第497話 次王

 リュウヤと赤Tを調べたところ、リュウヤには残滓があり、赤Tには無かった。

まさかの事態に、調査範囲を広げた。

そして腐ーちゃんも調べたところ、腐ーちゃんには僅かだが残滓があった。

とりあえず聖魔法で消しておいたが、この差はどこから来たものなのだろうか?

更なる検証が必要だった。


 アレックスが復活したからには、とりあえず残滓があっても悪さをしないだろうということで、翼たち5人を聖魔法で浄化する以外は、今出来ることを優先することになった。

タルコット侯爵邸の結衣たちや、温泉拠点の裁縫女子たちは後回しということだ。


 残滓が依り代の鍵ならば、アレックスが委員長アーサーの身体を乗っ取っている今は、他の者はアレックス自身が言っていた予備にすぎないのだ。

急にアレックス化してアレックスが2人いるなどという事態にはならないものと思われる。


 今やらなければならないのは、アーケランド王国の掌握だった。

アレックスの魔法攻撃による被害者の治療が行なわれ、一段落ついたところで、タルコット侯爵が皆の前に立ち状況を説明する。


 アレックスが過去から蘇った魔王で、王国アーケランドを手に入れようと画策し、王族を洗脳していたこと。

セシリア王女の洗脳が解かれ、俺と婚姻し共に正統アーケランドを興し、アレックス打倒の軍を編制し戦っていたこと。

俺が真の勇者の称号を持っていると判ったため、タルコット侯爵が協力していたこと。

グラジエフ要塞での戦いで、一度はアレックスを討つことに成功したこと。

その隙にアーサー委員長が王族をスキルで支配し、王位簒奪を画策し国の重鎮まで支配し、国の差配までをしだしたこと。

だが、その王位簒奪は配偶者違いから失敗していたこと。

貴族に召喚命令が出たため王城に潜入し、アーサー委員長を捕え、支配を解除しようとしていたこと。

近衛騎士が捕縛したアーサー委員長を殺害したために、その身体を依り代として魔王アレックスが復活したこと。

そして、あの大惨事が起きたこと。


 アレックスに洗脳されていた経験のある者や、アーサー委員長の支配を受けていた者は、それが解除されたことで、皆タルコット侯爵が言っていることに合点がいった。

自分自身が経験したことは、誰でも理解が早いものだ。


「セシリア王女の配偶者に王権が移ったというが、それはアーサーの奴が王を支配したことによる強制であろう」

「左様、王の本意ではないはず。

その正統性は確認しなければなりませんぞ」

「だが、真の勇者でこの事態を収めた英雄ともなれば、王の資格は充分にあるぞ」


 俺が真の勇者であることはステータスを見せて皆が確認済みだ。

そこを疑う者はいない。

カブトン纏もそういったスキルがあるだけだと納得してもらえた。

それだけ真の勇者という称号は、信用のおけるものなのだろう。

だが、そこで俺が無条件に王となるとなれば話は違って来る。

俺に王権が移譲された経緯が正統なものかといえば、そこに疑問符がつくのは当然だった。


「それならば、王の意志を確認すれば良かろう」


 アレックスの洗脳に加えて、委員長アーサーの支配が消えているのであれば、今の王は正気なはずだ。

王の意志を訊ねる、それが一番早いのは間違いない。

俺としては、アーケランドが敵対しなければそれで良いのだ。

王権を返せと言うならば、いつでも返すつもりだ。

いや、元々王が召喚勇者を駒のように使い潰していたことが、この事態の原因なのも事実。

その罪は償わせなければならないか。


 だが、その心配は杞憂に終わった。


「大変です! 王が殺害されています!」


 それは王の様子を確認しに行った近衛騎士の報告だった。

彼は委員長アーサーにより監禁されていると思われていた王を解放しに行ったのだ。


 いや、そうしなければならないこと自体が、そもそもおかしかったのだ。

委員長アーサーの支配が解けているならば、この事態に王が自ら出て来ても良かったのだ。

王の周囲には支配が解かれた近衛騎士もいる。

委員長アーサーが自らを支配しいろいろやったことも理解している。

王が委員長アーサー討伐に動かない理由はない。


 それが行なわれなかったのは、王が既に殺されていたからなのだ。


「なんてことだ!」

「王妃様は?」


「ご無事です。

しかし、王の無残な死に様を知り、その場に頽れ、意識を失われてしまっております」


 王妃が支配から逃れて一番にしたことは、王や娘の安否確認だったようだ。

王妃は王も自分たちのように個々に軟禁されていると思っていたらしい。

しかし、娘たちは誰一人居らず、王の部屋には遺体がそのまま残されていたのだそうだ。

警備役の近衛騎士も部屋の中の様子は知らなかったという。

密室で行なわれたことに誰も気付いていなかったのだ。


「となると……」


 国の重鎮が一斉に俺の方を見る。

エレノア王女は懐妊中で、その子はアレックスの子だ。

継がせるわけにはいかない。

シャーロット王女は子供で論外。

となると、セシリア王女の婿で真の勇者である英雄――恥ずかしながら俺ね――が王として適任。

王権の移譲も終わっている。

これ以上ない結果かもしれない、そう判断されてしまった。


「今は緊急事態だ。

少し落ちついてからゆっくり話し合うとしましょう。

ですが、国のため、暫定的に私が動かせていただきたい」


 タルコット侯爵が棚上げを提案する。

そして混乱が収まるまでは暫定的に自分が指揮をとることを提案する。

大臣たちと俺、その両者を仲介できる位置付けに侯爵がいたからだ。

俺もそれで良いと思う。

いまは次王は誰かで揉めている時ではない。

アレックスと委員長アーサーに引っ掻き回された王国アーケランドを正常化しなければならないのだ。

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