第465話 奪還作戦

「だめだ。良い作戦が何も思い浮かばない……」


 さゆゆ奪還作戦の策定に頭を絞ったが、良い作戦は何も思い浮かばなかった。

まず、さゆゆの居場所が判らない。

その居場所は極秘。翼によると、普段から滅多に会うことがないそうだ。


 それはそうだろう。

さゆゆを奪われることは、リボーン出来なくなることを意味する。

せっかく得た不死身の要を危険に晒さないのは当然のことだろう。


 では、どのような場面でさゆゆは表に顔を出すのか?

優斗まさとたち虎の子の勇者が死ぬかもしれない戦場に出撃した時だ。

翼によるとリボーンの再配置はさゆゆの目の前で行なわれる。

いや、さゆゆのスキルによりリボーンするので、さゆゆの前が定位置なのだ。


 つまり、優斗まさとたちを逸早く戦場へ復帰させるためには、さゆゆは戦場に近く、優秀な護衛の居る場所に出て来ざるをえないということだ。


「それがアレックスの側ということね」


 アレックスこそが、アーケランド軍の最強戦力のはずだ。

その側こそ、一番安全な場所だろう。

ただし、それは戦闘中に限ってということになる。

それ以外は居場所を隠すことで守るのだろう。


 こちらがまた攻勢に出ることで、さゆゆを表におびき出すことは出来るだろう。

だが、それはアレックスの軍勢と正統アーケランド軍の全面対決を意味し、その人的被害は計り知れない。


「陽動でおびき出し、指揮所を手薄にしてから抜刀隊で斬り込むか……」


 だが、それこそ、こちらの勇者チームから被害者が出る。

アレックスは魔王だ。その力は侮れない。


「ここで最大戦力を投入してアレックスを討つか……」


 つまり最終決戦を行なうということ。

アレックスさえ倒せば、残されたアーケランド軍はどうとでもなるだろう。

だが、何人死ぬ? 準備が不足している。いまはその時ではない。

いや、これは俺の保身かな。

俺がアレックスを倒せるほど強ければ、簡単に解決する話だ。


「あれ? そういやアレックスって魔王だけど、個人としてはどれだけ強いんだ?」


 うっかりしていたが、アレックスが魔王ということで、勝手に強いと思い込んでいたぞ。

だが、アレックスをよーく知っている人物が、この砦にはいたんだ。


「オトコスキー、話がある」


「むふん♡ やっとお呼びが掛かりましたわ♡」


 秘密の話だからと二人きりになるのは失敗だった!

俺はオトコスキーのタックル抱き着きを避けながら、聖魔法の魔法防壁を身体の周囲に張る。


「【ホーリープロテクション】!」


「あらやだ」


 魔法防壁に触れたオトコスキーの指が塵となる。

当然だ。真の勇者の対魔族防壁なのだから。


 だが、直ぐにその指が生えて来る。

たいしたダメージにはなっていないようだ。

しかし、オトコスキーはこれで俺に近付くことも出来なくなった。


 早く用件を終わらせよう。

俺の魔王の身体がチリチリとダメージを受けている。

長くはもたない。


「オトコスキー、ステイ!

質問に答えてくれ!」


「もう、いけず」


 やっとオトコスキーが大人しくなる。

誰かを連れてくれば良かった。

いや、連れて来ても一緒か。

2人まとめてどうにかされるだけだ。


「オトコスキー、アレックスのことを知りたい。

特にその戦闘力を」


 そう俺が訊ねると、オトコスキーは暫し真剣な表情に戻り考えると、また表情を元に戻して話し始めた。


「アレックスは、真の勇者で召喚術者だったわ。

わたしも召喚されて契約したのよ。

100の魔族を従える勇者と呼ばれ、魔王討伐を旗印に、アーケランド王家によって他国との戦争に投入されたの。

アレックスは人との戦争に悩み、それが元で暗黒面に落ちて真の魔王となったの。

魔族を従えたり、知らずに食べたドラゴンの肉のせいで魔族化が促進していたのね。

だけど、皇国へと逃げていた仲間だった勇者が次代の真の勇者となり、その勇者仲間たちと共に戦い、アレックスは倒されて最後の力で転生魔法を自らにかけた。

そして、今は召喚勇者の身体を依り代にして復活したというところね。

だから、今の能力は良く分からないのよ」


 召喚術者! 俺のたまご召喚に被るな。

だが、アレックスが召喚出来るならば、なぜ勇者たちを魔族化する?

魔族を召喚すれば良いではないか。

まさか、転生し復活したアレックスは召喚が出来ないのか?

依り代にした召喚勇者の能力を引き摺っているのかも。


「アレックスは召喚を使わないようだが?」


「使わないのではなく、使えない・・・・のよ」


「使えない?」


「討伐時に皇国の聖女に能力を封印されたのよ。

その封印石が皇国で厳重に守られているはずよ」


 それがアレックスが皇国と事を構える理由か。

封印を解き、自らの力を取り戻すつもりだったのか。


「つまり、今のアレックスは依り代の勇者の力しか使えない?」


「それと後天的に手に入れた魔法かしら」


「となると、その能力が気になるな」

 

「そこらへんは、わたし知らないし」


 先代勇者は、もう誰も生き残ってないか……。

いや、生きているとしても、その存在を消していて、把握は不可能だろう。


 そうだ、セシリアならば……。

だめだ。彼女も召喚の儀に関わったのは失敗した1回きりだ。

俺たちの時も、姉のエレノア王女が行なっていたのだった。

だが、訊くだけ訊いてみるのもありか。


 俺はセシリアを呼んだ。


「セシリア、アレックスの能力について知っていることはあるか?」


「アレックスは、元々高田幸雄という召喚勇者でした。

そのギフトスキルは剣神の加護。

そのサブスキルは剣技に関するものが盛りだくさんでしたわ」


「魔法系ではなく武闘系だったのか!」


「でも、突然顔が変わってしまって……」


 その時に乗っ取られたのか。

召喚術式に自分の転生術式を紛れ込ませたということだろうか。


「それ以来、魔法系が強くなって、後は王家の皆は洗脳を掛けられてしまったのですわ。

その後はスキルを確認することなど出来ませんでした」


 アレックスが表に出て来て、武闘系が魔法系に強くなった。

もしかすると、高田とアレックス、二人分のギフトスキルが使えるのかもしれない。

それと生前の技術的な蓄積か。

ただし、アレックスの召喚能力は封印されてしまっている。


「ありがとう、参考になった」


「どういたしまして」


 アレックスの力は良く判らないが、今の俺では勝てる気がしないことは判った。

ただ、皇国に封印されているアレックスの力を取り戻させるわけにはいかない。

さゆゆ奪還? そんなの無理。

リュウヤを止める手立ては、さゆゆ発見を知らせないことしかない。

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