第436話 こちらでもたまごショップ1

 要塞都市グラジエフは、周囲を堅牢な城壁に囲まれた難攻不落の要塞だった。

これを攻略するには、要塞都市に配備された兵力の3倍を必要とすると言われている。

アレックス軍は30万、つまりこちらは90万の兵が必要だということだ。


 俺たちは正統アーケランド軍と皇国軍の混成だが、兵力は30万程度と攻略のセオリーに比べて少なすぎた。

要塞攻略には心もとない兵力だが、翼竜という特別な攻撃手段を持っていることで数的な不利を補っていた。

翼竜による空爆を行なうことで、アレックス軍の迎撃能力を奪う。

これにより、攻城時の味方の損害を抑えられるという目論見だった。


 それが皇国軍撤退で、アレックス軍とのバランスが完全に崩れてしまっていた。

正統アーケランド軍の方は、領軍の離脱も有り、総兵数5万を切っていた。

その5万を以って要塞の攻略を行なうのは自殺行為にすぎなかった。

逆に要塞の門を開けて出て来たアレックス軍30万に蹂躙されかねなかったのだ。


「よく持ちこたえてくれたもんだ」


 要塞からの出入口である大門前は度重なる魔法攻撃で地面がガラス化していた。

おそらくオトコスキーの攻撃魔法だろう。

そして、正統アーケランド軍の陣地には簡易砦が建築されていた。

俺が残して行ったゴレムたちが土魔法で造ったのだ。


「ヒロキ! 戻ったのか!」


「ああ、リュウヤ。

向こう温泉拠点の魔族勇者は片付けて来たよ」


「そうか、全員無事か?」


「無事だ。こっちは?」


「正統アーケランドに参加してくれた兵に被害が出ている。

やつら10人のギフトスキル持ち勇者と、20人の近衛騎士あがり勇者を使って攻めて来やがる。

混戦になると魔法が使えなくて被害が拡大した」


 どうやら味方と混戦になるとオトコスキーの広範囲攻撃魔法が使えなくなるため、砦を造って籠城を決め、寄って来る敵を魔法で葬る戦法に切り替えたようだ。

アレックス軍と味方の間に明確な線を引いたということだろう。

だがそれにより、攻略されるのは我々の砦の方という、攻守逆転が起きていた。


「それで籠城か」


「ゴラムたちがいて助かったぞ」


 ゴラムたちも土魔法のスキルレベルが上がって、小さな砦ぐらいならば短期で建築出来るようになった。

今も戦いに有利になるように砦の各所を微調整しているところのようだ。


「何か必要なものは?

戦力以外にだぞ」


「まだなんとかなっているが、籠城には食料がいる。

長期の籠城は想定していなかったからな。

どうにかならないか?」


「パン屋さんならば光合成でパンを焼けるが、人数が5万だろ?

俺の眷属枠の残りを全部使い切っても足りないぞ」


 5万人を毎日食わす食料在庫など、籠城しては3日ともたないだろう。

となると援軍が補給線を確保してくれなければ危ないってことだ。


「籠城しているのは、タルコット侯爵軍が合流して来るからだな?」


「ああ、兵数20万は越えるはずだ。

ヒロキも戻ったし、もう領軍からも魔王軍などと疑われはしないだろう。

領軍が協力すれば、後方からの補給も期待できる」


 そういえば、オトコスキーの存在を利用されて俺たちが魔王軍だとの疑念を味方に植え付けられていたんだったな。

魔王軍……半分間違ってないから困る。

俺は温泉拠点の戦いで魔王化してしまったからな。

だが、俺は魔王の力を持ちつつ真の勇者を失わなかった。

今思うとかなり危険な要素だったが、外観も魔族化しないで済んだ。

つまり、真の勇者であることを前面に出せば、魔王軍だとの疑いは晴れる。


「そうだな。確認したい者には真の勇者のジョブを見せれば良いだろう」


「離脱した領主貴族が伝令を残しているから、さっそく見せてやろう」


 なるほど、俺が帰って来れば証明できるからと、伝令を残してもらっていたのか。

その伝令が確認し、離脱した領軍に情報を齎せば、戻って来るということか。

だが、伝令の確認だけで大丈夫なのか?


「領主貴族は、伝令が見た程度で納得するのか?」


「さすがにセシリア王女が本物だと領主貴族も知っていたからな。

伝令と言っても領主の四男五男だったり、親戚筋の陪臣だったり、身元のしっかりした者が残っている」


 領主貴族は信用のおける身内を残して行ったのか。

疑いを持っていても、そこは戦後を見据えて体裁を取り繕ったのだろう。

後で俺たちが魔王軍ではないと確定した時に、この伝令という人質が効果を表すわけだ。

もし魔王軍だったとしても、四男五男や親戚ならば惜しくはないというところか。


「ならば、ちゃっちゃと確認してもらって戻って来てもらおうか」


「だが、皇国軍が抜けたことが響くぞ。

戦力的に俺たちが負けると思えば、なんだかんだ言って遅参しようとするかもな」


「それもそうか。

ならば、こちらが勝てると思える援軍を揃えて見せよう」


「眷属か?」


「ドラゴンが味方ならば、士気も上がるだろうよ」


「そうだな」


 こうして俺は、こちらでも【たまごガチャ(違う)】をすることにした。

竜卵を【たまごショップ】で購入だ。

こちらは1つ1つ孵してハズレでも砦前に配置して行こう。

脅しにはなるはずだ。


ドー-----ン!!


 オトコスキーの広域殲滅魔法が炸裂する。

補給を断つために背後に迂回しようとしたアレックス軍の兵を攻撃したのだ。

オトコスキーは、温泉拠点へと続く道に設置した砦で、一度に万の兵を殲滅した強者だ。

この籠城での防衛戦力として申し分がない。

ここで時間を稼げれば、タルコット侯爵軍が到着し、補給込みの領軍も戻って来るのだ。

俺はそれまでに皇国軍なしでも戦える準備をしておかなければならない。

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