第494話 王権簒奪

 近衛騎士たちは、委員長アーサーの支配下にあり、その長期命令で委員長アーサーを守ろうとしていた。

その面倒な近衛騎士を、腐ーちゃんが【洗脳】の上書きで支配下から抜けさせた。

近衛騎士たちは、支配から逃れたことを自覚し、自らが必死に守ろうとしていた偽王委員長に戸惑っているようだった。


 今度は俺が同様の事を優斗まさとたち5人にすれば良い。


 俺は優斗まさとたちを抑えるため、近衛騎士の解放のために呼んだ眷属たち――キラト、オトコスキー、カミーユ、ニュー、カミラ、沙雪――を呼び寄せ向かわせる。

リュウヤと赤T、そして俺を加えれば9対5となる。

委員長アーサーの支配によりステータスがブーストされている優斗まさとたちと対するのには充分な戦力だろう。


 リュウヤと大翔ひろとが棍で打ち合う。

お互いに得意武器も、ステータス構成も似通っている。

リュウヤには勇者としてのレベル差と技能に一日の長があったが、その差もブーストと元々の基礎能力の高さで上回られてしまっていた。


 赤Tが対峙しているのは隆之介りゅうのすけだ。

その剣聖の剣技に赤Tの余裕は一切なくなっている。

赤Tはあれでもドラゴンスレイヤーだ。

優斗まさとたち5人が倒せなかったドラゴンを単独で倒した実績を持つ。

その赤Tが隆之介りゅうのすけ1人を抑えるのに精一杯だった。


 そのリュウヤと赤Tに優斗まさとたち5人全員でかかられていたならば危なかったかもしれない。

だが、残り3人の目的は委員長アーサーを助ける事にあった。

仲間を援護し、リュウヤと赤Tを排除、そして委員長アーサーを助けるという合理的な判断が為されていたらと思うと背筋が寒くなる。


 だが、優斗まさと遥斗はると大地だいちの3人は、その支配の特性のせいで、委員長アーサーを守ることを優先したのだ。


 いや、待て。

なぜ彼らは、誰も害しようとはしていないはずの委員長アーサーを守ろうとする?

支配スキルの下にあった近衛騎士たちは委員長アーサーを守ろうと必死だった。

腐ーちゃん、サダヒサ、翼班、そして眷属たちは、近衛騎士の支配を解こうとはしたが、委員長アーサーに危害を加えようとはしていない。

リュウヤと赤Tは、それを阻止しようとしたから攻撃されたとわかる。


「俺か!」


 あの状況で、委員長アーサーを害しようとしていて、委員長アーサーが「助けて」と思ったのは、俺から助けてとなるのか!

つまり、俺を攻撃するために、優斗まさとたち3人は向かって来ていたのだろう。


 だが、今はそうは見えない。

確かに大地だいちは俺に向かって来ている感じだ。

いや、カメレオン1の隠密スキルにより、俺の正確な位置が掴めなくなっているのだ。

その行動は明確に俺を狙っているようには見えていない。

しかし、優斗まさと遥斗はるとは違う。

彼らは委員長アーサーの方に向かって行く。


「貴殿らは何のつもりであるか!」


 サダヒサが怒声を上げる。


「我らは簒奪者を討とうというのだ!」

「邪魔をするな!」

「貴様、簒奪者を擁護するつもりか!」

「その口調、皇国の者ではないのか!」


 なるほど、既に捕縛されている委員長アーサーを討って、手柄を上げようというバカ貴族が現れたのか。

そいつらから委員長アーサーを守ろうと優斗まさとたちは動いているのか。


アーサー委員長は、我らが確保した。

手出し無用でござる・・・


 腐ーちゃんもバカ貴族を抑えようとする。


「おまえも皇国の者だな!」


 ああ、腐ーちゃんの口調がますます誤解を広げてしまった。

ござるは皇国武士っぽすぎる。


 その誤解が、さらなる混乱を産む。

いや、バカ貴族の簒奪者というワードが火をつけてしまったのだ。


「「「簒奪者アーサー、覚悟!」」」


 それは近衛騎士たちだった。

王を守る者たちが王権の簒奪者を守らされていた。

自らを支配したその元凶が目の前で皇国の者に守られている。

その事実が、「これは皇国の陰謀だった」まで妄想を膨らませてしまったのだ。

国家の危機、そして傷付けられた矜持、その思いが委員長アーサーに向いた。


 一瞬、判断に迷う。

委員長アーサーはノブちんと栄ちゃんの仇。

リュウヤやアマコーも委員長アーサーの支配による犠牲者だ。

討たれても仕方ないところはある。


 優斗まさとたちも、委員長アーサーを守るという1点では放置できる。

優斗まさとたちにバカ貴族を討たせても良いかもとすら思える。


 だが、委員長アーサーには、なぜノブちんと栄ちゃんを殺したのか問い質したい。

出来る事ならば生きて罪を償ってほしいし、後悔して欲しい。

今、討たれたら困る。


 とりあえず、近衛騎士だけでも抑えないと。

そうだ、彼らは腐ーちゃんの洗脳で支配から逃れたんだった。


「腐ーちゃん、洗脳の命令で止めて!」


 服従の洗脳をかけていれば、腐ーちゃんの命令で近衛騎士は止まる。

だが、そう上手くは行かなかった。


「近衛騎士の洗脳は解いてしまったでござる!」


「なんだってー」


 洗脳の目的は、支配の解除だった。

洗脳上書きにより支配のバッドステータスが消えるからだ。

ちなみに上書きではなく併用は可能だ。

洗脳者を支配する、支配されている者に洗脳を施す、この併用は成立する。

上書きすることで支配を消せるのだ。


 腐ーちゃんは洗脳に服従を付けないどころか、洗脳解除までしていた。

それは腐ーちゃん自身の闇落ち回避のためでもあった。

洗脳をして直ぐに解除することで何もしなかったことと同じになる。

いや、支配から解放した善行が残るということだ。


 たしかにこの場では、それも有りのはずだった。

だが、それは俺たち日本人の平和ボケした意識にすぎなかった。

まさか、近衛騎士が捕縛されている容疑者殺害に及ぼうとは、俺たちには想像も出来なかったのだ。


 近衛騎士の矜持。王への忠誠、それが歪められた恨みの強さを俺たちは理解出来ていなかった。


 委員長アーサーの胸に近衛騎士の剣が深々と刺さる。

王権簒奪とは、それだけ重い罪だったのだ。


 もしかして、俺への王権移譲も、王の意志ではないとなると簒奪扱いなのか?

俺の背に冷や汗が流れる。

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