第464話 食糧難(アレックスサイド)
お知らせ
前話で、陽菜が嫁ではないとの勘違い部分を訂正しました。
しかも、後半にも残っていたため2回も。
ご迷惑をおかけしました。
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翼たち5人を受け入れ、また膠着状態となっていた。
こちらは皇国軍が戻って来るまで動けず、あちらは
尤も、時間はアレックス側に有利に働く。
加えて長引けば次の勇者召喚が行なわれてしまう懸念がある。
皇国軍の方が早く戻って来るとは思うが、この状態を長く続ければ、アレックスに戦力差を付けられてしまいかねなかった。
そんなおり、要塞都市の方が慌ただしくなっていた。
「報告します!」
俺の下へと報告にやって来たのは、翼竜を使った偵察伝令隊の責任者となったエルウッド騎士爵だ。
翼竜は爆撃の他に、食料調達、偵察、伝令に使用していた。
彼の兵には偵察兵や伝令兵が翼竜の足に掴まれて空を飛ぶという過酷な任務を担ってもらっている。
その偵察隊からの報告だった。
「南門から10万人規模の大部隊が出撃したもようです」
南門とは城塞都市グラジエフの王都側の門だ。
俺たちが対する門は北門となる。
俺のメテオストライク(極小)で北門は瓦礫となっていて、もう存在しないけどな。
だが、こちら側への出撃ではなく南門とは解せない。
「まさか、タルコット侯爵軍への迎撃部隊か?」
タルコット侯爵軍には、魔法の合図と、これもまた翼竜の伝令隊により作戦中止が伝えられ、進軍を中止してもらっている。
その動きはアレックスも把握しており、その迎撃に動いたのかと思ったのだ。
いや、さすがに同数の戦力であたるなど、ただの消耗戦となり無謀か……。
10万の軍に10万であたるなど、何か作戦でもない限り無謀といえよう。
何か地形的に有利な状況があるのかもしれないが……。
「いいえ、翼竜偵察隊によると、王都方面へ向かったとのことです。
どうやら撤退か交代ではないかとの見解です」
タルコット侯爵軍は、南東から向かって来ている。
南の王都とは方角が違う。
これは間違いなく戦闘を避ける動きだ。
こちらが動けないと見て、兵を入れ替える気か?
いや、それならば、交代の軍が来てから戻せば良いのだ。
何かあったのかもしれない。
まさか、火災の影響が予想以上に大きかったのか?
「翼、あの要塞都市の火災は何だったのだ?」
俺はその火災の影響を知るために、翼を呼んで話を訊く。
「たしか、兵の食事を一手に引き受けている大厨房からの火災だったはず。
そういえば、その原因が化け物だとかで、近衛勇者たちが全員迎撃に向かったんだった。
そのおかげで俺たちがフリーになれたんだ」
「化け物ってまさか……」
「裏返りっていう魔物毒の事故で化け物になるって……あ!」
翼も気付いたようだが、俺も気付いていた。
それは魔族化のなり損ないの事だ。
魔力の低い一般庶民は魔族とはならず、毒により死ぬか化け物と化すのだ。
つまり、翼たちが残した特別食の行方が齎した不幸だろう。
「原因は特別食だな。
一般庶民には耐えられなかったということだろう」
翼の額からどっと汗が噴き出す。
そんなヤバい物を贅沢な特別食として、ご褒美だと思って食べていたと気付いたからだ。
それを喜んで食べさせるために、普段の食事を粗食にされていたのだろう。
「まさか、あの残した特別食を配膳係たちが嬉しそうな目で見ていたのは……」
「ああ、間違いなく食ったな」
この世界、貴族の残り物など庶民にとっては贅沢品だ。
それが手つかずで目の前に、いや、食べ残しでも目の前にあって、ゴミとして処分を命じられたら……。
食べるのがもったいないの精神というものだ。
「だから、彼らが出入りしている大厨房に化け物が出たのか……」
翼が後悔の念を顔に出しながらつぶやく。
「翼たちのせいではないよ。
魔物肉かどうかは、半信半疑だっただろう?
