第457話 勇者救出作戦 序(裏)

Side:アレックス


「大厨房より出火!」

「化け物です! 厨房内で化け物が暴れています!」


「敵の破壊工作か!?」


 この要塞都市には30万の兵が駐屯している。

その胃袋を一手に引き受けているのが、大厨房と呼ばれる施設だ。

それは30万人に1日2食、合計60万食を供給する巨大調理施設となる。

この世界では1日朝夕の2食というのが一般的だ。


 我が王国アーケランド正規軍は、指揮官や騎士を除くとほぼ平民だ。

そこに馳せ参じた貴族たちの領軍が加わり30万人の軍を構成している。

朝夕以外に昼食を挟むのは、私たちのような召喚勇者か、贅沢に慣れた王侯貴族ぐらいのものだろう。

そういった貴族たちは独自に料理人を従えており、自分たちで勝手に食事を用意する。

なので、朝夕の2食だけを大厨房は調理し提供することになっている。


 私が大厨房にイメージするのは給食センターだ。

パンを焼き、スープを大鍋で調理して寸胴鍋に入れて次々に運び出す。

その先で各部隊の配膳係が、小分けして運ぶか、そのまま寸胴鍋を持ち出してお椀に注ぎ兵に提供する。


 その重要施設に対する攻撃、やつ新参魔王め、なかなか解っているではないか。

こちらの翼竜に対する星流の攻撃に、ついに音を上げたということか。

だが、どうやって工作員を要塞都市の内部に侵入させたのだ?


「配膳係が裏返って化け物になったもよう!

魔物毒による裏返りです!」


「くそっ! そういうことか!」


 その報告で私は悟った。

私の料理人が提供した特別食を配膳係が盗み食いしたのだ。


 特別食とは、召喚勇者どもを魔族化するためのスペシャルメニューだ。

上級魔物の肉を召喚勇者に与えることで、魔族化を促進する目的で密かに食べさせているのだ。

だが、それは召喚勇者だから耐えられる魔物毒なのだ。

一般人の配膳係などが食せば、魔族化ではなく、ただの理性なき化け物と化す。

だからほとんどの魔物食は禁忌とされているのだ。


 ちなみに、食べられる魔物は動物が瘴気にあてられて魔物に至った魔物で、毒のある食べられない魔物は最初から魔物として発生した魔物だと言われている。

あの砦前にいる恐竜モドキは食べられる魔物で、ドラゴンは食べられない魔物になる。


 やってくれたな。

このような地方の下民になど勇者の世話を任せるのではなかった。

まさか、残飯をあさるような者どもだとはな……。

だが、原因が特別食となると、内々に処理するしかないぞ。


「近衛勇者を10人派遣して鎮圧しろ!」


 召喚勇者どもに裏返った配膳係を見せるわけにはいかない。

聡いやつならば特別食との関係に気付くだろう。


「大変です! 化け物に傷つけられた者も裏返っています!

化け物化が感染していっています!」


 なんということだ。

まるでゾンビではないか!


「ええい、残りの近衛勇者も投入し、全員で対処するように命じよ!」


 だが、この化け物を敵陣の中に放り出せば良い武器になりそうだな。

失敗もうまく活用すれば成功となるだろう。


「大変です!

敵軍が総攻撃をかけてきました!」


 こんな時に便乗か!

やつらも限界だったと見える。


「ええい、こちらの方が数が多い。

籠城し、城壁の上から迎撃だ!」


ドーーーーーー-ン!!!


 その時、まるで音速を越えた時のソニックブームのような轟音と共に城壁が揺れた。

いや、城門が隣の城壁ごと吹っ飛んでいた。


ドーーーーーー-ン!!!


ドーーーーーー-ン!!!


 続けて2発。

その度に城壁が砂の城のように崩れる。

ほんの少しの時間で、要塞都市の堅牢な城壁には大穴が3つも開いていた。

その穴から見えるのは、先陣を切るドラゴンと恐竜。


「くっ! 勇者を迎撃に向かわせろ!」


「しかし、近衛勇者様たちは、化け物の対処で出払っております」


 そいつらは名ばかりの偽勇者だ。

私が言っているのは残りの本物10人のことだ。


「残りの10人を出撃させろ!

正規軍20万も出せ!」


 城壁が無くなったのならば、籠城戦にはならない。

ならば打って出るしかない。

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