第508話 団体さん到着

 曜日になり、疑似転移で王城から温泉拠点に帰って来た。

翼と星流ひかるは、結衣の作った料理を食べてから領地へと戻る予定だ。

この楽しみこそ彼らが護衛任務に赴く参加意欲になっていると思われる。

彼らとは元々は接点が全く無く、学年も1年先輩となるのだ。

いろいろあってアレックスの元から解放してあげたとはいえ、俺と彼らの間に君主と臣下という関係性が築かれたわけではない。

結衣の料理が彼らを繋ぎ止めていると言っても過言ではなかった。


「美味すぎる。月1なのが悔やまれる……」

「もっと(護衛に行っても)良いっすよ?」


 星流ひかる、それだと領地の運営が疎かになるだろ。

領主貴族様だということを忘れるなよ。

まあ、星流ひかるの所には有能な内政官を派遣したから大丈夫だとは思うけどね。


「ご飯ぐらいなら、いつでも食べに来て良いからね。

それとお弁当も持たせてあげるから、領地運営も頑張ってね」


「「あざーす」」


 手料理を美味しそうに食べるもんだから、結衣が星流ひかるたちを甘やかす。

結衣はその手に一見ただの革鞄に見えるアイテムバッグを2つ持っていた。

弁当入りのアイテムバッグだ。


 ちなみにお弁当は、アイテムバッグに入れれば数週間はもつ。

アイテムバッグは【アイテムボックス】スキルの下位互換という感じの魔導具だ。

普通のバッグに付与魔法で【アイテムボックス】機能を付与したものになる。

その機能は、さすがにスキルよりも劣り、容量が少なく、品質保持に関わる時間停止が緩い。

なので、食品を入れておくと緩やかに痛んで行くのだ。

だが、それでも通常よりは遥かに保存が効く。


 ちなみにアイテムバッグは俺の手作りだ。

もっと性能は上げられるのだが、そうなると国宝級になってしまって、それを所持すること事態がトラブルの元となってしまう。

へたすると奪い合いで命に関わることにもなってしまう。

そのため、あえてスキル持ちよりも実用性が低い程度に性能を下げている、つもりだった。


 【アイテムボックス】スキルには個人差があった。

勇者の【アイテムボックス】スキルと一般人のスキルでは性能が違っていたのだ。

俺が作ったアイテムバッグは、勇者と比べて性能が低いのであって、一般では高性能すぎてしまっていた。

まあ勇者から奪う危険を冒すほどの物ではないはず。

結衣が簡単に配ってしまったが、仕方がない。


 星流ひかるたちとの関係は、胃袋を掴んでいるおかげで、臣従とは違うかもしれないけど上手く行っている気がする。

この良い関係を今後も維持していきたいところ。


 ◇


 翌曜日。

皇国から団体さんがやって来た。

皇国との調整をいろいろ行なってもらったサダヒサも一緒だ。


 俺はアトランディア皇国皇帝の外戚で、皇国の重鎮シマヅ家の娘、マナ姫を妻としている。

その団体さんはマナ姫の護衛と世話係の者たちだった。

ざっと30人ほどいるのではないだろうか?


「城はまだ完成してないんだが?」


「ここは保養地と聞いておったが、城を建てるならば、まさに護衛は必要であろう。

拙者が任に就く。安心召されよ」


 アーケランドとの戦が終結したため、皇国武者も暇になったのだろう。

サダヒサ自身が護衛で常駐するつもりらしい。

俺としては、皇国の姫だろうと嫁たちと一緒に和気藹々と生活したかった。

それが温泉拠点の緩い雰囲気だと良い意味で思っていたのだが。


「リュウヤ殿たちが領地に散った今、ここの護りは必要であろう」


「いや、あの竜種大量孵化で護衛戦力は間に合ってるんですが?」


「姫には、それ相応の扱いが必要である」


「いや、その世話係の住居もまだ無いんだけど?」


「案ずるな、我ら常在戦場、幕舎での寝泊りは慣れておる」


 マナ姫は屋敷に部屋を持っているから良いけど、これは早急に仮の宿舎を建てなければならないな。

これで城の完成が遅れるならば、本末転倒ではないだろうか?


 ゴーレムを増やすか。

何かあった時のために、召喚枠は確保しておきたいんだけどな。

これはレベル上げをして枠を広げるしかなさそうだな。


「しょうがないな。城が完成するまでの仮宿舎を建てるから、そこに住んでくれ。

マナ姫の世話係は、屋敷の部屋に入っても構わないが、護衛は屋敷の外にしてくれ」


「城の建築は、我ら護衛も手伝おうではないか。

力仕事ならば任せてもらおうか」


「気持ちだけ受け取っておくよ」


 ゴラムたちが土魔法で建てているので、人の手が必要なのは魔法的な強化ぐらいのものだ。

皇国から来た護衛は、そいういった生産系の魔法が使えそうもない武者ばかりだ。

付与魔法や陣魔法といったスキルには乏しそうだった。

ならば、手伝える場面は存在しない。


「それよりも、街壁の内部に取り込まれた魔物の討伐任務があるのだが、それを手伝ってもらえないか?」


 街壁は魔の森をその内包する魔物ごと囲んでいる。

壁の内側から魔物の危険を排除するためには、その魔物を討伐しなければならない。

その任務をサダヒサたちには行ってもらおう。


「それは良い訓練になりそうであるな」


 俺もレベルアップしたいから、魔物討伐はやりたかったところだ。

サダヒサたちを案内するという名目で、ちょっとレベル上げして来よう。

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