第469話 王城再び1
結衣が来たばかりで心苦しいが、俺と飛竜、キラトと
俺の眷属遠隔召喚による疑似転移と、緊急時の陽菜の転移がこの任務には必須だった。
そして、王城内の案内や王族との交渉にセシリアの協力を仰ぐことにした。
洗脳を解いた後で、王やエレノア、シャーロットを
飛竜とキラトは護衛と眷属遠隔召喚の召喚ターゲットとして連れて行く。
「陽菜、ここから転移ポイントは感じられるか?」
陽菜はアーケランドの勇者だった時には、王城内を含めて王国内の重要地点を転移ポイントとして覚えていた。
それが、洗脳を解くことにより記憶を失うように魔法的な細工をされていた。
つまり、味方ならば自由に転移出来ることは利点だが、敵となるならば自由に転移されたら奇襲が容易となって不利となる。
そうならないようにという安全策が洗脳に絡めてなされていたのだ。
それにより陽菜は今、主要な転移ポイントを忘れてしまっている。
「この前の時の中間地点とー、避難地点の丘はイケるよ。
他はバッテンばつの介だよ」
その言い回し、流行ってるのか?
聞いたことが無いぞ。田舎固有の方言ギャル語だろうか?
まあ、ダメだという意味がわかるだけマシか。
やはり一度行ったことがあっても、王城内はNGか。
あの潜入で、アレックスも王城に転移阻害の魔導具を設置しただろうからな。
ちなみに要塞都市グラジエフの中も転移阻害がかかっている。
バーリスモンド侯爵がやられた事は、魔族勇者により報告されており、その強襲攻撃への対策がなされているのだ。
あの時は飛竜による強行突入だったが、転移でも同じことが出来てしまい、危ないと気付いたのだろう。
こちらの手に陽菜がいるため、危機感を持ったのだろう。
「そうか、やはり王城の中へ直接というわけにはいかないか」
だが、俺の方はどうだろうか?
転移阻害ならば、俺の眷属遠隔召喚による疑似転移は対象外かもしれない。
意識をすれば、遠隔召喚可能か判るはずだ。
「俺の方は? あ、いけそう」
どうやら、俺ならば眷属遠隔召喚で召喚の間が設定出来そうだ。
転移魔法ではなく召喚なので、召喚の間は相性が良いのだろうか。
実際、あの転移阻害がかかっている中で、翔太たちの召喚が行なわれたのだ。
召喚が妨害されるようには出来ていないか。
「まず俺が飛竜を纏って遠隔召喚で召喚の間に突入する。
そこで安全が確認されたら、次にキラトと共に陽菜とセシリアを遠隔召喚する。
2人はキラトに触れておいてくれ」
「おっけー」
「わかりました」
「召喚の間を破壊あるいは装置を確保した後、王様や王女たちを助けに行く。
セシリアには案内と説得を頼むぞ」
セシリアが無言で頷く。
多少説得に不安がある様子だ。
「召喚の間で手古摺ったら、キラトも呼ばないからね。
王様たちの説得に失敗しても、即撤退だ。
皆の安全優先で行く」
さて、作戦実行といきますか。
「ヒロキくん、気を付けてね」
結衣が心配そうに言う。
「ああ。無理はしないから大丈夫だよ。
ラキ、留守の間、結衣を頼むぞ」
「くわぁ!」
膠着状態とはいえ、ここは最前線。
ラキならば結衣の護衛は充分だろう。
リュウヤたちも翔太たちも
おいそれと攻撃しては来ないだろう。
「行って来る。
眷属纏飛竜! 遠隔召喚飛竜、アーケランド王城地下召喚の間!」
飛竜が光となって俺の身体に纏わり付き、竜の鎧となる。
その脚元から魔法陣がシュッとせり上がり、それが俺の目を越えると、そこはアーケランド王城地下の召喚の間の光景に切り替わっていた。
俺は周囲を見回し、安全を確認する。
王城に転移阻害が効いていることを過信したのだろうか、召喚の間の中に警備の者は居なかった。
いや、ここの存在を知る者をなるべく減らすために、特定の者しか警備に置いていなかったのだろう。
それは、あの近衛騎士たちだからな。
つまり、偽勇者として担ぎ出されたこともあり、ここに数を割くことが出来ない状態なのだろう。
「好都合だ。
遠隔召喚キラト、アーケランド王城地下召喚の間!」
そう俺が唱えると、目の前の床に魔法陣が広がる。
そしてそれがシュッとせり上がると、足元から上にキラトとセシリア、陽菜が現れた。
「誰も居ないの?」
「ああ。
キラト、セシリアと共に出口の通路を確認してくれ。
俺は召喚の魔法陣や装置を調べる」
「わかった」
「承知」
さて、じっくり見させてもらうか。
召喚の魔法陣は6つ存在した。
勇者たちが召喚されて来る大きな魔法陣が1つ、生贄を置く大きな魔法陣が1つ、そして儀式をコントロールする4人の適格者が立つ1人用魔法陣が4つだ。
それがおそらくミスリルの線で相互に繋がっている。
いや、そのミスリルの線がもう1カ所に繋がっていた。
「これは、コンソールか?」
そこには丁度手を置く高さで斜めに切り取られたような石柱があった。
魔法文字で何かが書かれている。
「座標と人数か?」
8桁4つの数字の上に座標と書いてあるようだ。
そして、もう1つの数字は人数と読める。
その数字は石にがっちり刻まれているように見える。
そして、何かの作動スイッチのようなものがある。
「この数字を書き換えることで、召喚者の居る座標や人数を設定出来るのか?」
つまり、この座標は翔太たちが召喚された場所のままか。
彼らを還すための座標でもあるな。
「【念写】!」
誤作動で消えてしまっては困る。
とりあえず魔法で写真を撮っておく。
これが消えてしまったら、手がかりが無くなってしまう。
この座標は、俺たちの時と書き変わっているはずだからな。
そして、その後で、コンソールらしき石柱に魔力を流す。
「やはりな」
すると、数字の部分が光となって浮き上がり、設定が出来ることがわかった。
変更すれば石板も書き換わるのか?
