第491話 登城1(増補版)

 アーケランド王を自称する委員長アーサー王からの召喚状に、各地方から貴族たちが続々と王都へと集結してきた。

その召喚状配布から登城までの日数は、一番遠い所領から馳せ参じる貴族が到着出来るだけの余裕を持ったということだろう。

それは新王である委員長アーサー王への王権移譲を数多くの貴族たちに知らしめるためなのだろう。

委員長アーサー王としては、これを機会に貴族への支配を広げていく腹積もりなのだ。


 つまり委員長アーサー王は、登城した貴族たちを片っ端から支配するつもりなのだろう。

委員長の支配は接触型だと思っていたのだが、一堂に会した貴族たちを同時に支配する手立てがあるのだろうか?

せっかく貴族たちがバラバラに到着するのだから、その到着の度に支配すれば効率が良いだろうに。

そこには何か問題があるのか、あるいは問題がないから後回しにしたのか、理由はよく判っていない。


「だが、警戒するに越したことはない」


 支配から1度だけ逃れられる魔導具、レベルアップによる抵抗、そして変装の魔導具による入れ替わり。

タルコット侯爵派閥の貴族たちには、俺たちが侵入する隠れ蓑になってもらうつもりだ。


 そう、俺たちが地方貴族に化けて王城に侵入する作戦なのだ。

騒ぎを起こさずに大人数で委員長の前まで辿り着くには、今回の召喚命令は絶好の機会になる。

委員長を確保し、支配されている人たちを開放すれば、この戦争は終わりなのだ。


 ◇


 王城謁見の間に隠れているカメレオン5から念話による合図が届いた。

カメレオンのような人語を話せない魔物は、ノックにより意志を伝えることになっているのだ。

このノックが、今すぐに視覚を共有して欲しいという合図となる。


 カメレオン5の視界には何やら謁見の間で作業するローブ姿の者たちが映っていた。

そのローブには豪華な意匠が施されていて、一目で高位の魔術師なのだろうと判った。

おそらく宮廷魔術師、いや下っ端のように作業させられていることから宮廷魔術師見習いか、魔導師団所属の魔術師というやつだろう。

彼らはどうやら魔導具を設置しているようだ。


 カメレオン5の聴覚も繋げて会話を拾う。

これは聴覚というよりも念話を使ってその場の音声をそのまま伝えてもらっているというのが正しい。

カメレオンなど、人とは違う視覚や聴覚を持っている魔物の、脳を通した生の感覚を受け取るのは厳しいのだ。

ならば、魔法的な通信手段である念話でその場の音声を伝えてもらった方が良いということだ。


『このような魔導具、いったい何に使うつもりだ?』


『さあね、上のやることはわからんよ』


 どうやら彼らには委員長の支配は及んでいないようだ。

しかし、上司が委員長の支配下にあり、その指示で何らかの魔導具を設置しているところらしい。


『魔物警報装置って、ここまで魔物が侵入するってか?』


『そう怒るな。まあ俺たちや騎士団が信用出来ないってことだから気持ちはわかるけどな』


 今設置しているのは魔物の侵入を察知し警報を鳴らす装置のようだ。

これは先日俺たちが王城に侵入したことで警戒しているということだな。

今設置しているということは、魔導具作成に時間がかかったのだろうか。

転移が防げないことも知っただろうし、謁見の間に俺の眷属が転移して来ることを警戒しているのだろう。


ピーピーピー


『そっちの魔導具の魔石に反応しているようだから、感度設定は2にしておくぞ』


『感度1の魔物ならば、どうせ害は無いだろうからな』


 どうやらカメレオン5程度の魔物には反応しない設定にしてくれたようだ。

貴族ならば、自衛用でなんらかの防御魔導具を装備している可能性がある。

それにいちいち反応していたら、防犯装置として機能しない。

なので、命に関わるような魔物に限定して警戒するようにしているのだろう。


 ありがたい。これで支配を逃れる魔道具や、変装の魔導具にも反応されないで済む。

もちろんカメレオン5がスルーされたのは幸運だった。


『そっちに設置してある魔導具は何だ?

やけに大がかりじゃないか』


『これはなんらかのスキルを増幅する装置っぽいな。

ほら、受信部と送信部が見られる。

そして、ここから床に張り巡らされた付属の魔法陣、なんらかの魔法を増幅して魔法陣から使用する感じだろう』


王国アーケランド貴族相手に?』


『急にアーサー卿が新王になったり、上のやることはよくわからんよ』


 良い話が聞けた。

これは支配を広範囲で行なうための魔導具だろう。

そして、感度2以上の魔物の侵入を感知し警報を鳴らす魔導具、俺が眷属召喚で勇者クラスの魔物を呼んだら一発で警報が鳴るということか。

そして、これで地方貴族のふりをした眷属が侵入することも不可能になったということだ。


 俺たちと配下の貴族だけでやるしかない。

翼たちや優斗まさとたちに頑張ってもらわないとな。

結衣と麗は戦闘にむいていないから連れて来れないし、陽菜も転移阻害の魔導具で肝心の転移スキルが使えない。


 セシリアは王権の所在の証人になるから連れて行きたいところだが、眷属を同伴できないとなった以上、思ったよりも危険になってしまった謁見の間に連れて行くわけにはいかない。


