第510話 護衛として

 勇者召喚の時系列は、この世界と地球では前後することがある。

さすがに同じ時期に多数の召喚を行うと時空絡みで問題となるからだ。

同じ場所に穴を開け続けると、そこが脆くなって穴が塞がりにくくなる、そういった感じだろうか。


 いま俺たちが認識している勇者召喚でも、皇国の祖となった女性が鎌倉時代から、アレックスと薔薇咲メグ先生が3年前から、島津武者が戦国時代から、高田幸雄とシモーヌ喜多川さんが5年前から、そして俺たちが1年前から、翼たちが半年前から召喚されている。


 それらも、この異世界に辿り着いた年代は、地球での時間の流れとは前後しているのだ。

アレックスと薔薇咲メグ先生が召喚された年代など、この世界では100年前だと言われている。

サダヒサの祖先たちは、その魔王化したアレックスと戦うために召喚されたらしい。

そして、最近になって先代や俺たち、翼たちが召喚されたのだが、それ以前も召喚勇者は無数に居たようだ。


 ただ、それらは記録が残っておらず、本人たちも亡くなっているため、どのような時代からどのような勇者が召喚されたのかは当事者のアーケランドでも失伝してしまっている。

そこには勇者排斥論者というカルト組織による新米勇者の暗殺も影響しており、詳しく残せない事情があったと思われる。


 俺たち前後の召喚は召喚術式に手が加えられたことで、特定の年代から集中的に召喚出来るようになったようだ。

そこには召喚人数の増加という試みも加わっていた。

おそらく転生したアレックスが、何らかの関与をしていたと思われる。

30人前後の生徒が連続で行方不明になる、その時空的な影響をアレックスは己の利のために無視したのだろう。


 サダヒサたち皇国の武者は、召喚勇者の血筋の者と、その鍛錬方法を引き継いだ皇国武者とで能力に差がある。

島津は猪武者に例えられるが、サダヒサであっても先祖から4代経っている身だ。

その思想や経験は、年の経過とともに薄れ、純粋の島津武者とは言い難いアイデンティティを持つに至っている。

そして、その教えを受けた武者たちも、あの島津とはかけ離れた存在となっている。


 それが湧き点に対して怯えるという行動に現れていた。

まあ、俺もドラマや漫画、小説の中の姿でしか島津をイメージしてないんだけどね。

「え、島津が臆するの?」と思ったことは内緒だ。

それもサダヒサ以外は島津の血じゃないし、この世界ではこの世界の命のかけ方というものもあるのだ。

瀕死でも死ななければどうにかなる回復薬や魔法がある世界だ。

1人1殺など、命がもったいない。

そして、相手は数に物を言わせた魔物たちだ。

圧倒的な力量差でもないと、さすがに臆して当然だったか。


「サダヒサ、この護衛たちは勇者レベルではないのか?」


「当たり前だ! 勇者の子孫でもないただの一般人だ!」


 それでマナ姫の護衛が務まるのか?


「なあ、護衛いらなくね?」


「ぐぬぬ」


 サダヒサも勇者がゴロゴロ居る温泉拠点に、この護衛たちでは無意味だと悟ったようだ。

だが、皇国武者の矜持というものがある。


「いくぞ! この程度の魔物も倒せねば、護衛として不適格だとヒロキ王は仰せだ!

皇国武者の矜持を示せ!」


「「「「うおーーーーーー!!!」」」」


 あ、まずい。

サダヒサが皇国武者を引き連れて無謀な突撃を始めてしまった。

弱いなら弱いで、死んでもらっては困る。


「【物理防御】【武器強化】【魔法反射】【オールステータス上昇】!」


 とりあえず皆にバフをかけた。

あとは魔法で援護しておくか。

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