第437話 こちらでもたまごショップ2

 長い1日が終わり、臨時砦では夕食の準備が始まっていた。

今やろうとしているガチャ的な【たまごショップ】が有効なのは、今日だけかもしれない。

深夜0時をまたぎ、明日になっても特別キャンペーンが続くかは未知数だった。


「18回ガチャを引いて、孵化時間に1個30分かけると9時間か。

時間切れになってしまうぞ。

10分に短縮しても、全て終わるまで3時間か。

これぐらいが妥当か」


 時間経過庫を利用することで、孵化時間を短縮できるようになったが、短縮するほど特殊個体になり易いという結果を得ていた。

だがこれが、なんらかの不具合を内包する可能性が出て来ていた。


 DNAに傷がつくことが進化に繋がる場合がある。

これがまさに時短による特殊個体の出現にあたる。

偶然辿り着いた良い事例だが、無条件で有難がっていて良いものだろうか?

逆に悪い事例となる場合が当然あるはずだろう。

それこそが癌化ではないかと気付いたのだ。

破滅へと向かう進化と言えば良いだろうか?


 つまり、孵化時間を短縮すればするほど、イレギュラーな個体が出るが、それは癌化しているだけという可能性があるのだ。

特殊能力を持っていても、実は寿命が短いかもしれなかった。

特殊能力と思っていたものが、ただの壊れたバグかもしれない。

それに気付いた時、俺はあまり時短しすぎるのもまずいと思い始めたわけだ。


 そこで通常30分ぐらいを目安に時短していたのだが、今回は【たまごショップ】の品代わりのタイムリミットがある。

危険性を感じながらも時短時間10分にせざるを得ない。

さすがに10分だと問題が起きそうだが、今の状況ではそれぐらい目を瞑るしかなかった。


「いま、戦力になれば良いのだ」


 眷属の使い捨てには多少の忌避感があるが、この生きるか死ぬかの状況では、仕方がないことだろう。

既に何体もの眷属の死に触れて、俺も馴れて来たんだろうか?


「【たまごショップ】、竜の卵1個」


 まず200万Gの竜の卵を購入する。

そして時間経過庫に入れ、孵化まで10分に短縮する。

自動停止機能で孵化1分前で止めて取り出す。


「結局11分かかってるな」


 今回は卵段階で眷属化されているので、放出出来ない。

何が出ても受け容れるしかない。

それがガチャというものだ。

卵が割れ、中から出て来たのは肉食恐竜だった。

もう既に眷属化されているのでステータスが見える。


眷属 アロサウルス 成体(雄) ▲ 噛みつき 打撃 硬化 ブレス

 特記事項:食用


「またファンタジー恐竜か!」


 肉食恐竜ということはT-REXと同じパターンだ。

ブレスが吐けるのは、翼竜のときと同じファンタジー要素の追加か。

これで動物ではなく魔物だという事だ。

T-REXよりは小型だが、成体で出て来たのは【たまごショップ】の卵の大きさのおかげか。

雄って、そういや雌の方が大きいんだっけ?


「いや、それより”特記事項:食用”って!」


 どうやら俺のレベルが上がったことで、ステータス表示に特記事項が出るようになったようだ。

アロサウルス、食えるのか。

結衣が以前言っていたことだが、動物から魔物化した魔物は例の毒が無くて食えるらしい。

つまり、恐竜という種類の動物が魔物化したということなのだ。

ファンタジーのドラゴンだと食えないのかもしれない。

アロサウルスの、この7mはある大きさ。食いでがありそうだ。


「いざとなったら、食料として……」


 5万人が飢える事態になったら、アロサウルスではないにしろ、考えなければならないな。

温泉拠点で食べていた魚や鳥の魔物のように、食材として割り切る必要がありそうだ。

いや、今は考えないようにしよう。

補給路の防衛をアロサウルスにさせるのが先だ。


「アロサウルス、砦の外で近付く兵を監視迎撃するんだ」


 アロサウルスには、砦の外を監視させる。

だが、アロサウルスには敵と味方の区別がつくだろうか?


「そこは私が指揮しようか?」


 ドラゴニュート竜人のニューが気を使って申し出てくれた。

ニューならば敵か味方かは見分けられるだろう。

今のところ、接近するのは敵ばかりのはずだが、タルコット侯爵軍と後方支援の輜重隊が接近する可能性があるからな。


「そうだな。次からの竜種を含めて任せる」


「お任せを」


 人型の竜種が居てくれて助かる。

竜種の間には念話が使えるそうだからな。

いちいち俺が指示しなくて良いのは楽だ。


「さて、次だな。

【たまごショップ】、竜の卵1個」


 アロサウルス1体では、5万対30万の戦力差を覆すことは出来ない。

残り17個。なんとしてでも特殊個体を引きたいところだ。


 11分経過。次の卵は?


眷属 赤龍レッドドラゴン 成体(雌) ▲ ブレス 物理耐性 魔法耐性 火魔法

 特記事項:毒あり食用に適さず


「レッドドラゴンきたーーーー!!!」


 万の戦力を覆す圧倒的な個体。

大きさも何もかもラキよりも上、これは当たりだろう。


「正面の威圧に配置しますね」


 ニューが率先して指示を出す。

レッドドラゴンの威圧感は正面戦力にこそ相応しい。

さすが気配りのニューだ。

だが、まだまだ弱い。

次だ。もう1回竜の卵でいく。


「【たまごショップ】、竜の卵1個」


 11分経過、どうだ?


眷属 雷竜ブラキオサウルス 成体(雌) ▲ 踏みつぶし 物理耐性

 特記事項:食用


「ファンタジー恐竜の大物! しかも食用!

だけど雷竜なのに、雷魔法が使えるとかないのか?」


 名前は地球での表記が反映しただけか。

物理耐性持ちだから、盾になってもらうしかないな。


「正面の防衛に配置しますね」


 指示は全てニュー任せで大丈夫だな。

次も、竜の卵だ!

この感じでレッドドラゴンクラスをもう2体ぐらい欲しいところだ。

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