 ここは俺が王権を示せば、セシリアは不在でも良いか。

委員長の支配を解除出来たならば、それだけでもある程度は権力を掌握できるだろう。


 さて、どうなることやら。

貴族たちに混ざって登城してみるしかない。

事を起こすならば、まずは増幅装置の破壊だろうな。


 ◇


 タルコット侯爵派閥の地方貴族を装って俺、リュウヤ、赤T、腐ーちゃん、サダヒサ、翼班、優斗まさと班の合計15人で王城に潜入中だ。

貴族家の馬車や御者は本物。

ただし、当主である貴族が変装の魔導具で俺たちになっているという次第だ。

謁見の間には武器を持ち込めない――刃引きの装飾としての剣はOK――ので、俺と腐ーちゃんのアイテムボックスに隠して持ち込む。


 というか、身体検査時に刃引きの剣を見せて、そこを通過した後に本物と交換しただけなんだけどね。

バレたらお家取り潰しの重罪だけど、これから委員長アーサー王を害しようというのだ。

今更、そんなことを気にしている場合ではない。


 リュウヤの棍棒も、変装の魔導具で剣に見える。

赤Tの真っ赤な鎧もごく普通の鎧を纏った武闘派貴族に見えているのだ。

翼班、優斗まさと班は顔だけ変装して、どこぞの騎士爵に見えているはず。

騎士爵程度ならば子爵家以上は独自に叙爵出来るのだ。

顔の知らない騎士爵など掃いて捨てるほど居る。


 そして、俺、リュウヤ、腐ーちゃん、サダヒサは伯爵、子爵、男爵×2に変装している。


 この変装先は、謁見の間での立ち位置に由来している。

玉座に向かって右側に文官や領地貴族、左側に将軍、武闘派貴族、騎士爵が並ぶのだ。

増幅装置がその後ろに分散して配置されているため、それを破壊するためには俺たちも分散する必要があったのだ。


 カメレオン5からの情報により、そこまで計算して実在する貴族と変わってもらい偽装したのだ。

それもタルコット侯爵派閥に限られる。

貴族家当主を説得しなければならないため、結構大変だったのだ。

なので翼班と優斗まさと班は騎士爵として固まってしまい、担当部署が微妙に遠くなってしまっている。


 全員が定位置に並び、いよいよ委員長アーサー王が登場するとの先触があった。


 まずゾロゾロと近衛騎士が並んで道を作る。

その間を委員長アーサー王が移動するのだろう。

これ以上ない防御態勢だ。


 そして委員長アーサー王が現れ、近衛騎士の間を通り玉座に座ると、近衛騎士が左右にバラけて鋭い目で貴族たちの監視を始めた。

少しでも怪しい動きをしたら容赦しないという雰囲気を漂わせている。


 そして、委員長アーサー王が徐に声を発した。


「皆の者、僕がセシリア姫と婚姻し前王から王権を譲られた新王、アーサーである。

僕に従い、そしてアーケランドを共に盛り上げて欲しい。

皆の者、こちらに注目して欲しい」


 そう言うと委員長アーサー王が玉座のひじ掛けに左手を置いた。


「しは「今だ! 破壊しろ!」え?」


 俺たちは素早く動くと謁見の間に設置された10個の魔導具を破壊した。

これで広範囲に支配スキルを使われることはないはずだ。


「賊だ! 賊が紛れ込んでいるぞ!」

「新王をお守りするのだ!」


 1人1人が召喚勇者クラスの戦闘力のある近衛騎士たちが、一斉に剣を抜き襲い掛かって来る。

委員長アーサー王の支配下にある貴族や将軍は短期命令を受けていないため棒立ちだ。

動いているのは巻き添えを恐れた腐敗貴族たちと、今回召喚された事情を知らない地方貴族たちだ。


 その喧噪に紛れ、俺はカメレオン1の隠密スキルで姿を消して委員長アーサー王に肉迫した。


 そして俺の右手が玉座の後ろから委員長アーサー王の右肩に触れる。


「誰だ!」


 その感触に驚きビクリとする委員長アーサー王

俺はすぐさま委員長アーサー王に【洗脳】をかける。


「【洗脳】」

「【支配】」


 だが、同時に委員長アーサー王も【支配】をかけて来た。

俺の洗脳が委員長アーサー王に届く。

同時に委員長アーサー王の支配も俺に届く。


 だが、俺には支配から逃れる魔導具がある。

俺の洗脳は委員長アーサー王に効いたが、委員長アーサー王の支配は魔導具によって無効化された。


 だが、ここで予想外の事が起きた。

委員長アーサー王の【支配】は、生きている増幅装置を通って魔法陣にまで流れた。

その魔法陣の上にはたまたま優斗まさと班の5人がいたのだ。


 委員長アーサー王が咄嗟に仕掛けた【支配】、それには委員長アーサー王自身を守るようにという強い意志が乗っていた。

優斗まさと班の召喚勇者5人に増幅された【支配】が届く。


パーン


 優斗まさとたちに与えた支配から逃れる魔導具が許容オーバーで弾ける。

そして、優斗まさとたちの様子がおかしくなるのが見て取れた。


「委員長、彼らの支配を解除するんだ!」


 俺は委員長アーサー王に俺の言う事をきくように洗脳をかけていた。

ほとんど支配と同じだ。


「無理だ。支配は解除できない」


「では、大人しくさせろ」


「わかった」


 だが、そう簡単にはいかず、優斗まさとたちが暴れはじめる。

ターゲットはリュウヤや赤Tだ。


「どうした? なぜ攻撃が続く」


「あれ? 命令を聞かないよ?」


 それは委員長アーサー王にも想定外だったようだ。

戸惑いの表情を見せる。


「新王から離れろ!」


 近衛騎士が隠密の解けた俺を見つけて斬りつけて来る。


「くそ、委員長の側から離れてしまう!」


 予期せぬ状況に混乱だけが広がって行く。

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