第477話 さゆゆ奪還2

 疑似転移した先では、レッドドラゴンのブレスに対し防御魔法を展開したり、アレックスに覆い被さって盾になろうとしたりと、護衛の近衛騎士偽勇者の慌てた様子が見て取れた。

そこには俺たちが疑似転移して来たことに、誰も気を使う余裕さえなかったようだ。

強襲成功だ。疑似転移の隙をブレスで逸らすことが出来たようだ。


「さゆゆは?」


「奥だ!」


 俺の問いにリュウヤが近衛騎士偽勇者に棍で殴りかかりながら答えた。

おかげで、さゆゆまでの動線が確保されている。

俺はそのまま奥へと駆け出しさゆゆに接近する。


「こっちだ、助けに来た!」


 そう叫びながら右手を伸ばす。

だが、さゆゆは伸ばした俺の右手をするりと避けた。

その表情は怪しい人物を警戒するものだった。


 そうか、今の俺は飛竜亜種纏をした竜人姿だったか。


「俺だ!」


 そう叫びながら俺は飛竜の面覆いをずらして顔を見せた。


「?」


 だが、俺の顔を見て、さらに訝し気になるさゆゆ。

久しぶりだな、この反応。あの疎外感が蘇って来るわ。

確かに俺は、彼女と面識も無く同級生となり、異世界に飛ばされ、その後ほとんど接触が無かった。

いや、ヤンキーチームの女子たちとは片手で数えるほどしか接触していなかったかもしれない。

この期に及んで、このタイムロスは痛い。

どうする?


「リュウヤの仲間だ! 手を!」


 俺は左手でリュウヤを指差しながら、右手を差し出した。

リュウヤが来ている、その仲間だと認識してもらえれば、警戒も緩むはず。


 だが、それは逆効果だった。


「竜也!」


 さゆゆはリュウヤの存在を認識すると、よりにもよって俺の手を取らずに、リュウヤの元へと駆け出した。

そこは、アレックスと近衛騎士偽勇者もいる危険地帯だ。


 リュウヤも駆け寄るさゆゆに気付く。

当然、アレックスも気付き、さゆゆの前に立ち塞がる。

俺たちがさゆゆを奪還しに来たことを察し、確保に動いたのだ。


「眷属遠隔召喚飛竜亜種」


 俺は遠隔召喚を途中まで唱えながら、飛竜亜種纏の飛翔の力を使い、さゆゆを追いかけて飛び、その背に手を伸ばし衣服を掴んだ。

その感触を手に感じたと同時に帰還を発動する。


「帰還!」


 俺たちの足元から魔法陣がせり上がり、疑似転移が開始する。

そして、俺とさゆゆは砦の幕舎内へと転移した。

想定外の事態と共に。


「しまった!」


 俺たちが転移を終了するよりも先に、アレックスが動いた。

俺の視界には剣を抜いたアレックスが迫っていた。


 そう、帰還の瞬間にアレックスもさゆゆに手を伸ばしていたのだ。

飛竜亜種の帰還にはアレックスも付属物扱いで巻き込まれていたのだ。


 慌てて剣を抜こうとしたが、そんな余裕は無かった。

俺は飛竜亜種の鱗を信じて、左腕の手甲でアレックスの剣を受けた。

そして、同時にさゆゆを右腕で突き飛ばし、この場から離れさせた。


「きゃっ!」


 さゆゆの悲鳴が上がる。

その声と物音に気付いたのか、幕舎の入口から人が入って来た。


「何の音? 何かあったの?」


 それは呑気に顔を出した結衣だった。


「ヒロキくん!」


 だが、その目には剣を左腕で受け止め、腕から血を滴らせた状態の俺が映っていた。

一瞬で状況を把握する結衣。

だが、戦いには不向きな結衣は、何もすることが出来ない。


「危険だ! 逃げろ!」


 俺の叫びにニヤリとするアレックス。

俺の慌てた様子、そして戦いに不向きな女子、結衣のことが恰好の人質に見えただろう。

アレックスは剣を引くと結衣に向かい走る。

結衣を人質に取り、盾にしようというのだ。


 そのアレックスのスピードは剣神の加護のおかげか、瞬歩のように一瞬で結衣の側まで詰めた。

だが、アレックスの顔が歪む。


 結衣には護衛でラキが付いていたからだ。

ラキは定位置の結衣の胸の間に収まり、顔を出していた。


クワァ!


 ラキのブレスがアレックスを襲う。


「なんで胸にレッサードラゴンが!」


 アレックスが飛び退るが避けきれず、ラキのブレスがアレックスの左腕を焼く。


「眷属遠隔召喚防御亀竜プロテクトタートル、帰還!」


 俺はこの隙にリュウヤを呼び戻した。

俺の剣技ではアレックスに対抗できない。

接近戦の出来るメンバーは優斗まさとたち対応で出てしまっている。

つまり、リュウヤしか援軍に呼べなかったのだ。

リュウヤは敵地へと強襲中であり、早く帰還させねばならなかったのもある。


 疑似転移で戻ったリュウヤは、赤い血を纏った鬼の形相をしていた。


「リュウヤ! 怪我か!?」


 リュウヤが負傷しているのかと声をかける。


「返り血だ。俺に任せろ」


 リュウヤが鋼の棍を肩に担ぎ、アレックスの前に立つ。


「よくも、さゆゆを酷い目に遭わせてくれたな!」


 リュウヤがジリジリとアレックスに接近する。

酷いのは変態貴族だが、そのような結果となるに至った、さゆゆを奴隷に売った責任はアレックスにもある。

その恨みが全てアレックスに向かう。


「結衣、さゆゆを頼む」


「わかった」


 俺はアレックスとの間に入りながら、結衣とさゆゆを避難させる。

そして、剣を抜いて幕舎の壁を形成している布に斬りつけた。

そこから結衣とさゆゆを逃がすのと、外からの視界を良くして、アレックスの侵入を砦内に知らしめるためだ。

そして大声で叫ぶ。


「敵襲! 敵の総大将アレックスだ!」


 まだみどりさんやカミーユ、カミラがここには残っている。

彼女たちを呼べれば戦力になる。

そして、5万の正統アーケランド軍もいるのだ。

アレックス、生きて帰れると思うなよ。

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