それの行方にまで気が回るわけがない。
悪いのは魔物肉を仕込んだアレックスだ」
「そうだな……」
ここで翼が責任を感じても仕方がない。
それが運命だったのだ。
むしろ、翼たちが魔族化しなくて良かったではないか。
しかし、そうなると、その大厨房での被害が気になるぞ。
おそらく料理人たちが巻き添えになったな。
料理が出来なければ、要塞都市に駐屯する兵――30万人か?――の食事がままならなくなる。
20人の近衛騎士――偽勇者になったやつらね――全員がその化け物討伐に駆り出されたのならば、被害は尋常なものではなかったと思われる。
加えて火災の発生だ。
厨房の火が燃え移ったに違いない。
何に? 利便性から近くに保管してあった食材にだ。
大厨房には食料倉庫が併設されていたはず。
それが火災で燃えたならば、最悪の事態となっているだろう。
「それで食糧難が起きたのか!」
この砦でも食糧難の危機には頭を抱えたものだ。
幸い、みどりさんの野菜促成栽培や、翼竜が運んで来る食用魔物、そして俺がたまご召喚で出す巨大マグロ、その血から精製する塩で食糧難の危機を脱したのだ。
例外中の例外の能力を駆使した結果だといえる。
こちらでも5万の食事に四苦八苦したのだ。
それが6倍の30万だ。
アレックスも10万の兵を放出するしか手が無かったのだろう。
「タルコット侯爵軍に伝令を出せ。
要塞都市の背後に回り、補給を絶ってもらおう」
10万の軍勢と戦うのではなく、要塞都市グラジエフへの補給を行なう輜重隊を叩く。
これにより、アレックスは20万の兵+5万の市民の食事をどうにかしなければならなくなるのだ。
降伏はしないだろう。だが、アレックスが焦って攻勢に出れば、相手は20万に減った軍勢だ。
タルコット侯爵軍と合わせて15万に、
合計25万換算で、こちらにも勝ちの目が出て来る。
問題は
魔族勇者が不死身など洒落にならないぞ。
「翼、リボーンって何か聞いてるか?」
「実戦訓練の時に、死んでも復活する訓練があった。
それがリボーンだって言ってたはずだ」
それだ。
「その発動条件と制限は?」
「うーん、致命傷になったら死ねって言われてて、最初は恐かったんだけど、元通り生き返れる魔法がここ一帯にはかかってるからって。
躊躇してたら近衛騎士に止め刺されたよ。
でも、そこから直ぐに生き返ったから、後は躊躇いが無くなったな」
なるほど、訓練所や闘技場に設置されている、死ぬまで戦っても元通りの魔法結界ってやつと同じか。
それが戦場でも効くならば、無敵だろう。
「あ、そうだ。
実戦訓練でも今日はリボーンが効かないから死ぬなって言われた時があった。
あれは(リボーンの)スキルを持ってる
「待って、スキルを持っているのは女性なのか?」
なんてことだ。
言動からスキル保持者は
「日本人だった。
それも女性。
俺たちの代ではない召喚勇者だと思う」
日本人? 女性? 別の代の召喚勇者?
まさか、それって……。
「たしか、サリーって呼ばれてた」
「!」
なんてことだ。
サリーはさゆゆの
リボーンのギフトスキル持ちは、さゆゆだったのか!
あの変態貴族からアレックスの手に渡り、4人目の適格者として召喚の儀に利用されたと思われていた……。
「サリーで間違いないな?」
俺は確認せざるを得なかった。
こんな大事な事、聞き間違いでは済まされない。
「ああ、間違いない。
もしかして、知り合いか?」
これはまずいことになった。
さゆゆ奪還はリュウヤとの約束だ。
それが召喚の儀とリボーンの要とは。
アレックスもさゆゆを奪われることを是としないだろう。
「たぶんね。行方不明だった1人だと思う」
そんな中で奪還作戦を決行しなけらばならない。
リュウヤに知られたら必ず暴走する。
リュウヤの逸る気持ちを抑えるに足る奪還作戦を立てなければ。
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