第489話 訓練迷宮2
サザランド伯爵の許可書により、入り口わきの転移スポットに案内された。
どうやら軍の訓練では階層のショートカットが常識のようだ。
この中で一番深いところの経験者はリュウヤだろうか。
その攻略記録により、同時携行人数20人までがリュウヤの行ったことのある階層まで転移出来る。
それこそ召喚勇者たちも近衛騎士の攻略記録を利用して、深い階層まで行って訓練していたわけだ。
幸い、その攻略記録や個人情報は第三者に開示されない。
転移スポットの記録により、リュウヤが召喚勇者だとバレずに済むってわけだ。
「とりあえず、翼たちに合わせた階層に降りるか」
この中で一番弱いのは翼たちサッカー班の方だった。
リュウヤが、翼にどこまで降りていたかと訊ねる。
「23階層までです」
「ならばもう少し強い魔物と戦うぐらいが良いか」
サポートできる強者がいるからには、多少無理をしてでも経験値を稼がせる必要がある。
リュウヤは翼たちをパワーレベリングするつもりはなく、本人たちにギリギリ攻略させて鍛えていく方針のようだ。
「よし、25階層に行くことにしよう」
リュウヤは翼たちの記録よりも2層深い階層を選んだ。
ここは訓練迷宮経験者に全て任せてしまおう。
「全員、転移魔法陣へ」
翼たちサッカー班と
「よし転移!」
リュウヤが先導し、25階層を目指す。
『システムエラー! 緊急プログラム始動。
転移先を変更します』
システム音声が頭に響く。
どうやら俺たちは転移エラーに巻き込まれてしまったようだ。
◇
目が覚める。
どうやら気絶していたようだ。
『上位権限者の存在を確認。
マスター権限を移譲いたします。
ようこそ紅蓮迷宮へ。
上位権限者の……』
何やらシステム音声が五月蠅い。
周囲を見回すと、そこはビル警備の警備室のような場所だった。
壁には迷宮内のどこぞの映像が流れていて、手前のコンソールで何かを操作出来るような感じだった。
それは機械的ではなく、全て魔法的な仕組みによる産物だった。
そんな周囲の風景に一瞬目を奪われていたが、俺は結衣たちが心配になり、慌てて俺が寝ていた床を見回した。
「全員いるな」
目を覚ましてはいないが、身動きはしている。
どうやら全員無事に転移して来ているようだ。
転移エラーなど、その転移先で死んでしまうこともあるのだ。
助かったならば、まだどうにかなる。
『上位権限者の存在を確認。
マスター権限を移譲いたします。
ようこそ紅蓮迷宮へ』
「五月蠅い!」
またシステム音声が頭に響く。
どうやら俺にだけ聞こえているようだ。
『ようこそ紅蓮迷宮へ。
マスターを歓迎いたします』
「紅蓮迷宮?訓練迷宮ではないのか?」
『正式名称紅蓮地獄迷宮です。
俗称で訓練迷宮と呼ばれているようです』
ぐれん、ぐんれん、くんれん……。
どこかで言い間違いでも発生したのか?
地獄、どこ行った?
「仕入れ先」なんて言われるぐらいだから、地獄要素が消えてしまっているのかな?
「それにしてもマスターって何だよ?」
『ダンジョンマスターのことです。
マスターにはこの迷宮の上位権限が認められましたので、マスター権限が移ったのです。
マスターがこの迷宮の支配者ということです』
マスターって俺のことか。
このシステム音声――いや、ダンジョンシステム音声か――は、俺にしか聞こえていないようだ。
「ということは、俺がここのダンジョンマスターということか?」
『はい、マスター。
ご指示をお願いします。
ここ数百年、マスター不在のため、セーフモードで運用しておりました。
いつでも侵入者に地獄を見せる用意があります』
地獄を見せるのはやめてください。
マスター権限って何が切っ掛けなのだろうか?
魔王?真の勇者?それとも王権?
とりあえず、俺がここのダンジョンマスターになってしまったようだ。
となると、あの懸念があるぞ。
「マスターはダンジョンから出られないって縛りはあるのか?」
『何ですか、それは?
そんな縛りはありません。
それよりもさっさとご指示をいただけませんかね?』
随分人間的な砕けた回答をするじゃないか。
マンマシンインターフェイスとしては優秀なのかもしれないな。
ならば、ここはシステムに任せてしまうのも有りだな。
「迷宮維持はこのまま。
そうだ、訓練場を作ってくれ。
対戦形式でレベルアップ出来るように魔物と戦える場所を作れ」
『マスターの仰せのままに』
迷宮の奥で何かが動く音がした。
新たな階層が出来て、そこに岩のような石のような重い物が動き回った感じの音だろうか?
『闘技場を作成しました。
防御フィールド、死に戻り機能搭載、任意の魔物を召喚できます。
DP2千万ポイントを使用しました』
お約束でDPを使用する仕組みか。
2千万ポイントって使い過ぎじゃないのか?
「ポイント残高は?」
俺は、DPを稼ぐために四苦八苦する未来を予想してシステムに訊ねた。
そんなことをしている場合ではないのだ。
『58京6876兆7944億6「待て待て待て!」……』
「京ってなんでそんなに貯めてるんだよ!
2千万なんて誤差じゃんか!」
『我が迷宮のDP収入は高止まりしております。
そしてここ数百年、ほぼ高額使用がありませんでした』
なんで、管理が放置されてたんだこの迷宮は?
「ここはどこだ? 皆、大丈夫か?」
リュウヤたちが起き出した。
この状況は正直に説明するしかないな。
「どうやら、俺がこの迷宮のマスターになったようだ。
とりあえず訓練場を作ったから、そこでレベル上げをするぞ」
「ぜんぜん意味がわからない」
そりゃそうだ。俺もわからないんだからな。
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