第507話 王のお仕事

 地曜日――地球で言う月曜日。

ゴラムたちに街道整備と外壁工事、そしてお城の建築を任せ、アーケランドの王城に疑似転移して来た。

一応護衛として紗希と、曜日に翼と星流ひかるを温泉拠点に招集して連れて来ている。

彼らの領地は翼竜を使えば1日で温泉拠点まで来れる距離なのだ。

ああ、星流ひかるは自分で飛んで来るんだけどね。


 王城に直接出仕させる手もあるが、さすがに王城までの往復は遠いため、疑似転移に便乗する形にしている。

これが王城直行ならば、翼たちは1週間以上領地を空けなければならないところだ。

疑似転移を使うことで、翼たちは領地からの移動に往復2日かかり、護衛任務で3日俺につく事となる。

この間、ほとんど領地を出ているかたちだが、4交代制で月1なので勘弁してもらう。


 王城では、王にしか決済できない仕事をこなす。

タルコット侯爵を宰相に据えたので、ほとんどの仕事は丸投げ出来ているのだが、最終的に王の裁可が必要な事項もあり、それをやらなければならないのだ。


「女王制ってあり?」


 山と積まれた書類――羊皮紙なので、植物紙よりも厚みがあり思ったよりも枚数は少なかった――との格闘が終わり、俺はタルコット侯爵に訊ねた。

俺が王を辞める道は無いのかと思ったのだ。


「王家は伝統的に男性が王となる決まりです。

女王は今まで立ったことがありません。

外から王を迎えるにしても、必ずアーケランド王家の血筋との婚姻関係が必須です。

次代の王あるいは配偶者には必ずアーケランドの血が入っていなければなりません」


 アーケランド王家が隠して来た勇者召喚の秘密に、アーケランドの血が関わっていた以上、血筋が王家に残らなけれなならないのは理解出来る。

だが、その勇者召喚をアーケランドから奪ってしまった今、それに拘る必要はないのでは?

いや、血筋を残すならば、女王で良くね?


「伝統ならば、変えることは可能だろう?

女王もありにする、それで良くないか?」


「女王では他国に舐められるのです。

国の権威というものが守られねば、アーケランドは要らぬ戦乱に巻き込まれることでしょう」


 出たー、異世界価値観。

地球での中世レベルだから男尊女卑が根付いてるんだよな。

無理やり女王を立てて、舐めて攻めて来るような国は竜種で潰すという手もあるが、それで戦乱が巻き起こるのならば、止めておいた方が良いか。


「内々で女王制にするというのはどうだ?

例えば、この決裁書類をセシリアのサインで通せるようにするとか」


 対外的にはお飾りとして俺が王でいるが、内部ではセシリアが女王となって政務を行う。

一応俺は真の勇者のジョブを得ているので、対外的な権威としては申し分ないのだ。


 そういや、真の勇者の取得条件にアーケランド王家の血が関わっているみたいだ。

これもアーケランド王家の血を残さなければならない理由だった。

王家の血が絶えたら真の勇者が出なくなるかもしれないのだ。


 委員長が一時期真の勇者だったそうだし、それは何きっかけだったのだろうか?

俺の場合は、セシリア王女とのキスだった。

エレノア、セシリアともに委員長とは無関係だったようだし、まさか末妹のシャーロットに手を出していたのか?


「確かに、書類の決裁ならば頼みたいところですが、よろしいのですか?」


 タルコット侯爵が言うのは、書類はただサインすれば良いものではないということだった。

目を通し、妥当であればサインをし、問題があれば突き返す。

それがセシリアに出来るのかということだった。

そこがザル化すれば腐敗の温床となる。

タルコット侯爵が目を光らせているとはいえ、その膨大な仕事にはチェックミスが出ても仕方がない。

その最後の砦として王の決裁があるのだ。


「腐敗貴族も一掃したし、どうにかなるのでは?」


「いつのまにかアレックスに支配されていても知りませんよ?」


 アレックスが密かにアーケランドに戻り、裏でコツコツと支配を広げれば、国の乗っ取りなど簡単に出来るだろう。

それを監視するためにも俺が書類に目を通すことで異変を察知するのも必要か。


「俺を過労死させる気だな。

今のところ支配された者を察知する魔導具に反応はないのだろ?」


「はい、どうやらアレックスは国外に出たものと思われます」


「だが、逆に1人も見つからないのが不気味か」


「はい、逃走を幇助した者あるいは組織が存在しているはずです」


 これは手を抜くことが出来ないぞ。

おかしいな、平和になればスローライフが出来るはずだったのに。

いや、アレックスが居る限り、平和ではないのだな。


 ◇


 王城で王のお仕事をするのは週の始めの3日間だ。

最初は4日以上必要だと強行されかけたが、必死に戦って得たギリギリの日数だった。

そこには重要な任務が含まれていた。


 執務が終わった俺は、王城奥の王家専用ゾーンに入る。

そこに王の寝室がある。

その寝室ではセシリアが薄着で待ち構えていた。


「お帰りなさいませ、旦那様♡」


「セシリア、不自由はないか?

義母上は落ち着いたか?」


 王城と温泉拠点での二重生活を行なうにあたり、セシリアは王城に残ってもらっている。

さすがに泥に塗れた温泉拠点で王妃を生活させるわけにはいかないからだ。


 そして、アレックスとアーサーに国をめちゃくちゃにされ、王を殺された王妃は、傷心でふさぎ込んでしまっている。

王妃は外から政略結婚で入って来た他国の王女だ。

その国との繋がりは、今アーケランドが抱える面倒事の1つだった。


「私は不自由しておりませんわ。

むしろ以前よりも居心地が良いのです」


 召喚の間を奪ったせいか、王城内の空気が良くなった気がする。

召喚の間が何か変な瘴気でも発生させていたか、あるいは王城に居る者から魔力を吸っていたかしていた懸念がある。

うちの城でも気を付けないといけないところだ。


「お母さまは、実家と手紙をやりとりをして元気にしておりますわ」


 実家と手紙って……。

何か変な企みでなければ良いのだが。

たしか、東のフラメシア教国の向こう側だったか、あまり情報が無いんだよな。

ちょっと探った方が良いかもしれないな。


「それよりも♡

王家のため、世継ぎを早く作らなければなりませんわ♡」


 エレノア王女の子はアレックスの血を引いていないと思われるのだが、男子だったとしても、さすがに次王候補にするわけにはいかなかった。

なので、産まれる前から王位継承権無しということに決定していた。


 そうなると、次王はセシリアが産まなければならない。

その後3日間、毎夜俺は子作りに励むことになった。

これも立派な王のお仕事なのだ。

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