「もしかすると、戻ることが可能かもしれない」
このコンソールを解析すれば、元の世界に帰還出来るかもしれないと、俺には思えた。
それはアレックスたちが散々試したことなのだろう。
だが、帰還出来ないと言われたが、調査する余地はまだあるはずだ。
「壊すのはしのびないな……」
壊したら、その可能性さえも捨て去ることになる。
ならば、足掻いてみるか。
「【広域探知】」
俺は魔力を通して、この召喚の間全体を探知した。
どこまでが装置で、どこまでが建物なのかを把握するためだ。
そして、感覚的に召喚装置全体を把握することが出来た。
「この大きさならいける。
【アイテムボックス】範囲指定、収納!」
俺は召喚の儀に関連する魔法陣や制御装置、ミスリルの線全てを丸ごとアイテムボックスに収納した。
このまま温泉拠点に設置するのだ。
全ての関連装置が床ごと収納され、残るのは床に広範囲に広がる穴だけだった。
「ヒロくん、やりすぎー。
でも、そこがマジ、サイコー」
おそらく、この装置の製造技術は既にもう失われているだろう。
これでアーケランドは勇者召喚が出来なくなったと思われる。
例え製造できたとしても、時間的余裕が出来たはずだ。
「主君、この先は王家専用通路だそうだ。
見張りもいない」
セシリアに案内されて、王家専用通路の先を確認して来たキラトが報告する。
召喚の間はこの国の者たちに対しても秘密の施設だ。
警備として関わるのも、近衛という秘密の守れる存在だけなのだろう。
「好都合だ。
王家の人間の所に行き救出するぞ。
セシリア、案内してくれ」
「わかりましたわ」
セシリアの案内でキラトが警戒しつつ先導して進む。
王家専用の隠し通路の先は階段になっていて、何度が折り返した後に特別豪華な区画に出た。
王城内の王族専用区画のようだ。
「この先が私たち姉妹の部屋です」
キラトが隠密能力を使って通路の先を探る。
通路は等間隔で魔道具の明かりが設置されているが、その明かりの間は暗闇が支配している。
城は壁に囲まれている奥の場所ほど、光が入らないため暗いものなのだ。
「部屋の前に女騎士が2人居ます」
どうやら女性の部屋の前の警備は女騎士のようだ。
「女性の騎士ならば、知り合いかもしれません」
まあ、それは警備される側だったセシリアの知り合いである可能性は高いだろう。
「キラト、隠密でセシリアを警護。
俺と陽菜は認識疎外魔法で隠れる」
魔法を唱え、準備万端。4人で部屋の前まで進む。
「誰か!」
女騎士の誰何の声が飛ぶ。
既に腰の剣は抜き放たれている。
「わたくしです」
そこに暗がりから顔を見せつつセシリアが声をかける。
「姫様!」
「ご無事で!」
どうやら女騎士たちは運よくセシリアの顔見知りだったようだ。
だが、女騎士たちは抜いた剣を収めていない。
「姫と知って、なぜ剣を向ける?」
「しかし、姫様。
姫様は敵の手に落ちて洗脳されたと……」
こちらではそんな話になっているのか。
「逆です。
ここに居たときにアレックスに洗脳されていたのです」
「しかし……」
「いいえ、腑に落ちるところがあります。
アレックス様が婿入りしてから、どこかおかしいと思っていました」
「ならば、シャーロットの洗脳を解いてみせましょう。
それで判断なさい」
セシリアの説得に、女騎士たちは、セシリアと第三王女のシャーロット姫を合わせることにした。
部屋の扉が開けられる。
「誰か!」
中から侍女の誰何の声がする。
「わたくしです」
「姫様!」
俺はその侍女の横から素早く部屋に入る。
素早く部屋の中を確認すると、窓辺のテーブルにシャーロット姫が座っていた。
俺はシャーロット姫に近付くと、シャーロット姫の額に触れ洗脳を上書きした。
だが、ここで「洗脳」を口には出さない。
まるで俺の都合の良いように洗脳したと女騎士たちに認識されかねなかったからだ。
「はっ!
やっと自由になれましたわ!」
「「!」」
俺の侵入に慌てて走り寄った女騎士が、シャーロット姫の台詞に、思わず立ちつくす。
どうやら、シャーロット姫の洗脳が解かれたことを理解したようだ。
「シャーロット、もう大丈夫です」
「姉さま!」
シャーロット姫が部屋に入って来たセシリアの姿を見て、その胸に飛び込む。
何がなんだか理解していなかった侍女も、その様子に事情を把握する。
「おかしいと思っていました。
やはり姫様は洗脳されていたのですね」
王族の様子がおかしいことは、側付きの者たち誰もが共通した認識だったようだ。
「彼は、協力者です。
さあ、姉様や父上母上を救いに行きます」
「わかりました」
「我らもお供いたします」
どうやら、王族以外は洗脳下にはないようだ。
ならば、他の者たちも洗脳を解けば、このまま王家を取り戻せるかもしれない。
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