第502話 褒章
温泉拠点は俺たちの大切な家だ。
このまま平和が続くならば、このままここでスローライフがしたいのが俺の本音だ。
だが、アーケランドの王となってしまったからには、
腐敗していた貴族――ほとんどが皇国と因縁があった――を皇国に引き渡したために、やらなければならない内政仕事が増えてしまっていた。
その残務を俺は温泉拠点に持ち込んでいた。
リュウヤたち結婚組は、別邸を建てて家族単位で別居している。
薔薇咲メグ先生のスタジオも一軒家として分かれている。
そして俺が住む領主邸――偽貴族のね――には俺の嫁たちと5人の同級生女子が同居していた。
そろそろ住居を分けるべきかと思っていたが、
なので、俺が王としての政務をリビングで行うと、そこには嫁と同級生女子が普通にたむろしているという状況になっていたのだ。
「領地の加増が出来ない貴族家をどうしようか」
当然の如く、援軍として働いたタルコット侯爵派閥の貴族には、褒章を与えなければならなかった。
そしてその褒章として改易された貴族領を加増としている。
しかし、それも隣り合った領地であったり、統治し易いものに限られてしまう。
オールドリッチ伯爵なんかは隣がバーリスモンド侯爵領だったため、そこから割譲することで褒章とすることが出来た。
だが、そんなに上手く行く領地ばかりではない。
飛び地にしないために領地を召し上げて転封などしてしまうと、例え加増でもかえって迷惑だったりするのだ。
そんな貴族家には金銭で褒章を出すことになるのだが、その資金など王家には残っていなかった。
「しょうがない。物を贈るしかないわね」
聞くとはなしに聞いていた
貴族が領地を手に入れて、そこを安定統治して、今後税を手に入れると思えば、シャインシルクの価値は、その領地から得る税の何十年分になるのかというものだった。
飛び地を貰うよりも、それはそれで喜んでもらえるかもしれない。
あれだ、信長が価値のある茶道具を褒章として出したのとおなじ感覚だろう。
「良いのか?」
しかし、シャインシルクが大量に市場に出れば、値崩れを起こす。
その杞憂から販売量を制限していたのだが。
「そうするしかないでしょ?」
ここはもうどうしようもなかった。
「ありがとう。助かる」
嫁ではないけど、やはり家族なんだよな。
だが、それで解決とはいかない。
「改易した貴族の領地が残っているけど、どうしようか」
余った誰も統治していない領地は、王家直轄領とするしかなく、今の王家には負担でしかなかった。
そこは元々正統アーケランドとは敵対していた貴族の領地なのだ。
反乱の素地が残っており、難しい統治が約束されているのだ。
「このまま代官を置くぐらいならば、リュウヤくんたちを叙爵して統治してもらえば良いんじゃないの?」
そう言い出したのは結衣だった。
今の王家には信用できる代官のあてなどないのだ。
ならば同級生を置くというのが現実的だった。
「なるほどな」
リュウヤたちも帰還出来ないならば、この地で子を作り育てて生きて行こうと前向きになっている。
領地を与えて叙爵すれば、ある程度良い生活が出来るだろう。
アーケランドが手を出さなければ、この周辺国は安定している。
今後は内政を頑張って経済を発展させていく平和路線にするつもりだ。
「その線で行こうか」
バーリスモンド侯爵領は、皇国と接しているが、皇国との戦争が終結した今、外敵への備えが必要でなくなった。
だが、皇国との間には迷宮が存在し、その氾濫に備えなければならない。
「置くならば赤Tかパツキンか。
いや、あまり大きい領地を渡すと他の貴族家から不満が出るか。
ならば、分割して2人に渡そう」
農業国との国境付近は、委員長の守り役だった貴族家の領地で、そこも領主が不正蓄財で処罰されていた。
農業国から奪った食糧や財産を横領していたのだ。
その領地は農業国に賠償として割譲されたが、支配しにくいということで半分は残されていた。
「ここは青Tかな」
青Tならば、農業国と上手くやってくれるだろう。
「次は細かい男爵家の領地か」
細かく分かれすぎて統合出来なかった所だ。
「翼たち1人1人に渡してしまおう」
そして残ったのが東のフラメシア教国に接する領地だ。
ここはもう1人の侯爵が治めていた領地だった。
一応は教国に対する守りということだったのだが、教国は武力の所持を禁じられ、ただの宗教国家となっているため、楽に統治出来ると思われた。
ただ、領地がデカい。
かなり削って褒章として他家に渡したが、その全てを分割して渡すには、さすがにその貴族家たちには過剰な褒章だった。
「その残りはリュウヤに渡そう」
リュウヤの働きはそれに値する。
是非とももらって欲しいところだ。
「それが良いかもね」
こうして俺は、同級生たちに叙爵と領地の統治をお願いすることになった。
「この世界に骨を埋めるならば、それも良いか」
「貴族か! 良ーじゃんか!」
「俺は留守番しかしてないのに良いのか?」
「ご命令とあらば」
ああ、そうだ。青Tの執事洗脳は解かないとな。
リュウヤ的な常識人に切り替えとこうか?
「もう解けている」
「え?」
青Tのカミングアウトに俺は驚いた。
赤Tが自力で洗脳を解いたように、青Tも自力で洗脳を解いていたのだ。
それはハルルンが魔族化しそうになった時のことだったそうだ。
「ハルルンの事、感謝している。
だから俺も変われたんだよ」
執事として私と称していた青Tが久しぶりに俺と言っていた。
どうやらハルルンへの愛が青Tを成長させていたようだ。
もしかして、リュウヤも?
俺がリュウヤを見つめると、彼もニヤリと笑顔を向けてきた。
マジか! 人は変われるのだ。
そして有難いことに誰も俺のした洗脳を恨んでいなかった。
「何のことだっつーの!」
いや、約1名変わってなかったか。
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