第476話 さゆゆ奪還1
Side:アレックス
要塞都市グラジエフは、その内部に食料生産力を持つ。
だが、それは都市に住む市民の胃袋を満たすのみであり、余剰なものは存在していない。
都市には常時10万、緊急時に追加でさらに10万の兵が配備されている。
その食糧を含む補給物資は輜重隊によって毎日届けられているが、籠城となると備蓄されている食糧を消費しなければならない。
要塞都市には、20万の兵たちが補給無しで1カ月籠城出来る量の食糧を備蓄している。
通常の10万ならば2カ月になる。
そして今回は皇国との決戦に備え、さらに増援の10万を加えた30万もの兵がいる。
つまり、補給が滞れば、20日で備蓄が尽きる。
今回は更に悪いことに、
残った食糧は3日分。毎日の補給が届く間はどうにかなるが、滞れば戦わずして負けることとなる。
そのため、苦肉の策で10万の兵を王都に戻す事にした。
といっても、10万の兵に食糧も持たせずに戻すわけにはいかない。
輜重隊と遭遇するまでの1日分を持たせ、出会った輜重隊から食糧を手に入れながら、王都まで戻ってもらう。
30万人で3日分の食糧から、10万人で1日分の食糧を供出し、残り20万人で消費するならば、4日分となる。
だが、早馬が王都に戻り、補給の増量を要請すれば、この件は解決だ。
日々届く補給をやりくりして消費を抑えれば、交代の兵10万とともに大量の食料が届くまでなんとかなる手筈だ。
「ドラゴンの攻撃、再開しました。
ブレスが食糧庫を狙っています!」
「なんだと!」
幸い食糧は運び出し済みだ。貴重な食糧を失うことはない。
だが、防戦一方では不測の事態も考えられる。
まぐれで新しい食糧庫を直撃でもされたら目も当てられない。
「勇者5人を出撃させろ。
近衛勇者も出せ。
万が一のために
魔族化するまでは、まだ魔物の摂取量が足りない。
もう5人しか居ないのだ。
また召喚するにしても、今は失敗するわけにはいかない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Side:ヒロキ
今回は無駄に兵を出さないことにした。
攻撃をかけるのは
となると、一度燃えた一角を攻撃するのが良いか。
俺はその思いで、大厨房と呼ばれている火事を起こした所への攻撃を命じた。
戦いが終われば、彼らは正統アーケランド王国を構成する国民なのだ。
なるべく人的被害を出さないようにしたい。
闇落ちの危険もあるしね。
グリーンドラゴンとレッドドラゴンが、その巨体を利用して上からブレスを吐く。
その火球が破壊された城壁の間をすり抜け、大厨房跡に着弾する。
「よし、これで
リュウヤ、強襲準備だ」
城塞の指揮所にさゆゆが見えたら疑似転移で強襲する。
転移阻害の魔導具も疑似転移ならば問題がないことは証明されている。
これでさゆゆを救出する。
「もし、さゆゆが居なくて、アレックスだけならば、ドラゴンブレスをアレックスにお見舞いしてやる」
壊れた城門から、アーケランド勇者の鎧姿がバラバラと飛び出して来た。
その数20人。どうやら偽勇者も混ざっているらしい。
冑を被っており、個人特定が難しい。
「
それに元近衛騎士の偽勇者は、下手すると
こちらは
20人相手は辛いか。
勇者たちが4人1組で分かれる。
そのうち2組ずつでアロサウルスに対峙している。
どうやら、比較的弱いと思われる恐竜タイプを倒しに来たようだ。
そして残り1組が遊撃として赤Tたちの邪魔をしている。
「出て来たぞ」
リュウヤがずっと見ていた指揮所にさゆゆが現れた。
やはり、リボーンを使うために出て来たか。
「よし、作戦通りだ。
行くぞリュウヤ」
「おお」
リュウヤが浮遊している
「眷属纏飛竜亜種。
リュウヤ、牽制でレッドドラゴンにブレスを吐かせる。
それに便乗して転移する」
疑似転移の弱点は、転移前にその場に魔法陣が現れることだ。
それに気付かれると、前回のように転移完了前に斬りつけられるなんてことになる。
ならば、牽制でドラゴンブレスを当たらないように撃ち込み、怯んだ隙に転移しようという作戦だ。
「レッドドラゴン、敵指揮所を掠めてブレスだ!」
レッドドラゴンが俺の指示と同時にブレスを吐く。
「今だ! 眷属遠隔召喚飛竜亜種、
俺はリュウヤと共にアレックスの指揮所へと強襲転移をかけた。
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