第520話 北の海探索2

Side:裁縫女子


 ヒロキ転校生が、いろんなしがらみを抱え込んで、いっぱいいっぱいになっている様子は、傍から見ていて私でも可哀想になってしまった。

アーケランドの王様としての執務に、跡取りのための夜の生活。

アーケランド貴族たちの反乱を抑えるために、同級生や次代勇者たちを貴族化して各地に配置したりと、国の統治というのはなかなか厳しいみたいね。


 ヒロキ転校生は、嫁となった同級生女子たちのために、アーケランド王城とこっち温泉拠点とを行ったり来たりの生活になった。

ここ温泉拠点での夜も蔑ろに出来ないし、忙しさに拍車がかかるのは当然だよね。


 そんなヒロキ転校生が、温泉拠点の拡張を始めた。

なんで自分から墓穴を掘りに行く?

でも、それは私たちの将来のための布石だった。

嫁に子供が出来たらと、その子の将来を考えたのよね。

ヒロキ転校生がアーケランド王だと言っても、子供全員を王家に入れたり貴族に叙爵するというわけにはいかないのよ。

アーケランド王家に入れるのは、アーケランドの血筋のみ。

ヒロキ転校生とセシリア王女の子、あるいは、セシリア王女の姉妹の子ということになる。

新たな貴族家の創出も、大きな手柄あってこそで、子供だからと簡単に叙爵するわけにはいかないんだって。


 「じゃあ、うち温泉拠点の子たちの将来は?」となった時に、ヒロキ転校生は子供に残せる領地をアーケランド以外から得ようとしたの。

それが温泉拠点の拡張だったのね。


 そこには、私たちあぶれてる女子が生きていくための故郷を作るという意味もあった。

帰還出来ないと判って、その後の拠り所をと考えたのね。

ヒロキ転校生はあれで私たちを嫁にしようとしないからね。

私は嫁になっても良いかなと思ってるんだけどね。

お互いに愛し合っていないと駄目だって言うんだよね~。

それにしては、さちぽよや陽菜みたいに押しが強いと簡単に落ちるんだよなぁ。

私が恋に奥手で無ければ、もしかしたら……。


 まあ、そんなことは置いておいて、ヒロキ転校生に仕事が集中しすぎている。

私は紡績部門を担っているけど、そこは部下も育って来ているから、私が不在でも仕事が回るようになっている。

そんな仕事の何倍もをヒロキ転校生は抱えているんだよね。

他人に任せられるようになると良いのに……。

誰もが出来ない仕事、ヒロキ転校生のスキルに頼る仕事は全て抱えてしまっている。

良くないよね。


 そんなおり、ヒロキ転校生が温泉拠点を拡張して街とするには人口が足りないと言い出した。

奴隷の住民化の話と、移民を募るという話になって行ったんだ。

南の大陸から移民を募るという話は、船がいるとか壮大すぎて、ペンディングになった。


「とりあえず、北の海まで飛竜で飛んで探索しようと思う」


 そのもう一つの方策が北に存在するかもしれない民族の移民化だった。

移民を北の海まで探しに行くって?

なんでまた仕事を増やそうとしてるの?

なんだか飛竜に乗れるのは誰かとかいう話になっている。


「それらを考慮して人選するか。

だが、俺の執務もあるから最長4日が限度か」


 ちょっと、それも自分で抱えるつもり?

そんなことしてたら、いつかヒロキ転校生が倒れてしまうわよ?


「あんたが行く必要があるの?

誰かに委任すれば、どんなに遠くても確実に北の海に到達して来るわよ?」


 つい、突っ込みを入れてしまった。

ヒロキ転校生の、全てを自分で抱える悪い癖が出たからだ。

だいたい、家具の発注のためにヒロキ転校生が帰ってくる必要もなかったんだよ?

確かに、アーケランド王家御用達のふだは必要だったかもしれないけど、それは後で送っても良かったはずだぞ。

どうして、そんな単純仕事も他の誰かに任せてくれないんだろう?


「俺が行かないと後々転移で皆を連れて行けないじゃないか」


「陽菜を連れて行って要所要所に転移ポイントを設定すれば良いだけよね?」


 ほら、考えれば代替案なんて直ぐに出て来るんだからね。

ここは私が行くしかないわね。

これ以上、ヒロキ転校生が仕事を抱えても良い事なんて無いんだからね。


「私たちでやっとくから、あんたは王様やってなさい」


「ぐぬぬ」


 私が悪役になってでも、ヒロキ転校生には結衣ちゃんたちとイチャイチャしててもらうんだからね!

北の海探索は私たちに任せるのだ。


 ◇


「「「「「行ってきます!」」」」」


 私と陽菜、さちぽよ、オスカル、紗希の5人で飛竜に乗って北の海の探索に向かう。

オスカルと私、さちぽよと陽菜がタンデムで、紗希は背嚢型のマジックバッグを背負っている。

アイテムボックス持ちの誰かが来れれば良かったんだけど、お目当てだった腐ーちゃんが体調不良で無理だった。

けれど、マジックバッグでも1カ月分の食糧――時間経過制限的にね――が保管できる。

この人選ならば、途中で食べられる獣や魔物を狩ることも出来るし楽勝でしょう。

個人に配布されたポシェットも容量は小さいけどマジックバッグで、回復薬やマナポーション、毒消し、数日分の食料に、お金や着がえ等が入っている。


 そして、同行出来る護衛眷属も一緒だ。

私のヌイヌイ(アースタイガー)、さちぽよのゾクゾク(アースタイガー)は大きさ的に飛竜に同乗が可能だった。

紗希のギンとオスカルのにゃん吉は今回同行出来ていない。

まあ、飛竜に乗せられないし、走ってついて来ることも出来ないからね。

あ、陽菜はまだ眷属をもらってなかったので、ハッチ(ハニービー)をレンタルしてもらった。

ハッチならば飛竜と一緒に飛んで来れるからね。

何かあった時に飛べる眷属の存在はありがたいわ。


 飛竜が飛んで行く先は温泉拠点の真北、岩トカゲの生息地の先だ。

そこは誰も踏み込んでいない未開の地で、そこに何らかの部族が居たら、移住を打診することになっている。

異民族と接触してもスルーして単独では交渉するなと言われているけどね。

ヒロキ転校生の負担を軽減してあげたいじゃない。

そこは臨機応変で行くつもり。


「見て! あれが峡谷だよ!」


 岩トカゲ討伐に何度か来たことのある紗希が指差す先は、岩壁に一筋切れ込みが入り、それが峡谷となっていた。

歩きではそこを通らなければ北へは向かえない。


「全騎上昇!」


 だけど、私たちは飛竜に乗って飛んでいる。

その岩壁の上まで飛竜を上昇させて飛び越すつもりだ。


「うわー、なにこれ!」

「すごーい」


 そこはテーブルマウンテンと呼ばれる台地だった。

地上の荒れ地とは対照的に、そこは緑に覆われていた。

見たことも無い木々が立ち、花々が咲くお花畑だ。


「生態系がぜんぜん違うみたいね。

陽菜ちゃん、転移ポイントを設定しておいてね」


「おっけー。後でまた来ようぜ!」

「ピクニックやお花見が出来そう」


 名残惜しいけど、私たちは大地をスルーして先を急ぐことにした。

私たちの目標は北の海だからだ。

海からは塩が簡単にとれるし、海産物という資源を得られる可能性もあるから、今後のためにも重要な任務なのだ。

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