第498話 アーケランド王になる

 アレックスの攻撃で貴族たちが大なり小なり傷を負った中で、タルコット侯爵派閥の貴族には無傷の者が存在した。

それは俺たちが潜入するために入れ替わっていた貴族がいたからだ。

彼らが精力的に事態収拾をはかった結果、やっと国として機能出来るまでになった。


 王城にはエレノア王女をはじめ、3人の王女が戻ることになった。

王妃の安否が心配だったこともあるが、彼女たちの権威で不満を持つ貴族たちを抑える意味もあった。

それに便乗し、俺たちも王城に移ることになった。


「つまり、王はアーサー委員長に支配されつつも、最後に正しい仕事をしたのですね」


 セシリア王女の配偶者が俺だったせいで、委員長アーサーが譲渡を強要した王権が俺のところへろ来たことを、王妃は殊の外喜んだ。

王は、王権を譲ると直ぐに委員長アーサーに殺されていた。

おそらく、何らかの事態で王が正気に戻った時、邪魔されないようにということだったのだろう。

委員長アーサーがそこまで非道になった原因が判らなくなってしまったが、そこには闇落ちが関わっていたんだと思いたいところだ。

元は委員長アーサーが真の勇者だったそうだから。


「真の勇者であり、アレックスとアーサーを退けたヒロキ・ミウラ=カシマが、アーケランドの王となることを認めます」


 アーケランド王亡き後、王を継ぐのは俺であると王妃が正式に認めてくれた。

エレノア王女を推していた派閥は、アレックスの暴挙のためにさすがに力を失った。

委員長アーサーにすり寄っていた貴族たちも王位簒奪の共犯者と言われたくないために、直ぐに寝返った。

どうせ何らかの悪事を行なっているので、後で調べて処罰すれば良い。


 王妃が王と認めたことにより、今後アーケランドは俺が差配していくことになった。


 ◇


 その求心力向上のために、マドンナが活躍してくれた。

聖女の力で恭順を示した貴族から治療を行なったのだ。

その聖女の力はエリクサーと同等。

毒も欠損もたちどころに治してしまった。

その聖女が俺の嫁なのだ。

様子見を決め込んでいた者まで、こぞって恭順を示すこととなった。


 ちなみに、マドンナにはアレックスの残滓は無かった。

結衣と紗希にも無い。

これは聖魔法を使われたことがあるかないかに依存しているかもしれなかった。


「赤Tは麗の治療を受けたことがあったけど、リュウヤは無かったか」


 そして、闇落ちの程度。

闇落ちが進んでいれば、残滓も強力になり、多少の聖魔法では消えることがないのではないか。


 魔物毒の摂取、悪事に加担、悪事の認識、そして俺の場合は魔物の眷属化、それらが闇落ちを進める。

俺にとって癒しとは無垢の愛情だった。

それは聖魔法に近いものだったのだろう。


 ◇


 大多数の貴族が負傷し、一部が命を落とすこととなった大惨事、その後始末が終わった。

亡くなった貴族や引退した貴族は、跡取りに代替わりした。


 そして今日、俺の戴冠式が行なわれることとなった。

王家も、国の重鎮も、軍部も掌握した。

修理された謁見の間には爆発の跡もない。


「2人の魔王を退け、国を救った英雄、真の勇者ヒロキ・ミウラ=カシマを第67代アーケランド王と認めます」


 王妃の宣言により王冠が俺の頭に、王爵が俺の手に渡った。

新たな王妃となったセシリアにも王妃のティアラが渡る。

その手には玉璽が握られている。

これにより、王妃は前王妃となった。


 俺は王権を使い、頭上に王家の紋章を高々と表示する。

と同時に宰相、大臣、将軍、そして諸侯たちが跪き臣下の礼をとる。


「王となったヒロキ・ミウラ=カシマ・アーケランドだ。

今後王国アーケランドには変わってもらうことになる。

まず、アレックスが始めた皇国、エール王国、農業国との戦争をやめる。

内政を重視し、それにより国を豊かにするのだ。」


 俺のたまご召喚と眷属の力、加えてダンジョンマスターとなって自由に出来る迷宮がある。

戦わなくても豊かな国、それを目指していく。

反発もあるだろう。

交戦国も納得させなければならない。

だが、それが平和の第一歩となるのだ。


 俺たちは日本に帰れそうもない。

勇者召喚が上の世界から下の世界に落す一方通行らしいからだ。

上の世界に戻すには莫大なエネルギーが必要なのだろう。

その手段を探し、実行出来るようにするためにも、国が平和でなければならないのだ。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


Side:???


「農業国での工作は上手く行ったようだな」

「ああ、勇者を焚きつけて別の勇者を討たせることに成功した」

「正義に目が眩んだ甘ちゃん勇者など、偽情報で良い様に躍らせる事が出来たわ」


「だが、世界の歪みがまた酷くなったのう」

「また彼の国が勇者召喚を行なったのだ」

「ここのところ連続して行なわれたようだな?」

「勇者許すまじ」

「世界を守るため、勇者は排除せねばならん」

「聖戦じゃ! 信者を総動員せよ!」


「待たれよ!」

「ん? 〇〇〇ではないか、何用か?」

「そなた、我らの方針に異を唱えると言うのか!」


「既に勇者は育ってしまっているではないか。

それで勝てるというのか?」

「確かに、気付くのが遅すぎた」

「奴らも隠蔽が上手くなったものだ」

「弱いうちに勇者を狩るという今までの方法は通用せぬな」

「それでは信者たちが無駄に命を散らすこととなり救われぬ」

「ならばどうすれば良いというのか!」


「毒を以て毒を制す。

農業国でも成功した手であろう?」

「そんな都合の良い駒がいるのか?」

「勇者から魔王化した者どもがおる。

そいつらを保護した。

魔王化した勇者を利用し勇者にぶつけ、共倒れをはかるのだ」

「「「「おおお!!!」」」」


 俺の知らない所で勇者排斥論者と呼ばれるカルト教団が暗躍していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る