第500話 同窓会
温泉拠点に行こうというのは、何もバカンスのためだけではない。
アレックスの残滓対策で、留守番組にも聖魔法をかけなければならなかったのだ。
毒のある魔物を食べてしまった、さちぽよ、青T、ハルルンは、既に
パツキンとミニスカもラブラブなので、その癒しのおかげで猶予があるだろう。
そして
さすがに直ぐにも闇落ちしそうなメンバーは居なかったので、後回しにしていたのだが、この機会に聖魔法をかけて依り代とされる懸念を払拭しておこうということだった。
ちにみに半魔化している薔薇咲メグ先生は、アレックスが復活の儀式をする前の召喚だったために、アレックスの残滓の心配はない。
アシスタントのシモーヌ喜多川さんは、アレックスの依り代となった高田幸雄の同期なのでアレックスの残滓の該当者だった。
だが、彼女も毒のある魔物は食べていないし、アレックスが求める強いスキルとは無縁のため、大丈夫だろうと判断した。
そうだ、高田幸雄の名が出て来たので、もう一つの懸念について。
第1王女エレノアは、アレックスの妻としてその子供を身籠っている。
だが、アレックスの身体は依り代である高田幸雄のものだ。
この子供はアレックスと高田幸雄、どちらの子なのか?
つまり精子は依り代になった者のものになると思われた。
だがアレックスは、エレノア王女が身籠った子に、我が子という認識を持っていたように見えた。
自分の種ではないかもしれないのに、それは何故なのか?
答えは、お腹の中の子供にあった。
その子には産まれる前からアレックスの残滓があったのだ。
それはアレックスが産まれてくる子供を将来依り代にするつもりだったということだ。
剣聖の加護を持つ勇者とアーケランド王家の血を持つ子供を、自ら次の依り代として育成するつもりだったのだろう。
子供も道具扱いか、これは許すわけにはいかないな。
そこはもう、
これで、エレノア王女の子は勇者高田幸雄の子としてアレックスとは無関係と出来るはずだ。
魔王の子――半魔になっていなくて良かったよ。
その点、魔王の身体を得た俺の子が不安だが、そこはおいおい対策を考えることにする。
温泉拠点に到着し、
そしてパツキンとミニスカには、少し育った残滓があった。
魔物毒が大きなきっかけとなることは間違いない。
それと
魔物毒を摂取しておらず、悪事で闇落ちもしていない高田幸雄が、アレックスの依り代に選ばれたのは、復活の儀式を盛り込んだ召喚でたまたま能力が高かったからなのだろうか。
◇
アーケランド王国とエール王国の国交正常化により、温泉拠点に男子チームがやって来た。
せっちん、貴坊、丸くん、雅やんの4人だ。
彼らは全員、正式なエール王国勇者として登録され、エール王国の所属となっている。
彼らの訪問目的はアレックスの残滓の除去と同窓会だ。
こちらから
ならば同窓会にしようと、同級生全員が集まることになった。
たまたま全員が集まる機会など滅多になかったからね。
「そうか……。委員長が死んでそのアレックスに身体を奪われたのか。
俺の手で仇を討ちたかったのにな」
リーダー格のせっちんが、無念の滲む声で言う。
彼にとって委員長はノブちんと栄ちゃんという気の良い仲間の仇だった。
一見、面倒見が良い優等生に見える委員長だが、プライドが高く、人と張り合うという悪癖があると、付き合いの長い同級生たちは知っていたそうだ。
俺みたいな仲間外れになっているような、下に見れる者には優しい面を見せるが、上に立ったとなると攻撃的になり張り合う、そんな人物像だったらしい。
それが俺には見抜けていなかった。
「同級生31人が、今じゃ22人だけか」
男子チームは俺、せっちん、貴坊、丸くん、雅やんの5人が生存。
委員長、ノブちん、栄ちゃんの3人が亡くなっていっる。
女子チームは8人全員が生存。
一度死んだメンバーもいるが、復活できたならば問題はない。
ヤンキーチーム男子は、リュウヤ、赤T、パツキン、青Tの4人が生存。
ロンゲ、サンボー、パシリ、ブービーの4人が亡くなっている。
ヤンキーチーム女子は、さちぽよ、ハルルン、陽菜、ミニスカ、さゆゆの5人が生存。
アマコー、ゆきりんの2人が亡くなっている。
皮肉にも、ブービー以外は同級生同士で殺し合った結果だ。
いや、委員長は近衛騎士にやられたんだった。
でも、あの時俺たちが委員長を捕縛していなければ、近衛騎士を止められていればという後悔がある。
アレックスの洗脳、委員長の暴走、俺たちにはどうしようもない強制力が働いていた。
戦わなくて良い者同士が戦うことになる、どこでどう歯車が狂ったのだろうか。
◇
同窓会が開始され、結衣と瞳美により、全員に日本食が振舞われる。
これからは別々の国で生きていくことになるのだ。
せめて日本食を食べさせてあげたい。
そんな思いでごちそうが並べられた。
「「「「うまーい!!!」」」」
「洞窟の頃よりなんか食材が良くなってね?」
「毎日食べたいよ」
「
「「「「うらやましーぞ!!!」」」」
「それで、日本に帰れる手段はみつかった?」
