第524話 北の海探索4

Shide:裁縫女子


 私たちの飛竜が向かった先には、大型の猿の魔物集団に襲われている村があった。

オスカルが救助を主張したのも、その人工的な建造物を目撃したからだった。

村は木の杭を地面に撃ち込んだ高めの柵で囲まれており、その柵の外側の木は切り倒されて平地が広がっていた。

森の中に現れた砦にも見える。


「あの猿が村に入って来ないように木が切られてるんだ」


 木があると、その上から柵を飛び越されかねないと思ったのね。

学習結果なのかもしれないけど、村に住むのは知性ある存在ということだわ。


 その柵の一角で猿と住人の戦闘が繰り広げられている。


「槍と火魔法で応戦中なのね」


 柵の間隔は大きな猿や獣が入れない幅だけど、村人が武器をふるうのには都合の良い隙間のようね。

明らかに猿対策で柵が作られているように見える。

この襲撃が日常的にあるということだわね。

また火魔法の爆発が土煙を上げる。


「やれる?」


 私はオスカル、さちぽよ、紗希の戦闘職3人に訊ねた。

猿の魔物は知らない魔物で、その強さが判らなかったからだ。

安全に。それがこの探索のルールだったから。


「見たことない魔物。速いし、力もある。

だけど、逆に動きを止めれば楽勝かな」


 猿は飛んだり跳ねたり動きが機敏だった。

そのため村人の火魔法は当たらず、槍も牽制以外には効かずに、致命傷を与えられていない。

だが、その動きさえ止めれば勝てるとオスカルは言う。


「飛竜に乗ったままいける?」


「降りないと無理。ほら」


 そう言うとオスカルは火魔法のファイアボールを猿に放った。

しかし、そのファイアボールは猿に避けられてしまった。

猿は何処からファイアボールが来たのかと周囲をキョロキョロと見回している。

どうやら空中からという意識が無いようだ。


「ホント速いね。しかも魔力を感じて見えてないのに避けてる?」


 つまり接近戦で剣や格闘術により倒すしかないということね。


「こっちがバレてないうちにやった方がいーぞ」


 さちぽよが攻撃したくて焦れている。


「待って、柵があってあれなんだから、安全策で地上に降りるのだけは避けて」


「じゃあ、どうすんのさ!」


「シーッ! あまり声が大きいとこっちの存在がバレるよ!」


 何か手はないかな。

飛竜が火球を吐けるけど、人が乗った状態だと熱いのよね。


シュタッ!


 私の目の前に飛竜に便乗しているヌイヌイが現れた。

ヌイヌイは器用に飛行中の飛竜の上を移動している。

ヌイヌイが何かを訴えるように右前足を挙げる。


「ヌイヌイ! あ、ヌイヌイの糸で動きを止めれば良いのね!」


 私はヌイヌイの立候補を感謝した。

このような事態に遭遇して、慌てて眷属に協力してもらうという考えが抜け落ちていたのね。


「さちぽよ! ゾクゾクよ!」


 私はさちぽよに眷属のゾクゾクの糸攻撃により猿の動きを止めることをジェスチャーで伝える。


「何よ! わかんないってば!」


 だけど、そのジェスチャーは伝わらなかった。

イライラしたさちぽよが大声を上げる。


キーッキキ、グエグエ


 流石に猿たちもその大声の主に気付く。


「ああもう! ヌイヌイ粘着糸! ゾクゾクも続いて!」


 これで奇襲のチャンスは無くなった。


「ああ、それだったんだ! 早く言ってよ!」


「猿に見つからないようにジェスチャーにしたのよ!」


 私たちの存在に気付かれていないという優位は失われたけど、もうやるしかない。


ドーン!


 紗希の乗った飛竜が火球を吐き、猿たちの気を引く。

飛竜の火球は搭乗者も熱いから、最後の手段なのに!

紗希はヒロキ転校生くんから預かったハニービーのハッチにも指示を出して猿を牽制し始めた。

ホント、助かる。


「チャンスよ! ヌイヌイ!」


 ヌイヌイが粘着糸を網状に広げて投網のように猿の上に落とす。

それを見たさちぽよも眷属のゾクゾクに同様の攻撃を指示する。


「今だ!」


 そう言うとオスカルが飛竜から飛び降りた。


「え?」


 私、操縦出来ないんですけど?

その行動に紗希も続く。


「オーちゃん! 何するのよ!!!」


 オスカルが地上に降り立ち、剣で猿たちに止めを刺していく。

さちぽよは飛竜を操ってゾクゾクの粘着糸で猿たちを拘束していく。

私はというと、飛竜を制御できずに観察するだけだった。

つまり、ヌイヌイも活躍出来ていない。


キーキーキキ、ウエッウエッ!


 1匹の猿が叫びをあげる。

すると、猿の群が一斉に森へと引き上げ始めた。

どうやらボス猿が私たちの攻撃に不利を悟ったらしいわね。


「終わった?」


 どうやら危機は去ったようね。

そこには粘着糸に絡まり動けなくなり、剣や蹴りで止めをさされた猿と、佇むオスカルと紗希だけが残されていた。


「あなたたちは何者なのだ?」


 村の柵の向こう側から年配の男性の声がした。


「獣人♡!」


 紗希が思わず声をあげる。

その声は紗希の生き物係としてのモフりたいという願望が乗った、ちょっとキモイものだった。

私でも、ちょっと引いたぐらいの声色に、年配獣人男性も引いている。


 どうやら気まずいファーストコンタクトになってしまったようね。

私は飛竜を必死に操って地上に降ろした。

交渉は私に任せて欲しいところ。


「あなた方に危害を加えるつもりはありません」


 飛竜の存在が既に圧力となっている。

そう考えてさちぽよと紗希の飛竜も地上に降ろす。

紗希の飛竜は操縦者不在だったのに、紗希の合図で勝手に降りて来た。

流石生き物係ね。


「村の危機を救っていただきありがとうございます。

どうぞこちらへ」


 年配の獣人男性が村の門を開けて中へと招き入れてくれた。

大丈夫だとは思うけど、警戒は怠らないようにしよう。

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