第443話 みどりさんのチート能力

「トリケラトプス、草を分けてくれ……いや、なんでもない」


 トリケラトプスに草を分けてもらおうと思ったが、凄い目で睨まれてしまった。

たしかに自分で育てているのだから、自分で食べたいのだろう。

それに、あのブラキオサウルスの巨体分をトリケラトプスから奪うのは心が痛い。

どうしたものか。


「交代の時間ですわ?

ちょっと何をもめてるのかしらん」


 オトコスキーとキラト、ニューそしてみどりさんが交代の時間で戻って来た。

カミーユはレイスなので24時間監視だそうだ。


 俺はオトコスキーたちに事情を話す。


「それなら、私が草を生やせば良いだけね」


 ブラキオサウルスの餌に、なんとみどりさん吸血草Qが草術で餌になる草を生やしてくれた。

みどりさんの草術は、草の一種にあれば種を出すことが出来、魔法によりその促成栽培も可能だったのだ。


「す、凄い。これでブラキオサウルスの餌は大丈夫か」


 一面の草原を見て俺は驚きの声を上げた。

これだけあれば、ブラキオサウルスもお腹いっぱいになるだろう。


「ならば巨大マグロは……」


 ブラキオサウルスに出した巨大マグロを回収しようとしたところ、既にアロサウルスやグリーンドラゴンたちが食いついていた。


「まあ、食えるなら良いんだけどね」


 俺は巨大マグロの回収を諦めた。

兵士たちに回す分は、後で召喚すれば良い。


「それにしても、草術だっけ?

みどりさん、凄い能力だな」


「草ならば、どんな種でも出せて、促成栽培が出来ましてよ」


 みどりさんが自慢げに言う。

彼女がたまごから出た時にハズレと言ってしまったのは申し訳なかったな。

いま、認められたことがよほど嬉しかったとみえる。

そこで俺はあることに気付いた。


「もしかして、野菜の種も出せる?」


「当たり前でしてよ」


 そう言うとみどりさんは菜っ葉や大根からジャガイモまで、多種多様な野菜を育てて見せた。

どうやらみどりさんは、そっち向きの能力に優れていたようだ。


「ハズレと言ってしまってごめん」


 俺は素直に頭を下げた。

まさかこっち方面のチートだったとは、思いもしなかった。


「やっとわかってくださいましたわね。

おーほほほほ」


 みどりさんがドヤ顔で踏ん反り返る。

この人、食料供給に関してはチートだろう。

ほとんどの野菜は一年草なので分類は草になる。

みどりさんは、その種を全て出せるのだ。

しかも魔法による成長促進で促成栽培が出来る。


「そういやイチゴやメロンも草になるんだよな?」


「ええ、そうでしてよ」


 そう言うとみどりさんは、イチゴとメロン、スイカまで育てて見せた。


「桃とか葡萄みたいな木になる果物はだめだよね?」


「いくらわたくしでも、木になる果実は無理ですわ」


 そこは草しばりのせいだから仕方ないか。

しかし、これでこの砦の食料事情を好転することができる。


「ご主人様、魔力の補給が必要ですわ」


 そういや、ブラキオサウルスの餌でみどりさんには無理をさせてしまったな。

食事はしないということだったが、どのようにして魔力を補給するのだろうか。

吸血草Qだから、やはり血ということか?

人の血はちょっと……。だが訊ねなければならないな。


「血か?」


「ええ、魔物の血か、魔石があればよくってよ」


 そっちで助かったよ。

アーケランド兵から血を吸って食料供給なんて、さすがにその成果の野菜を口にしにくいからな。


「ならば、皇国が討伐した魔物を貰って来よう。

どうせ処分に困っているはずだ」


「そこは食べられる魔物にしてくださるかしら。

魔石は何でも良いのですが、血だけは食用ではない魔物は勘弁していただきたいのですわ」


 魔物毒のあれか。

パン屋さんもゴブリンを餌にするのは嫌っていたし、いろいろあるんだろうな。


「サダヒサ、ちょっと皇国に書状を書いてくれないか?」


 俺は興味深そうに行く末を見守っていたサダヒサに声をかけた。

一部始終の事情を聞いていたので話が早いと思ったのだ。


「倒した魔物なぞ、邪魔になるだけであろう。

勝手に持って来るが良い」


 サダヒサに皇国から魔物を譲ってもらう嘆願書の口利きをしてもらおうと思ったのだが、断られてしまった。

魔物の氾濫で倒した魔物などいちいち構っていられないということらしい。


「公国の兵も翼竜ならば見慣れているであろう。

好きにさせるがよい」


 あれだけ空爆で翼竜の威力を見せつけたからな。

皇国兵も翼竜が俺の配下だと認識出来ているはずだ。

あの迷宮は地下洞窟型なので、空飛ぶ魔物は迷宮産には居ないと思うしな。

それでも、魔物の氾濫の一部と思われて攻撃されるのは嫌だな。

ここはクモクモたちみたいに、足にカラフルな布でも巻いて、俺が使役してるって印にしておこうか。


「おーい、翼竜」


 俺は城壁に降りて羽を休めている翼竜に声をかけた。


「クワ?」


 するとリーダーの最初にたまご召喚で得た個体が反応し、こちらに飛んで来た。

こいつに命令すれば大丈夫だろう。


「北上すると魔物が大量に倒されているはずだ。

そこから食べられる魔物を選んで運んで来てくれ」


 俺は翼竜の右足に青い布を縛りながらそう命じた。


「クワー!」


 すると翼竜は喜び、他の個体にクワクワ何かを伝え始めた。


「「クワッ!」」


 するとその中の2体が飛んで来て着地すると、俺に右足を向けて来た。

どうやら、その2体が協力してくれるらしく、同じように布を巻けと言っているようだ。


「わかった。同じ色でも良いか?」


 それに対し2体はクワクワと頭を上下に振りながら肯定した。


「よし巻いてやるからな」


「「「クワーー」」」


 布を巻き終えると、3体の翼竜は、翼を広げて助走をつけ、飛び立って行った。

これでみどりさんの食料が手に入れば、その結果新鮮な野菜を得られるということになる。


 パン屋さんのパン、みどりさんの野菜、そして巨大マグロ、この砦も食料が充実して来そうだ。


「ヒロキ、塩が無い」


 リュウヤ、お前はタムラコック長か!

いや、塩がないのは確かにまずい。

俺たち分ならば醤油や味噌もあるが、5万人分の塩なんて持ち歩いてはいない。

調味料が潤沢ではないとはいえ、スープに塩ぐらいは入れないとな。

だが、5万人分だぞ?


「一難去ってまた一難か!」


 さて、どうしたものか。

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