貴坊から何気なく上がった質問に、一同の食事の手が止まった。
事情を知っている者、知らない者で表情が違う。
「まだ知らない人もいるから、ここで全て話しておくよ」
そう俺が切り出すと、全員の空気が重くなった。
どう見ても悪い話としか思えなかっただろうからだ。
当然、俺も悪い話をするつもりだった。
「この世界への召喚は、上の世界から下の世界に落すというものらしい。
つまり、下の世界から上の世界に上るには、特別な手段と膨大なエネルギーが必要だろうと推測できる」
「ああ、やっぱり帰れないのか」
「そうだとは思ってたけどさ」
だが、それはなんとなく覚悟をしていたことだったようで、案外ダメージは少ないようだった。
「一応、研究用に召喚の間の魔法陣一式は奪っておいた。
これで新たな召喚は出来なくなったし、戻るための研究も出来るはずだ」
「期待しないで待ってるよ」
「そうなれば、縁談の件、断らなくて良いか」
結婚していると、この世界に家族を作ることになる。
帰ると、その家族を捨てる事になる。
それで踏ん切りが付かなかったのだろう。
皆案外、切り替えが早かった。
「そうね、あんたたちも癒しが無いと闇落ちして魔族化するわよ」
「なんだそれ、おっかねーな」
そして魔族化の話が出る。
「魔物には食べられる魔物と食べられない魔物があって、食べられない魔物を食べていると魔物毒が蓄積して、魔物や魔族に変化してしまうんだよ」
「こっわっ! 魔物の毒ってそういうことかよ」
「ちょっと待って、僕、魔物食べさせられたよね?」
雅やんがヤンキーたちに無理やりゴブリンを食べさせられたことを思い出した。
「すまん、あれは悪いことをしたと思っている。
俺たちも知らなかったから、あれからゴブリンを常食として食べていたんだ」
「でも、僕が毒見だったよね?」
実は雅やんは毒耐性スキル持ちで魔物毒を無害化していたことは秘密だ。
「ほんと、悪かった」
リュウヤが土下座した。
ヤンキーばりばりだった頃では考えられない行動に雅やんの方が逆に慌てた。
「やめて! もう良いよ。
何も無かったし」
そういやリュウヤには真面目になる洗脳が軽く残っていたんだけど、戻さない方が良いよね?
会話が難しくなるし。
「話を戻すが、食べて良い魔物は、獣とか魚とかの生物が魔物化したものだ。
悪魔とか鬼とかの元からの魔物は危ないと思った方が良い」
ゴブリンは小鬼なのでアウトだ。
「それで癒しって?」
「闇落ちを救う手段だな。
闇落ちが魔族化のキーなんだよ」
「どうすれば癒されるの?」
貴坊はゴブリンを食べたことがあるから必死だ。
まあ、スキルで無害化してるんだけどね。
「あれだ」
俺はヤンキーたちを指さした。
そこには男女が隣り合って並んでいた。
リュウヤの横にはさゆゆとクララ、赤Tの横にはヨハナ、青Tの横にハルルン、パツキンの横にはミニスカだ。
「全員結婚している」
「「「「なんだってー!!!」」」」
ちなみにいま俺の周囲には6人嫁がいる。
「愛だよ、愛。
それが闇落ちから救ってくれるのだ」
「ちょっと待て!
リュウヤはなんで嫁が2人なんだよ!
それにさゆゆが分裂してるじゃんか!」
さゆゆとクララはそっくりだからな。
双子か分裂したかのように見えるが、他人の空似なのだ。
「この世界、一夫多妻も多夫一妻も自由だ」
「「「「なんだってー!!!」」」」
「それと、リュウヤと赤Tは現地妻を迎えている」
「「「「なんだってー!!!」」」」
「くそ、赤Tのくせに美人じゃないか!」
「どうやって捕まえたんだよ!」
「うるさいわ! そんなことどうでも良いだろうが!」
赤Tが隠したくなるのも当然か。
ヨハナは奴隷だったからな。
それも俺の金で買って来た……ちょっと腹が立って来たぞ。
バラすか。
「この世界、奴隷を買って嫁にすることも可能だ。
従軍娼婦など、騎士との玉の輿目当てもいるからな」
「「「「なんだってー!!!」」」」
「バラすな。恥ずかしい!」
「ふん、バカTにヨハナちゃんなんか勿体ないんだぞ!」
陽菜は未だに赤Tを恨んでいるようだ。
だが、確かに赤Tには過ぎた嫁だろう。
そしてソワソワしだす4人。
残った男で妻が居ないのは自分たちだけだと気付いたのだ。
「ちなみに、転校生は?」
「7人かな?」
結衣、瞳美、麗、さちぽよ、陽菜、そしてセシリアと
「「「「なんだってー!!!」」」」
「ヒロくんは、アーケランドの王女と皇国の姫も娶ってるしね」
「「うらやましい」」
「「俺たちも……」」
そして4人はこの場にフリーの女子がいることに気付いた。
4人の視線が5人の同級生に向かう。
「「「無理」」」
「絶対無理」
「眼中にない」
酷い言われようで、何も言わないうちに4人は撃沈した。
「俺たちにだって縁談はあるんだ!」
「こうなったら赤Tを見習って……」
どうやら、元の世界に戻れないことはそんなにショックではなかったようだ。
これならば、彼らもこの世界で逞しく生きていけるのではないだろうか。
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