第519話 北の海探索1

 鉄を外皮に纏った岩トカゲの生息地、そこへと至った目的が鉄の入手だったために、それ以上の探索は行なわれていなかった。

そこは魔の森の領域であったために、皇国も隣国エール王国も進出していない未開領域だった。

つまり、魔の森を事実上領有している俺が手を出しても、誰からも文句は出ないのだ。


 いや、そこに街を作って住んでいる民族がいれば、その者たちの国があったととるべきだろうか?


「これは異民族との接触という外交案件になるのかもしれないな」


 まあ、進んだ先は無人の荒野と凍てついた海だけ、なんて肩透かしかもしれないんだけどね。


「とりあえず、北の海まで飛竜で飛んで探索しようと思う」


 名横綱じゃなくて本物の海な。だけど漢字変換の1位が北の湖って凄いよな。

以前、ついつい調べちゃったよ。


「飛竜は3匹しか残ってないぞ」


 生き物係の紗希が残り数が少ないと指摘したのは、遠隔領地に行ってもらったリュウヤたちに飛竜を渡しているからだ。

つまり、タンデムで乗るにしても最大6人までしか一緒に行動できないということになる。

女性だけならば3人乗りも可能だが、今回のような長旅となると余裕を持たせた方が良いだろう。

荷物をアイテムボックスに入れられるから、人の重さしか考慮しないで済むのだが、それでも3人で長距離は安全面を考慮すれば避けるべきだろう。


「それも飛竜を操ることが出来る者必須だぞ」


 つまり、この探索に行けるのは、俺以外に飛竜を操れる者2人が必須ということだ。

結衣はラキのおかげか飛竜が懐いてくれるため操れる。

生き物係の紗希は当然操れる。

他はさちぽよ、腐ーちゃん、オスカル、アンドレが該当者か。


 タンデムで後席に乗るとして、麗は高所恐怖症があって、飛竜に短距離便乗するならギリ大丈夫だけど、長距離は無理だろうな。

綾、瞳美、陽菜は後席便乗ならば問題ない。


「それらを考慮して人選するか。

だが、俺の執務もあるから最長4日が限度か」


 往復4日だと2日の距離しか踏破出来ない計算になる。

だが、俺には疑似転移がある。

帰りを疑似転移にすれば丸々4日使うことが出来るのだ。


「あんたが行く必要があるの?

誰かに委任すれば、確実に北の海に到達して来るわよ?」


 綾が鋭い突っ込みを入れて来る。

そこは、ほら。


「俺が行かないと後々転移で皆を連れて行けないじゃないか」


「陽菜を連れて行って要所要所に転移ポイントを設定すれば良いだけよね?」


 陽菜の転移は移動距離に制限がある。

だが、綾の言うように転移ポイントを設定して何回かに分けて転移すれば、どんな長距離も転移可能だ。

ただし、そこには1回の転移につき2時間のクールタイムが発生するという制限がつく。

それでも便利な能力であり、後で俺を連れて行くことで、疑似転移も可能になる。


「私たちでやっとくから、あんたは王様やってなさい」


「ぐぬぬ」


 そこには俺の出番は無かった。


 ◇


 北の海探索メンバーは綾、陽菜、さちぽよ、オスカル、紗希の5人と決まった。

なぜ6人ではないのかというと、探索に赴けるアイテムボックス持ちが居なかったからだ。

結衣は長期の探索に出ることに難色を示し、麗は高所恐怖症でNG、残りたった1人のアイテムボックス持ちである腐ーちゃんが体調不良を起こしていた。

心配だが、麗の治療で腐ーちゃんは回復に向かっている。


 そのため、綾たちはリュック型のマジックバッグを1つ持って行くことになった。

それはアイテムボックスの下位互換ともいえる魔導具で、中身の時間経過が緩やかで、その重さが軽減され、荷物の容量を減らしてくれる。

さすがにアイテムボックスの万能感からは少し落ちるが、嵩張る以外のデメリットはなく、スキルの無い者たちにとっては垂涎の的の魔導具だった。

そのマジックバッグ分、携行人数が減ったというわけだ。


「異民族と接触してもスルーだからな。

場所を把握して転移ポイントを設定するだけで良い」


「危なかったら逃げて来るんだよ?」


「わかってるわよ、久しぶりにグレースで行くわ」


 いや、それ外交する気満々だろう。

ほんと、危ないからやめてよね。


「海の幸、期待してるからね!」


「「「任せて!」」」


 さちぽよ、オスカル、紗希は、アンドレのリクエストに全力で応えている。

北の海に行くのは確定事項だからな。

そこには水産資源の開発という重要な役目もある。

3人はそれしにか目がないかもしれないが……。


「帰ったらノルマを熟してよね!」

「そうだぞ、週1なんだからな!」


「あはは」


 さちぽよと陽菜が週1の順番が飛ぶことに難色を示し、補填を要求して来た。

どこまで性獣なんだよ!

俺が一緒に探索に行っていたら、逆に危なかったかもしれない。

俺は乾いた笑いを返すしかなかった。


「「「「「行ってきます!」」」」」


 こうして綾たちが北の海探索に向かった。

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