第516話 カドハチの態度

曜日の昼。

疑似転移で温泉拠点まで戻って来た。

今日はカドハチがやってくる日なのだ。

そのため政務を早々に切り上げて戻って来たのだ。

今日はこのまま温泉拠点にいるつもりだ。


 カドハチが本店を置くディンチェスターの街は、今や皇国と隣国エール王国の共同統治となっている。

カドハチの商人としての登録も、俺たちの味方をしてもらうために皇国所属に変えてもらっている。

にもかかわらず、俺がアーケランドの王となったために、その必要もなくなってしまっていた。

まあ、結局何処の所属だろうが、商売に影響が無いならば問題ないらしいけどね。

俺としては、これまで以上に協力してもらえればありがたい。



「陛下にお目通りさせていただき恐悦至極に存じます」


 いつもの応接室にカドハチを呼ぶと、カドハチが床に平伏していた。

俺がアーケランド王になったからなんだろうけど、ここではそんなものは不要だ。


「何やってるんだよ。

ここでは謎の貴族扱いで良いんだからな」


 そう諫めても、カドハチの態度は変わらなかった。


「政務を中座させてしまったと聞き及んでおります。

申し訳ございません」


 あー、それが気になっていたのか。


「それは、俺がカドハチをかせて呼んだからだから何も問題はないぞ」


「ご寛大なお言葉、感謝の極みでございます」


 これ、いつまでやるつもりだ?


「えーい、話が進まない!

俺を王と思うな!

以前と同じ感じでやってもらわないと話がしにくい!

これは命令だからな!」


「そう仰られても……」


 やれやれだぜ。

そこまで言ってもカドハチは態度を変えなかった。


「カドハチには頼みたいことがある。

それに励んでもらうのが、忠義というものだからな」


「ははっ! なんなりとお申し付けください」


 だめだ。俺がアーケランドの王となったことで、もう以前の関係には戻れないのかもしれないぞ。

仕方ない。仕事の話をするか。


「いま、新たな城を建てているのだが、その調度品や家具を納入してくれ。

妻たちが好みの家具を発注するから、要望を聞いてやってほしい」


「かしこまりました」


「おそらくディンチェスターにいる職人だけでは量的に無理だろう。

そこで、これをカドハチに託す」


 俺はアーケランド王家御用達のふだをカドハチに渡す。

その札には、王家の紋章と商業ギルドのカドハチ商会認証番号が描かれており、それを持つことでカドハチ商会がアーケランド王家御用達だと判るようになっている。


 これにより、カドハチがアーケランドの王都などで、他の商会が抱えている職人にも無理が言えるようになるのだ。

どうしても早急に家具が必要なため、このような便宜をはかることにしたのだ。

これも裁縫女子たちが自分たちの分もと駄々を捏ねたせいだ。


「こ、これは……」


「無理をさせることになる。

その手助けになればと思って用意させた。

頼むぞ」


「身命を賭して励ませていただきます」


 カドハチは、その御用達の札に涙流して喜んでくれた。

最後まで砕けた口調にはなってくれなかったけどね。


 この後、カドハチ商会はアーケランド、隣国エール王国、皇国、農業国を股にかける大商会になっていく。

それはまた別の話。

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