第493話 混乱

 リュウヤと赤Tの変装は既に解除されていた。

しかし、優斗まさとたちは騎士爵の変装のままであり、それが混乱を助長していた。

傍から見ると、侵入者を騎士爵が迎撃しているように見えるのだ。

そして、ここに集まった貴族たちの2/3以上が委員長が王権を得ていないことを知らず、新王だと思っていた。

書式の整った召喚状、そして新王即位の知らせ、加えて王の紋章を示した俺が昆虫人間の姿なのだ。

そんな状態でこの状況を見たら、どう対処するべきか、混乱して当然だろう。


「とりあえず、新王を守るべきではないのか?」

「だが、王の紋章を出したのは、あの異形の鎧の方だぞ?」

「魔物を配下にしていて、あの姿だ、あの者は魔王ではないのか?」

「王太女配アレックスが魔王だから打倒すると、セシリア王女が配偶者と共に正統アーケランドを起こしたのでは?」

「新王はセシリア王女と婚姻し、王権を得たという話だったな」

「ということは、新王が正統な王で魔王が打倒すべき相手なのでは?」


 勝手な憶測が独り歩きして、俺がアレックスだという話になってしまっている!

そして一部の貴族たちが、とうとう実力行使に出て、俺たちに対して剣を向ける。

委員長に支配されている者たちが棒立ちなのと対照的だ。


「待たれよ! 正統アーケランド軍は我らであり、その盟主は玉座にいる自称新王ではない!

セシリア王女の配偶者は真の勇者であるヒロキ・ミウラ=カシマ・アーケランドその人である!」


 タルコット侯爵が声をあげる。

だが、それが益々混乱を呼ぶ。

俺の名前を出されても、誰だそれはという空気なのだ。


「アレックスは倒された。だが、新たな簒奪者が現れたのだ。

それが自称新王アーサーなのだ」


 王国アーケランドの実力者であるタルコット侯爵が証言しても、混乱しているのは事情を知らない他派閥の者たちなのだ。

俄かには信じ難いと思われても当然だった。


「ええい、王の紋章が信用出来ぬのか!」


 王の紋章を出せるのは、王権の持ち主だけ。

それを信用しないというだけで不敬にあたる。

だが、俺の昆虫人間の姿と、眷属の魔物を呼んだことが、その信用を揺るがせているようだ。


 纏を解いて姿を現して、どうにかしたいところだが、委員長を解放しようと動く優斗まさとたちの対処が優先される。

遥斗はるとが【洗脳】を使えるため、俺が委員長にした洗脳を解除して、委員長を解放してしまう可能性があるのだ。


 だが、混乱する貴族たちを放置していては、いらぬ諍いをうむ。

どちらも対処しなければならないが、その対処が相反するという面倒な事態だ。

実際、騎士爵の一部が、騎士爵の姿で戦う優斗まさとたちに同調し、加勢し始めてしまった。


「くそっ! やっちまうぞ?

もう手加減出来ねーからな?」


 複数の召喚勇者を手加減したうえで対処している赤Tが焦れて来た。

迷宮で強化されたのは優斗まさとたちだけではない。

赤Tの剣から炎が噴き出す。赤T必殺の炎の魔法剣だ。

だが、剣聖のギフトスキルを持つ隆之介りゅうのすけに阻まれてしまう。

いかに強力なギフトスキルでも剣技の差で圧倒されてしまったのだ。

その後ろから加勢に来た騎士爵が斬り付けて来る。


「手加減出来ないと言った!」


 変装の魔導具を使っている優斗まさとたちと、本物の騎士爵との区別がつかない。

赤Tの魔法剣に剣ごと斬られ、ただの騎士爵が倒れる。


「あ、くそ! 偽者か!」


 いや、どちらが偽者かといえば、優斗まさとたちの方だろう。

だが、このままではまずい。


「委員長、自分の立場を証言するんだ!」


 ここは委員長に新王ではないことを証言してもら……いや、委員長は自分自身で新王だと思い込んでいる。

嘘をついているつもりがないから、このままでは新王を自称するに違いない。

それはさらなる混乱の元だ。


「いや、待て。

そうだ、支配をどう使って新王になったか話すんだ!」


 委員長の中では新王になったことは事実なのだ。

だが、その就任の過程が支配による簒奪であれば、貴族たちが新王と認めるわけがない。

洗脳により、俺の言う事をきくようになった委員長が話し出した。


「僕はセシリア王女を【支配】のスキルで支配して結婚した。

そして、アーケランド王も支配して、セシリア王女の配偶者に正式に王権を譲らせたんだ。

王権を譲られたセシリア王女の配偶者こそ僕、つまり僕が新王になったんだ」


「支配のスキルだと!」

「それで王権を奪ったのか!」

「つまり簒奪ではないか!」


 貴族たちから怒声が飛ぶ。

王権の簒奪、それは許されざる大罪だ。


「いや待て。

だが、その王権は異形の鎧、真の勇者だと称するそこの者が持っているぞ?」

「どういうことだ?」


 優斗まさとたちに加勢していた連中も、事の成り行きに手が止まり、遠巻きに見守るだけになる。


アーサー委員長は、セシリア王女の配偶者が王権を得たと言ったであろう。

アーサー委員長が婚姻したと思っていた時点で、既にセシリア王女は正統アーケランドを興し、真の勇者ヒロキ王の配偶者となっていたのだ!

セシリア王女の配偶者とはヒロキ王であり、王権は契約の元、ヒロキ王に移った。

つまり、正統なアーケランド王は王の紋章を示したヒロキ王である!」


 タルコット侯爵の証言に皆が事の次第を理解した。

だが、俺の魔王とも見紛う昆虫人間の姿に納得がいっていない様子だ。


「真の勇者だという証は後で見せよう。

今はアーサー委員長の支配と魔導具の暴走で敵対している者を制圧するのが先だ!」


 俺がそう言うと、優斗まさとたちに加勢していた者たちも矛を収めて退いていった。

これで優斗まさとたちだけに対処できる。

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