教国ともめる

第515話 教国からの親書

 カドハチがやって来るのは王都で政務のある曜日だ。

地球の曜日ではなく、すい曜日にあたる。

ちなみにみず曜日が地球の曜日になる。

面倒だが、そうなっているので仕方がない。

現地語ならば、単語が違うので明らかなのだが、スキルによる自動翻訳のせいで俺たちだけ面倒なことになっているのだ。

その日だけはアーケランドの政務を抜け出してカドハチに会うことになっている。


 風曜日。朝一で王都へと疑似転移した。

そこで温泉拠点に行っていた間に溜まった政務を熟すのが、王である俺の仕事だ。


 いつもは宰相チェックの入った書類に目を通し、問題が無ければそれにサインをする。

あるいは予算が伴う重要書類には玉璽を押印し決済する簡単なお仕事だ。

だが、今回だけは特別な書類がまわって来ていた。


「教国からの親書?」


「はい、フラメシア教国からの親書になります。

王が代替わりしたと知り、探りを入れて来たのでしょう」


 さすがに親書ともなると、俺が直接開封するのが礼儀なため、宰相になったタルコット侯爵でも中は見ていないらしい。

まあ、毒や魔法による暗殺の危険の有無ぐらいはチェック済みだけどね。


「教国の宗教は、アーケランドでは邪教認定されていると聞いているが?」


 勇者召喚を頻繁に行うアーケランドを教国は目の敵にして、育つ前の勇者を何度も暗殺しようとしていたのだそうだ。

実際、暗殺された勇者もかなりの人数がいるらしい。

そこで教国の教えを邪教認定し、国内に強硬な信者が入らないように規制したのだそうだ。


「おおかた、王が交代すれば、その限りではなくなるだろうという発想で媚びて来たのでしょう」


 タルコット侯爵の見立てが腑に落ちる。

そんなところだろうが、アーケランドとしての方針は今後も変わることは無いだろう。

俺や妻たちに暗殺の危機がついてまわるような政策をするわけがないのだ。


「まあ、読んでみればわかるか」


 俺はその羊皮紙の封蝋を剥がし、その中身を読みはじめた。

その内容は……。

貴族文書は、無駄が多いので端折ってお伝えしよう。


 まず、俺の王位継承への祝辞が美辞麗句とともに書かれている。

そして、教国の事情とアーケランドとの関係改善に関する、どうして欲しいのか判らない曖昧な記述が並ぶ。

そして、勇者アレックスと勇者アーサーが打倒されたことの賛辞が書かれていた。


 俺はこの親書の扱いに困って、タルコット侯爵に渡した。

アーケランド貴族としての意見を得たかったのだ。

タルコット侯爵も、俺の許可を得て親書を読む。

そして、困った顔をする。


「もしかして、俺がアーケランドのトップ勇者2人を倒したことを歓迎されているのかな?」


「そのようですな。

おそらく、陛下のことを勇者だとは思っていないのでは?」


「あー、それはあるかもな」


 俺は当初から謎の貴族という触れ込みだったからな。

アーケランドが召喚した勇者として登録されたこともない。

常にアーケランドと戦う立場に居た。

ましてや、そのアーケランド勇者と対立する勇者がいるなどとは思われていないのかもしれない。

俺が真の勇者だという触れ込みも、皇国と同盟していたという情報も、まだ教国には伝わっていないのかもしれない。


「どうされますか?」


「教国はまだ勇者を殺してまわっているのか?」


「最近は、勇者排斥論者を除名して、穏健的な宗教になったと自ら宣伝しておりますが……。

裏ではまだ繋がっているのではないかと思われます」


「ちなみに、勇者を排斥するというのは、なぜなんだ?」


 教国が勇者を敵視するための宗教として成立したわけではないだろう。

その教義に勇者がなんらかのことで引っ掛かるから排斥しようとした。

それは何だったのだろうか。


「なんでも、勇者召喚は世界を破壊する悪手であり、勇者の存在そのものが世界に破滅を齎すというのが、勇者排斥論ですな」


 あー、勇者召喚が、勇者の世界渡りで無理をしている可能性は確かにあるからな。

同じ場所から続けて召喚すると穴が広がって危ないという話は聞いた気がする。

それをアレックスがやらかしてたのは問題だわな。

だが、それをどうにかするために、召喚された勇者を殺そうってのは無いよな。

勇者が足りないから、新たな勇者召喚をするんだろ?

本末転倒じゃないか!

俺たちだって被害者なんだ。だったら、元の世界に帰せよ!


「で、今の教国の教義はどうなっている?」


「勇者排斥は捨て、勇者召喚を非難するようになっております。

二度と勇者召喚をさせてはならないと」


 そこは俺と意見が合うな。

勇者召喚は二度とさせるつもりはない。

それに、勇者だからと即抹殺となっていないのならば、まともな宗教になっているのでは?


「勇者を害さないならば、少しは話を聞いても良いのかもしれないな」


「お待ちください。未だ勇者排斥論者は組織的活動を続けているようです。

そして、末端の信者にも勇者排斥は根付いたままです。

個々が宗教の教えに従って勇者を害する可能性は残ったままなのです」


 情報伝達の遅れと情報過疎の問題か。

本部が勇者排斥を捨てても、末端では勇者排斥思想が残ったままということもあるのか。

個人が宗教のためにテロを起こしかねないとなると、そこは教国と手打ちというわけにはいかないか。


「その勇者排斥を捨てたという教義の普及を、教国に要求するってところで抑えとくか」


「それがよろしいかと」


 宗教、めんどくさいな。

それにしても、世界が壊れないためという大義は、無下にするわけにはいかないかもしれないぞ。

勇者召喚で心当たりはあるからな。

そのためにも、勇者召喚の秘密は調べておく必要があるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る