第512話 方針転換
サダヒサと侍女を残して護衛武者たちが皇国に帰ってしまった。
どうやら皇国の護衛団の中で何らかの方針転換があったらしい。
魔物討伐でレベル上げをしてもらっただけなのに、なんだか武者たちの目が死んでいたような。
魔の森の魔物がちょっと強すぎたか?
悪いことをしたかもしれない。
護衛の役目は何も個人の強さによるものだけではない。
護衛対象が襲われた時、護衛対象と襲撃者との間に入り、身を挺して盾となる。
それも重要な役割であり、それは人数が多いほど有利となる。
護衛武者の数は14名。
朝、昼、夜の3交代で4名ずつが護衛に就き、その中の誰かが不調の場合の予備として2名がいる。
だが、有事となれば14名全員で護衛に就くのは当然のことだ。
しかし、その護衛任務中に護衛が
そのため俺は護衛たちにレベル上げをしてもらって、不測の事態にならないようにただ耐久力を上げて欲しかっただけなのだ。
単独で魔物を倒せればなお良し、最低でも生きていれば助けられるし、手足の1・2本ぐらい欠損していても生えさせるぐらいは容易い。
少なくとも躊躇せずに盾となる自信だけは持って欲しかった。
恐怖で脚が竦んで、あるいは反応が遅れて、護衛対象を護れないなんて事にはなって欲しくない。
いや、あってはならない。
その荒療治が湧き点制圧だったのだ。
あれぐらいで心が折れていたら魔の森ではやっていけないんだが……。
◇
暫くして、皇国から交代要員がやって来た。
皇国とはディンチェスター経由で通信が確立している。
サダヒサが翼竜でディンチェスターへと手紙を送ると、そこから皇国秘伝の方法で皇国本国へと手紙の内容が伝わる。
その返答をまた手紙にして翼竜が持ち帰るのだ。
サダヒサが護衛の帰国とその理由を伝え、交代要員がその日のうちに皇国を出立して来たということだった。
「サダヒサ、その秘伝の通信手段って、スキルだろ?」
おそらく、テレパシーか、物質転送だろう。
俺が使っている念話と召喚術に近いスキルだと思う。
「そこは同盟国でも教えられもうさん」
そうだよね。想像がついていても認めるわけにはいかないよな。
まあ、交代要員が早く到着しただけでも良かったと思うべきか。
皇国はそんな重要な秘伝をディンチェスターと皇国本国を繋げるために使用している。
どれだけ重要視しているかということだろう。
もちろん、この温泉拠点との――いや俺との関係をということだろう。
交代要員は、サダヒサが報告したその日に皇国を発ち、最短日数で温泉拠点までやって来ていた。
「護衛隊、着任いたしました!」
それはうら若き女武者の集団だった。その数14名。
男の護衛武者と同数の4人組3交代予備2名だった。
男尊女卑が根深い異世界だが、なぜか騎士・兵士や冒険者としての女性参画には忌避感があまり無い。
まあ、体格的に厳しいという単純な能力差があり、女性が人数的に少ないのは事実だが、門前払いということは無いらしい。
男子優先の武家社会かと思われていた皇国でもそれは同じで、少なくない女武者が存在していた。
女性はクノイチしか認められないというような世界ではないのだ。
「サダヒサ、何を報告した?
なぜ、女武者と交代になった?」
それにしても解せない、なぜ男武者から女武者に全員を変えたのだ?
「彼女たちは常に
積極的に敵を葬る役目よりも、盾となる役目を重視しておる」
「盾なら男でも、いや男の方が良かったのではないか?」
女性が身をもって盾になり、傷つく姿なんて見てられないぞ。
かといって男たちと同じように湧き点制圧でレベル上げさせるわけにもいかない。
つまり、俺が男たちにやりすぎたってことか。
それと、俺が女性に甘いと思われたか?
「そこは
やはりサダヒサのやつ、俺の性格を読みやがったな!
女性に無理をさせない、過度に大事にしたい、それはクソ親父のトラウマで身についてしまった俺の悪い癖だ。
わかってるんだよ。甘いことは!
でも、無理が聞けるうちはワガママを許容しても良いじゃないか!
くそ、ここは丸め込まれてやろう。
「そうだな。無理せずにレベル上げをさせて傷つかないようにしよう」
俺がそう言うとサダヒサがニヤリと勝ち誇ったような顔をした。
なんだ、まだ何かあるのか?
「彼女たちは、朝も昼も
彼女たちも
なんだその含みは?
そういや、皆美人ばかりじゃないか。
和のテイストで金髪とか、あらゆるタイプが勢揃いだ。
「皇国は勇者の血を受け容れる用意がありもうす。
いや、勇者の血を必要としておりもうす」
これはハニートラップ!
女武者たちに俺の種を仕込めって言うことか!
「嫡子としての継承権など求めぬ。
真の勇者の種を皇国にもたらしてくだされ!」
どうやらサダヒサは、俺の活躍を目の当たりにして、それが勇者の血によるものと判断したのだろう。
実際にサダヒサも勇者の子孫であるために能力が高い。
勇者として優遇されたスキルやステータスが子孫にまで伝わるという生き証人なのだ。
そこで、俺の子種を手に入れようと方針転換したということなのだろう。
だが、そこはクソ親父トラウマの禁則事項だ。
「嫁たちが認めなければ無理」
これは大原則だ。
浮気はNG、嫁が認めた本気はOK。
皆に平等な愛を。
「それは重畳。奥方様たちには拙者が許可を取りもうそう」
いや、だめでしょ。絶対。
だいたい、俺が受け入れる気がないもん。
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あとがき
皇国では勇者の血筋維持のために、正室側室が得た精子をこっそり侍女にも種付けして子を成すということがあったとかなかったとか。
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