第474話 王城再突入計画2

 委員長のしくじり発覚で頭を抱えた俺に、リュウヤも怪訝な表情をする。


「すまない。状況が切迫しているようだ。

セシリアが危険だ」


 俺は王権移譲の顛末を簡単に伝える。

俺と同じように頭を抱えるリュウヤ。

だが、リュウヤの復活を待つ時間はない。


「委員長の【支配】に対抗できるのは、レベルで委員長を上回る者だけだ。

だが委員長のレベルがわからない。

おそらく農業国での戦争でレベルが上がっているものと思われる」


 委員長は、ノブちんと栄ちゃんを経験値としたことで、かなりのレベルアップをしていると思われる。

セシリアがレベル25だから、それを上回っていることは間違いないだろう。

となると、連れて行けるのは、リュウヤとあとは……。


「サダヒサ、来てくれるか?」


「承知いたした」


 サダヒサならば、魔族勇者ともほぼ互角。

王城の騎士に引けを取るような武者ではないし、委員長の支配にも抗えるだろう。


「腐ーちゃんも頼む」


「頼まれたでござる」


 腐ーちゃんの腐食魔法ならば、王城の騎士たちを殺さずに行動不能に出来る。

命さえ助かれば、あとは回復魔法や回復薬でなんとかなる。

尤も欠損必至だから、かなり上位の回復魔法や回復薬が必要だけどな。


 あとは眷属か。

眷属は俺との契約に縛られている。

委員長も眷属を支配することは出来ないはずだ。


「オトコスキー、カミラ、沙雪、カミーユ、ニューは俺が現地から召喚するから、それまで待機だ」


 あとは情報収集だな。

突入先の状況を把握出来れば、楽に戦うことが出来る。


 まずセシリアの部屋にカメレオン5を疑似転移させる。

セシリアがそこに居るならば、例え見張りが居ても、転移を強行して奪還する。

誰も居なければ、転移拠点として全員が疑似転移し終わるまで使わせてもらう。

セシリアが私物を回収したいと部屋に寄ったのが功を奏した。

俺が行ったか目にしたことが無ければ、疑似転移が使えなかったからな。


「眷属遠隔召喚、カメレオン5、王城セシリアの部屋」


 翼たちに同行させていたカメレオン5を回収して疑似転移させる。

カメレオン5が隠密スキルを発動しながらお約束の魔法陣に消える。

そういや、疑似転移は向こうにも魔法陣が現れるんだった。

上手くやってくれよ、カメレオン5。


「視覚共有、カメレオン5」


 さあ偵察だ。


 カメレオン5の目が忙しなく動き、360度視界が一瞬で脳に飛び込んで来る。

人間がこれを受け取ると、ちょっとした眩暈を感じダメージを受ける。

だが、その偵察情報は貴重だ。


 俺の脳に齎された情報は、剣を抜いて怪訝な表情で近付いて来る女騎士と、外へ向かって何かを叫ぶ女騎士、開いた寝室の扉、ちらりと見えるその先に横たわるセシリアの姿だった。


 そして揺れる視界。

カメレオン5を見失い、あらぬ方角を調べる剣を手にした女騎士。

もう1人は賊侵入の気配を察し、援軍を呼んでいるようだ。


『カメレオン5、セシリアの寝室へ向かえ!』


 俺の命令でカメレオン5がセシリアの寝室に向かう。

視界に広がって行くセシリアの姿。

セシリアはベッドに横たわっている。

寝ているのか、眠らされているのか?

