第499話 戦後処理
アーケランド王国の立地は、北に皇国、南に農業国、そして西にエール王国が存在する。
北の皇国との間には山脈が、西のエール王国と南の農業国との間には魔の森が広がっていて、数少ない通行可能な街道で他国と接している。
それらが天然の要害となっていて、攻めるも守るも難しくなっているのだ。
かつては、そのアーケランド側にも他国領があった。
だが、それらの領地はアーケランドが戦争により奪った形になっている。
農業国の北部には
その目的は戦争で不足した食料の確保だった。
その際に、農業国の兵に加えてエール王国から技術指導に来ていたノブちんと栄ちゃんまでが犠牲になっていた。
農業国には、その占領した領地を返還し、賠償金を払うことを打診、それにより終戦とすることが出来た。
ノブちんと栄ちゃんのことはエール王国との間の問題だとしてくれたため、解決できたようなものだ。
エール王国は、俺の活躍により戦争に勝ったため、ディンチェスターを皇国と共同統治することで納得してもらえた。
ノブちんと栄ちゃんという勇者2人を失ったが、それは元々アーケランドに対抗するためのものであり、俺がアーケランド王になったことで、今後理不尽な侵略が無いとなれば、勇者の存在は必要ではなくなる。
ならばその損害は未来の平和のために不問にするということだった。
当然心情的なものはあるが、それは仲間を失った俺たちの方が辛いだろうと斟酌してくれたのだ。
弱腰に見えるかもしれないが、気の良い平和を愛する優しい王様なのだ。
問題は皇国だった。
国の成り立ちからして反アーケランド王国なのだ。
泥沼の戦争状態、アーケランドに利用されていた勇者の裏切りと合流、さらには魔王アレックスとの因縁。
既に身内の仇同士が骨肉の争いを繰り広げている状態だった。
お互い振り上げた拳を収めるには、恨みが積み重なり過ぎていた。
俺が王となったから良しとはならないのだ。
「俺の目が黒いうちは、侵略戦争などさせない」
そう言っても納得してもらえない。
「戦争犯罪があったならば、その当事者は処罰する」
その当事者のアーケランド王とバーリスモンド侯爵は死んでいた。
「奪われた領地は返還するし、ある程度の賠償金は出せる。
あとは、共通の敵であるアレックス打倒に協力するぐらいしかないぞ」
つまり、それ以上を要求するならば、俺だって国内を抑えきれない。
国民は王の命令で戦っただけであって、結果として身内を皇国に殺されている者だっているのだ。
そんな恨みを飲み込まざるを得なかった国民が、さらなる負担を強いられる。
俺のやり方に不満を持った国民に反旗を翻されて泥沼の内戦になるわ。
そんな国民を皇国のために殺して回るほど、俺は鬼畜ではない。
「アーケランドを滅ぼしたいのであれば、既に俺が滅ぼし占領したと思ってもらいたい。
つまり、次に戦うのはアーケランドではなくて俺の国と戦うということだ」
俺がこう言って、初めて皇国が退いた。
納得はしていないが、納得せざるを得なくなったのだ。
経済的な損失はある。
人的損害は、どうしようもない貴族を取り潰すだけなので問題ない。
返還される土地も、元々住んでいた住民は、税金の支払い先が変わる程度の感覚しかない。
国内問題も大方片が付いた。
アレックスが魔王だと公表された後もアレックスに与するような貴族は存在しなかった。
ただし、アレックスの虎の威を借りて悪さをしていた貴族が、発覚後に抵抗した程度だ。
そいつらは、対皇国戦でも戦争犯罪を行なっていたため、賠償として皇国に引き渡させてもらった。
食糧事情が悪化していたグラジエフ要塞には、駐屯軍が活動出来るだけの充分な補給を行った。
その食糧の確保先は訓練迷宮だ。
有り余るDPを使って、少しだけドロップ率を上げたのだ。
所謂ボーナスステージと化した迷宮は大いに賑わい、賠償に使われた経費を補填するに有り余った。
アーケランドに未曽有の好景気が訪れたのだ。
経済が上向けば、何も他国から奪うことはない。
戦争が終われば戦うための軍も縮小出来る。
問題の失業対策も、軍で迷宮に潜れば良いだけだった。
値崩れデフレなど気にもならない。
他国から奪っていたものが自前で手に入るのだ。
戦わなくても豊かになれる。
腹いっぱい食えれば誰も文句はつけない。
娯楽も提供できる。
「これで不満がある国ってあるか?」
アーケランド王としての統治は大変だったが、俺はついにスローライフに専念できる平和と余裕を手に入れたのだ!
「もうアーケランドは勝手に回る」
何かあったらカメレオンに伝えればノックで知らせるようにした。
疑似転移でいつでも王城に戻れる。
「よし、温泉拠点でバカンスだ!」
あそこもいろいろ手を入れたい。
もう米は出来ただろうか?
アレックスの動向は調査中だ。
支配されているかを確認出来る魔導具を開発し、街の出入り口に配備したのだ。
アーケランド国内ならば、いつか尻尾を掴めるだろう。
もし、国外だったならば……。
次の戦争に備えなければならないか。
◇
「王よ! 何処に行くつもりですか!」
温泉拠点に行こうと結衣たちに招集をかけたところ、セシリアが凄い剣幕でやって来た。
セシリアも行きたいのか?
あっちの生活は田舎レベルだぞ?
「セシリアか、ちょっと温泉に行って来る」
「大事なお仕事を放ってですか?」
大事なお仕事?
今まで頑張ってやって来たはずだが?
その余裕が出来たからこそバカンスに行こうと。
「いや、大事な仕事って、もうやり切っただろ。
セシリアも行く?」
そう俺が言うとセシリアがポッと頬を赤らめた。
「新婚旅行ですわね?」
何を言ってるんだ?
ただの息抜きだっての。
「王も大事なお仕事を解かっておいででしたのですね♡」
なんだその♡は?
「誰かある! 私も同行いたします♡
お世継ぎを作るために♡」
それかー!
大事なお仕事って、王家として跡継ぎを作れってことかっ!!!
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