第462話 アレックス、窮する

Side:アレックス


「反乱軍、撤退しました」


 なぜだ? 意味が解らない。

ドラゴンのブレス1発でこちらの召喚勇者が全滅だぞ。

食料が付きかけているやつ新参魔王らにとって、ここ要塞都市の内部で混乱が起きている今が好機だろうに。

たとえ召喚勇者たちが不死身状態でも、またブレス1発で簡単に退けられるだろうが。


 その急な反乱軍の撤退に戸惑い、私は追撃命令を出すのを忘れてしまっていた。

気付いた時には既に追撃機会を失っていた。


「こちらも撤退だ。兵を退き、城壁を応急修理せよ」


「はっ!」


 さて、やつ新参魔王らはこの後どう動くつもりなのか。

皇国軍が戻って来るのを待つ心算つもりなのか?


「俺たちは? どうすれば良い?」


 優斗まさとたち召喚勇者か。

さすがに育成途中の召喚勇者では竜種も倒せなかったか。

やはり、こいつらも魔族化し即席で強化するしかないな。

上位者は失敗すると勿体ないと思っていたが、このままでは膠着状態が続くだけだ。

おそらくこちらが新たな勇者召喚をする前に皇国軍が戻って来る。

ならば、魔族化勇者で今の内に優位に立ち、分散している反乱軍を各個撃破してくれる。


「ん? 他の5人はどうした?」


 その時、私は翔太しょうたたち5人の召喚勇者が不在なことに気が付いた。


「サッカー部2人とマイケルに柔道は、足首が無くなって倒れてたぜ」

「あれは選手生命終わりっしょ」

「俺たちはリボーン出来て助かったぜ」


 いやいや、奴らもリボーンさせれば部位欠損も治って再配置だろうが。

なぜそう自決しない?

それに空を飛んでいた星流ひかるはどうした?

空ならば足首を持って行かれてないだろうに。


サリー・・・、サッカー部たちの状態は?」


「全員生存。けど、基本情報に齟齬がある。

たぶん上書きがあって、根本的な情報が一致しない。

だから、もうリボーンしない」


「なんだって! まさかやつらの……(洗脳が解かれたのか!)」


 洗脳をかけている召喚勇者たちの前で、洗脳の話は出来ない。

洗脳されていることに気付くことこそが、自力で洗脳を解く第一歩なのだ。

洗脳が解かれたとなると、サッカー部部屋の5人は、敵に亡命したか。


「なるほど、私は星流に騙されていたのか。

星流め、奴らと接触してサッカー部部屋全員の脱出の機会を伺っていたな!」


 やられた。それがこの大規模攻勢の目的か!

星流が寝返っていたならば、やつ新参魔王たらの食料事情も問題ないというわけか。

そして、破れかぶれの大規模攻勢と見せかけての翔太たちの救出。


 そういえば、大地だいちも両腕を落されたとか。

これは、殺さず無力化したということだ。

大地だいちたちも攫う計画だったのだろう。


 だが、そこで大地だいち大翔ひろとの手で処分され、リボーンで復活して戦場に戻った。

それでやつ新参魔王らも誘拐は無理との判断で、撤退して行ったということか。

最初からやつ新参魔王の掌の上で踊らされていたわけだ。

おのれ、残った5人を魔族化して、竜種もやつ新参魔王も倒してくれよう。


 そのためには、まず懸案事項をクリアしなければならない。

こちらも思わぬダメージを負ってしまっているのだ。


「大厨房は?」


 そう、特別食を食べて裏返りそこなった配膳係が、化け物化して暴れた現場だ。

その状況によってはいくさどころではなくなるのだ。


「ただ今、やっと化け物の制圧を完了いたしました。

しかし、被害甚大です。

施設の破壊も大変ですが、料理人が多数殺害され、食事の供給目途が立っていません」


 なんということだ。

今度はこちらが食料危機だ。

こちらは兵が30万人もいるのだ。

その食事を賄っていた料理人たちが死んだとなると、温かい食事が提供出来なくなって、兵たちの士気に関わる。


「仕方がない。貴族家から料理人を徴発しろ。

なんとしてでも、食事を供給し続けるのだ」


「それが……」


「なんだ、ハッキリ報告しろ!」


「食料倉庫も焼けまして……。

3日以内に食料が困窮いたします……」


 まさか、あいつらサッカー部たちが知っていて配膳係に特別食を食べさせたのか?

やつ新参魔王と通じていたならば、あいつらも魔族化勇者のことを知った可能性がある。

知っていて、配膳係に食べさせ、大厨房で騒ぎを起こす。

そして、この大規模攻勢か!

全てのピースがピタリとハマったぞ。


「そこまでやつ新参魔王は手を回していたのか!」


 この危機を脱するには、新たな補給を求めなければならない。

だが、それまでには日数がかかる。

ならば、人員を減らすしかない。


「正規軍10万は、王都に戻れ。

そして新たな補給物資と共に、ここに戻って来るのだ!」


 その間、要塞都市はギリギリまで食事を切り詰める必要がある。

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