今がチャンスかもしれない。

セシリアが寝ているならば、支配されていても抵抗しないだろう。


「眷属纏飛竜亜種、眷属遠隔召喚飛竜亜種、王城セシリアの寝室!」


 飛竜がクールタイム中なので、この砦で孵った飛竜亜種を纏う。

そして一刻も早くセシリアを助け出すために、リュウヤたちを連れずに疑似転移をかけた。


 カメレオン5との視覚共有を視界の隅に押しやり、しっかりと自分の視界を確保する。

そして疑似転移した先の映像が目に映った時、女騎士が斬りつけて来るところだった。


ガキン


 女騎士の剣が右袈裟斬りに振り降ろされる。

だが、その剣は俺の左肩で止まった。

俺の纏った飛竜亜種の鱗が女騎士の剣を受け止めたのだ。

俺はそのまま女騎士の剣を左手で掴み、次撃を防ぐ。

そして、右手をセシリアの足に触れる。


「眷属遠隔召喚、飛竜亜種、カメレオン5、帰還!」


 女騎士は、俺が掴んだ剣に力を込め、もう一度振り上げようとしている。

その足元から魔法陣がせり上がり、俺とセシリアに加えて女騎士も疑似転移する。


 俺はセシリアと共に、疑似転移の出発点である砦の幕舎に戻って来た。


「なんだここは!」


 戸惑い剣から手を離し後退る女騎士。

そこには、俺と一緒に転移しようと待機していたリュウヤとサダヒサ、そして眷属たちが取り囲んでいた。

その中心にほとんど時間も経ずに俺が戻って来たのだ。


 女騎士が離れたのを幸いに、セシリアを抱きとめる。

ベッドの高さ分、空中に浮いていたのだ。

それが魔法陣の消失とともに落下し始めたからね。


 あっという間にリュウヤとサダヒサに制圧される女騎士。

だが、安心しては居られない。

セシリアを委員長の支配から解放しなければならない。


 その方法は、リュウヤの時と同じ洗脳の上書きだ。

リュウヤの時は、まさか支配までかけれれてるとは知らずに洗脳の上書きで解除したのだ。

それが偶然支配にも効いて今に至る。

洗脳解除直後はヤンキーっぽさも出ていたが、徐々に落ち着いて今の冷静なリュウヤになった。

あの時、紳士的なイメージを加えたせいだと思う。


「洗脳解除!」


 洗脳の上書きだけど、とりあえず解除ということで通す。

セシリアはセシリアのままで、一斉の洗脳も加えない。

眠っていたセシリアが目を覚ます。


「旦那様?」


 ぼんやりとした目でセシリアが俺を見つめる。

委員長に何もされてないよね?

王権を得るために放置されてたんだよね?

訊きたいことは沢山あったがそれは後にする。


「良かった」


 思わずセシリアを抱き締める。

俺を旦那様と呼ぶからには、委員長の支配は消えたのだろう。


「わたくし、何もされてませんからね!

あの方は、直ぐにお父様の所へ向かって……大変! お父様から王権を奪うつもりですわ!」


 どうやら結衣の読み通り、委員長は王権の奪取に向かったようだ。


「ああ、それならば、手続きミスで俺のところに来たよ」


「はい? 何がですか?」


「王権」


 俺がそう言うと、セシリアはポカンとした顔をし、思わず噴き出した。

委員長の間抜けぶりに笑ってしまったのだ。


「ぷっ。くすくす」


 セシリアに笑顔が戻った。


「貴様! 姫様に何をした!」


 リュウヤとサダヒサに、床に押し付けられ制圧されていた女騎士が叫ぶ。

そういや、こいつを忘れていたな。


「コーデリア、主君に対し、無礼ですよ!

この方こそが現アーケランド王、わたくしの旦那様です!」


 王女モードのセシリアから冷たい声が浴びせられる。

コーデリアと呼ばれた女騎士が呆然とする。

どうやらこの女騎士はセシリア付きの護衛騎士で支配を受けていなかったらしい。

みるみる顔色が悪くなっていく。

自分が仕出かした失態に理解が及んだのだろう。


「くっ、殺せ。

王に剣を向けたなど生きてはおられぬ」


 出た! くっころ!

だが、誤解でも俺に剣を向けたとなると、このまま置いておけないのは事実。

セシリアにずっと付いていた護衛騎士のようだし、どうしたものか。


「殺さない。セシリアが悲しみそうだからね。

だが悪いけど、反抗できないようにだけはさせてもらうよ。

【従属契約】コーデリアを配下に」


 ここは洗脳ではなく、配下として従属させた。

これは奴隷契約魔法と魔法の種類としては同じで、程度が軽いと思って貰えば良い。


「新王の配下に加えていただき光栄の至り!」


 いきなりコーデリアの態度が畏まる。

あ、普段はこんな感じなんだ。

なんだろう? 脳筋?


「これからもセシリアの護衛を頼む」


「ははっ!」


 結局、大規模な救出作戦を考えていたけど、俺が行って連れ帰るだけだったわ。

余計なのが1人増えたけどな。

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