第442話 食料事情

 【たまごショップ】を使っての戦力増強を終えた頃には、もう日が暮れていた。

正統アーケランド軍に参加しているタルコット侯爵派閥の軍は、その貴族家ごとの領軍に別れて野営をしている。

その数は5万にも及ぶ。


「俺たちも食事にするぞ」


 リュウヤが眷属を孵していた俺の所にやって来て夕食に誘った。

俺はリュウヤに促されるまま、俺たちに宛がわれた幕舎へとやって来た。

俺たちの幕舎には、温泉拠点組勇者に加えてセシリア王女と皇国武将のサダヒサがいた。

そこへ俺が新たな眷属を従えてやって来たため、皆戸惑いの表情となっている。

うん、女性が多いのは自覚している。

でも、卵次第なんだから仕方ないじゃないか。


「新しい眷属だ。

デュラさんにキャル、カミラに沙雪だ」


「ぐふふ。また人型の眷属。修羅場が楽しみ」

「それもお嫁さんなんですの?」

「ちょっとキャラが被ってるっつーの」


 腐ーちゃん、修羅場って……。それは俺も恐いわ。

セシリアさん、嫁ではありません。

陽菜クロエは確かにキャルとキャラ被りかも。

まあ、それは置いといて、人型は食事いるよね。


「デュラさんたちは食事どうすれば良いんだ?」


「吾輩はリビングアーマーの上位種ゆえ、必要としませぬ」

「わらわは主の血がもらえれば最高じゃが、どっちでも良いわえ」

「キャルは食べるよー」

「我も必要といたす」


 デュラさん以外は食べるということで良いのか。


「3人分追加出来るか?」


「アイテムボックスの作り置きに余裕はあるでござる」


 食事は結衣たちが作ったものが、アイテムボックスに入れてある。

今夜は腐ーちゃんのアイテムボックスから出す番だ。

俺もアイテムボックスを持っているので食事は分散して入れてある。

これは、パーティーが分散した時に片方には食事が無いなんてことにならないようにしているためだ。

そのため、俺と腐ーちゃんのアイテムボックスから均等に食事を出すようにして、偏りが出来ないように気を使っているのだ。


 オトコスキーとキラト、ニューも後で交代して食事時間を取らないとな。

レイスのカミーユは必要としないし、吸血草Qのみどりさんは自前でなんとかするから大丈夫だな。


「オトコスキーたちの分も後で頼む」


「了解したでござる」


 オトコスキーたちは砦の城壁の上で見張り中だ。

敵の接近に対して、いち早く魔法で攻撃することになっているのだ。


 ◇


 俺たちが食事を済ませて幕舎から出ると、周囲からジト目が襲って来た。

どうやら俺たちが食べた夕食の良い香りが周囲に漂っていたらしい。


 よく見ると、他の者たちは干肉に堅パン、そして器1杯の水で飢えを凌いでいるようだ。

俺たちの食事の香りは兵たちには酷だっただろうな。


「これは早期に改善しないと暴動が起きるな」


「だな」


 俺たちだけ良いものを食っているとなると、僻みから恨みに発展しかねない。

パンはパン屋さんが増えれば提供可能になるだろう。

他にもせめて温かいスープぐらいは提供しなければまずい。


「明日朝一にカマドの設置を始めよう。

補給はカドハチにも頼んであるんだよな?」


「ああ、そのはずだ」


 となるとカドハチはオールドリッチ伯爵領や友好的な領地から仕入れて来るんだろう。

野菜や穀物、寸胴鍋なんかも持って来てもらうか。

だめだな。それだけでは足りそうにない。


「やはり他の貴族家にも食材を頼んでみよう」


 自分たちで食べるものが良くなるのならば、協力は惜しまないだろう。

なんていってもその費用は俺持ちなんだからな。

それと食材となる魔物の召喚もやっておくか。

鳥や魚ならば……あの大きさではMPが足りないか。

そうだ、巨大マグロならば1匹1万人前ぐらいになるか。


 巨大といえば忘れていたな。


「そういや、竜種の巨大眷属たちの食事は?」


 砦の中にいるのはトリケラトプスだ。

正門内側での守りを命じてある。

つまり、外へ勝手に食事に出るわけにはいかない立場だ。

閉鎖空間には餌なんてないぞ。


 慌てて正門を守っているトリケラトプスの所まで行く。

すると、トリケラトプスは自前の植物魔法で牧草を生やして食べていた。


「そういや、そんな能力があったな」


 トリケラトプスは餌の心配が無かった。


「そういや、今まで他の竜種たちの餌は?」


 今まで温泉拠点では、モドキンやT-REXたちには自分たちで餌を狩らせて食べてもらっていた。

魔の森には食料が豊富だったこともあり、全く心配することが無かった。


 食事を用意してもらっていたのはラキぐらいのものだ。

だが、戦場であるここではどうする?


 翼竜や飛竜は馴れたもので、任務が無ければ近くの森まで飛んで行って魔物を狩って食べるだろう。


 だが、新たな竜種の眷属には周辺警戒を命じてある。

その間は勝手に餌を取りに行くことはしないだろう。

手頃な餌としてアーケランド兵なんて食わせるわけにはいかないぞ。

つまり、食事は俺が用意しなければならない。


「あの巨体を満足させるには、やはり巨大マグロか」


 巨大マグロは眷属卵召喚で、いつも食用に召喚している食材だ。

体長が10mぐらいある。

ゴッドクジラに2匹、レッドドラゴンに1匹、グリーンドラゴンに1匹、アロサウルス2体に1匹、ブラキオサウルスに2匹で良いだろうか。


「よし、これで大丈夫だ」


 俺は慌てて竜種たちに巨大マグロを届けた。

変なものを食われなくて良かったよ。

敵にも味方にもいろいろまずいからな。

MPを消費するが、どうせ今夜リセットされるのだ。

余るならば食料に換えた方が良いだろう。


「今後はこれを日課にしないとならないんだな」


 今までは眷属の自主性に頼りすぎていた。

籠城戦になって初めて食料確保の必要性に気付いた。

反省しなければならないな。


ブモーーーーー!


 その時ブラキオサウルスが鳴き声を上げた。

何やら怒っているようだ。

そこで気付いた。


「しまった。こいつ草食だった」


――――――――――――――――――――――――――――――


あとがき


 クロマグロが体長2.5mで300kg、可食部分150kgぐらいか。

体長10mの巨大マグロの重さは、4の3乗で64倍。

可食部分で9600kg、四捨五入で10000kg。

可食部分100kgのマグロが100人前――異世界の兵なら1人1kgぐらい食うかな?――とすると1万人前。

最初に書いた1000人前なんて少なすぎだったよ。

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