第518話 移民はどこから
カドハチに新しい街への出店を要請したところ、即決で快諾してくれた。
まあ断れる空気ではないよな。
こちらも建物の提供や立地で便宜をはかるつもりだ。
奴隷たちにも話を訊いた。
奴隷から解放し、家臣や従業員として働くかという話に、喜ぶ者、戸惑う者、意味を理解出来ない者、落胆する者と様々だった。
うちにいる奴隷は対バーリスモンド侯爵戦の戦闘奴隷として購入した者たちと、農業やメイドとして働いてもらうために雇った者たちが主だ。
うちの奴隷は安く数を揃えるために、傷病奴隷を購入している。
それを
死に至る病、社会復帰不可能な身体的な障害、それらが治ってしまったのだから、彼らは麗を女神のように信仰しているのだ。
その配偶者である俺もオマケで好印象を持ってもらえている。
まあ、治すように指示を出したのが俺ってのもあるんだろうけどね。
元々騎士・兵士や冒険者だったりした者たちは、俺――つまりアーケランド王だな――の直属の私兵ということで喜んで臣従した。
部位欠損などを治す治療は、一生働いても返せない費用がかかるものなので、彼らは奴隷解放されるなんて思ってもいなかった。
そのため、奴隷解放のうえ、私的とはいえ家臣として採用されることで、とんでもない忠誠心が芽生えていた。
彼らは元々経済活動をしていた者たちが、怪我などにより奴隷落ちしてしまったという事情なため、貨幣経済に戻ることに抵抗がない。
傷病奴隷という名目だが、治すことが前提だったために、俺は受け容れに条件を付けていなかった。
そのためカドハチの判断で条件の幅を広げた結果の者たちのがいた。
彼らは元々戦闘に従事していたわけではなく、病気や怪我で人の盾としてしか役に立たないと言われていた者たちだった。
そこにハルルンが紛れていたのだから、むしろかき集めて正解だったといえる。
彼らの中には、元々家族に捨てられてしまった者もいて、お金すら使ったことがないという者もいた。
彼らには農業や養魚業、城のメイドとして働いてもらっている。
奴隷解放されて配給から給与制に移行すると言われて一番戸惑ったのが彼らだろう。
中には奴隷のままの方が気楽だと言い出す者もいた。
そこは本人たちの意向に従うことにした。
お金の使い方など、おいおい訓練すれば良いことで、後で気が変わったらそこで奴隷解放しても良いのだ。
だが、その採用の幅を広げたことに1つの問題が隠れていた。
幅を広げたことにより、犯罪奴隷も一部混ざっていたのだ。
カドハチは、犯罪奴隷を排除してくれようとしたらしいのだが、奴隷の数が数だったために、他の商会に仲介してもらった奴隷がいた。
そこに犯罪奴隷が紛れ込んでいたのだ。
傷病奴隷のくくりだが、元々犯罪奴隷で怪我を負ったというパターンだ。
彼らは法によって奴隷解放が出来なかった。
俺たちに恩義を感じ、改心して働いてくれているとは思う。
だが、その犯罪行為が性犯罪や窃盗だと、それが病的な嗜好となってしまっている場合がある。
それが再犯率の高さということなのだが、本人が改心したつもりでも、つい魔が差してというのが危ないところなのだ。
俺の立場ならば法を変えることも可能だが、彼らが安全であると示すためにも、奴隷のままの方が良いということだった。
街を形成するためには、奴隷以外の人々を移民として迎えなければならない。
そのためには、この街が移住するのに魅力的でなければならない。
加えて、他の領地から引き抜くためには、制限がかかる。
自らの領地の優秀な人材を流出させても構わないなんて領主はいない。
そこには厳格なルールがあって当然だろう。
王だからと他領に対して人材寄越せなどと言う横暴は認められないのだ。
領主替えで野に降った人材はいるだろうけど、それを奪ったらリュウヤたちが困る。
「あれ? 案外人を増やすのって難しいぞ」
奴隷を買う、棄民を集める、それぐらいしかやりようがない。
この温泉拠点が俺の本拠地であるという事実は、既にある程度の貴族たちが知ってしまっている。
口止めもしていないので、知るものは増え続けるだろう。
下手に募集すると、貴族に紐づいたスパイ的な者たちや、忖度で提供された者たちしか集まらないのでは?
これは難題かもしれないぞ。
「他の大陸から連れて来る?」
俺の苦悩に、一筋の光が差し込んだ。
それは瞳美の知識が齎したものだった。
「他の大陸って、そういや海外の政治情勢も知らなかったな。
それと海ってどの国ならばあるんだ?」
アーケランドは四方を他国に囲まれているため海は無い。
魔の森もその国々の間にあるため海には接して……いないのか?
そういや、岩トカゲが居た峡谷の向こう側って何があるんだ?
「地図によると
皇国の北は山岳地帯で、その向こうも海だけど凍った海のはず。
農業国の南も海で、その先に別の大陸がある。
その南大陸では戦乱が激しいらしくて、迫害されて移民を望む人たちがいるかも」
瞳美が宗教絡みで面倒な東側を端折って説明してくれた。
この世界、正確に測量された地図は存在しない。
人が行ったことがある場所が大まかな位置関係で示されているだけなのだ。
つまり、地図には空白があり、海岸線も途切れ、大陸の端も曖昧だった。
「岩トカゲが居た峡谷の向こう側は?」
「そこは地図に載っていない未開の地だよ」
つまり皇国の領土でもない、魔の森の続きと見て良い。
北に進めば海があるのは確実。
もしかすると知らない民族が住んでいるかもしれない。
そこから移民を募るという手もある。
ちょっと調べてみる必要があるかもな。
そっちが駄目ならば、農業国に頼んで、南にある大陸を目指すか。
「あ、船がいるな」
俺たちだけならば飛竜で飛んで行ける。
だが100人単位の移民を運ぶとなると疑似転移では無理だ。
陽菜の転移も距離制限で使えないぞ。
その運搬手段に船がいるな。
これは暫くは南大陸のことは考えから外そうか。
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