第456話 勇者救出作戦 序
俺は朝からカメレオン5と視覚共有していた。
そのため俺は、彼らの話し合いを逐一聞いておく必要があった。
カメレオン5が俺にノックを送って来たのは、全員がダイニングテーブルに集まる朝食の時間だった。
『おい、朝食も特別食だぞ』
特別食? 何だそれは?
『何が起きている? 急に待遇が良くなるだと?』
『そういや、居なくなった連中にも、特別食が出てたよな?』
『自慢してたっす』
『それで暫くして、訓練にも出て来なくなった』
『特別食には何か秘密があるのか……』
居なくなった連中というのは魔族化された連中のことだろう。
つまり特別食とは魔族化を促進するための魔物肉料理。
まずい、翼たちの魔族化が進められている。
なんとか特別食を食べないようにと彼らを説得しなければならない。
だが、彼らに接触する手段は
いま、この朝食を食べるのを止める手だては何かないものか?
『昨日も特別食が出たけど、あのオムむすびのおかげで食べなかったな』
『俺は、この朝食も食べなくても大丈夫な気分だぞ?』
『美味い日本の食べ物ならばいくらでも入るんだけどな』
『というか、なんだろう……腹持ちが良い?』
『残すか』
『嫌な予感もするしな』
そうか、オムむすびの卵か!
俺が【たまご召喚】で出した鶏卵は、1日1個で空腹を満たすことが出来るという、バフ付きアイテムだからな。
オムむすびを巻いていたのはあの鶏卵を焼いた薄焼き玉子だ。
それで効果があったのだろう。
偶然だが、おかげで特別料理を口にしないで済んでいるわけか!
これは彼らへの弁当に卵は必須だな。
料理によってはゆで卵を付けてやれば良いか。
特別食の危険性は手紙に書いて翼に伝えよう。
おそらく不測の事態で魔族化しないように、特別食を集中的に与えて魔族化をコントロールし、アレックスの任意の時に魔族化する気だったのだろう。
その運用が逆に、星流たちの魔物毒汚染を、これまで防いでいた可能性がある。
◇
星流が来る定期便は、だいたい昼前となっており、それは朝飛んで行った翼竜が、食べられる魔物を狩って戻って来る時間に合わせたものだった。
星流は翼竜に接近すると、そのまま翼竜と揉み合うように地上に降下するのが定番となっていた。
砦の塀で見えない死角の中で決着が付いたという体だ。
これはアレックス側の見張り員が【遠目】スキルで星流を監視していると発覚したことによる芝居だった。
そして星流は手紙の受け渡しと昼飯を食べ、翼たちへのお土産を持って帰るのだ。
「手紙はないっす」
その理由はカメレオン5と視覚共有して知っていたから良いが、やはり星流に伝言を託すのは無理なようだ。
翼からは説明するように言われていたのだが、ほとんど飛んでしまっている。
「アレックスに身体検査されたそうだな」
「なんで(身体検査を)知ってるんすか!」
「その理由は手紙に書いておく。
翼から聞け」
星流にカメレオン5のことを教えると、アレックスの前で挙動不審になりかねない。
知らない方が良いということもあるのだ。
「わかったっす」
「手紙にも書くが、特別食は食べるな」
「なんで(特別食を)知ってるんすか!」
それは説明できない。
だが、星流が俺を超能力者でも見るような目で見つめてくる。
説明するより勘違いさせておいた方が良いか。
「あれには化け物になる毒が入っている」
「!」
「今後は弁当だけにしておくんだ」
翼たちは、星流に支給された特別食を4人で分けて食べてしまっている。
それが1度目なのかわかったものではないが、食べないに越したことは無い。
「わかったっす」
「なるべく早く、救出作戦を実行しよう。
何か要塞都市の中で陽動を起こせれば良いのだが……」
まだ暫くは、翼たちと打合わせをする必要があるな。
◇
あれから3日、なんとか翼たちと打合せを進め、いよいよ作戦実行という時に、事件は起こった。
「要塞都市から火の手が上がっています!」
「何が起こった? いや、これこそ好機だ!
かねてから立案していた勇者救出作戦を実行する!
このどさくさに紛れて勇者を救出するぞ!」
俺は空に向けて火魔法を打ち上げ、翼たちに作戦開始の合図を送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます