ここをまた3日間放置といわけにはいかないからな。

温泉拠点の日を政務にまわしてでもスケジュール調整しなければ。


「眷属召喚グリーンドラゴン!アロサウルス×2!

ほら、こいつがいれば、猿なんか寄って来ないだろ?」


「それはそうだけど……」


「明日戻って来る。

その後で根本的な対応を検討しよう」


 突然召喚された竜種たちに、獣人たちがまたパニック状態だが、とりあえず村の安全は確保された。

今後は疑似転移で頻繁に来れるのだ。

この最強戦力を与えておけば、猿などどうとでもなる。


「だ、大丈夫なのですか?」


 年配の獣人がドラゴンに怯えながら恐る恐る訊ねる。

どうやらこの年配の獣人が村の長らしい。


「この人がこの村のリーダーのウルドね」


「ああ、よろしく。

こいつら竜種たちは村の外を警備させるから。

裁縫女子、竜種たちの面倒を見てやってくれ」


 俺があっけなくスルーしたので、ウルドと紹介された獣人が困惑顔になっている。

いや、俺はもう時間いっぱいで、帰らないとならないんだよ。

悪いけど、構ってられないんだよ。


「カブトン、虫飛行だ」


 カブトンが縦になると、俺の背後にまわり、6本の脚で俺の身体を掴んだ。

そして、そのまま空中へと飛び立つ。


「眷属遠隔召喚カブトン、王城へ」


「あ、ちょっとー!!!」


 綾の止める声を残しつつ、俺は王城へと疑似転移した。

そこは王城の転移バルコニーだ。

俺の疑似転移は、転移地点に魔法陣が現れる。


 この魔法陣は召喚魔法陣なのだが、疑似転移で使うので傍からは転移魔法陣に見えていることだろう。

それと何かが重ならないようにと、転移専用の空間が確保されているのだ。

王城では、それがバルコニーの上となっているのだ。


 飛竜や翼竜、虫などの空の移動手段と共に来ることを想定して、上部空間が開けているバルコニーが選ばれているのだ。

その転移バルコニーの上空にカブトンに抱えられた俺が疑似転移して来たというわけだ。


 だが、そこはいつもとは様子が違っていた。

まあ、いつもはカメレオンとか土トカゲとか、小さな眷属と共に転移していたので、俺はそのままの姿でバルコニーの上に疑似転移して来る。

飛竜の場合もデカすぎるので飛竜纏で転移することが多い。

だが、飛竜が出払っていたし、今回は獣人の村からの転移だったので、カブトンで疑似転移せざるを得なかったのだ。


 カブトン纏は人を恐がらせる。

それは獣人の村で学習した。

王城ともなると、カブトン纏は魔人か魔物の襲撃に見えてしまう。

なので、虫飛行の状態で転移して来たというわけだ。


 そして、そのいつもと様子の違う原因となった人物に対して、それは当然の配慮というものであった。


「随分と遅いご到着でしたわね?」


 そこには仁王立ちになってプンプンと怒って見せるセシリアが待っていたのだ。

なにその可愛い生き物?

カブトン纏の昆虫人間で来ていたら、どうなっていたことか。

明らかに機嫌が悪いところに、追い打ちをかけていたに違いない。


「すまない。緊急事態だったのだ」


 俺はカブトンにバルコニーへと降ろしてもらいながら、そう言い訳をした。


「週に3日しか会えないのですから、この時間を大事にしてくださいませ」


「ああ、俺も会いたかったが、事情があったのだ」


「まあ、わたくしに会いたかったなんて、嬉しいこと♡」


 よし、乗り切ったー!

これは温泉拠点に城が建ったら、セシリアも連れて来て、そこで政務を執り行った方が良いかもしれないな。


 だが、明日からの2日、こっちに来れないなんてどう説明しようか?

代替日を設定するといっても、それで納得してくれるだろうか?

それによる結衣たちの問題は放りっぱなしだしな。

ああ、俺のスローライフ、どこ行った?

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