第432話 魔王になるのはまずい
魔族勇者2を倒し、残りは魔族勇者3だけとなった。
その魔族勇者3も不二子さんの魔法連射により、護衛の自爆コボルト共々倒されていた。
残っていた
「【探知】に敵反応なし。
被害者なし。(【時戻し】でどうにかしただけだが)
残敵掃討完了」
温泉拠点の危機は、ここに終結した。
俺の魔王化という問題だけを残して。
俺が魔王化したことは、感覚的に間違いなかった。
これは今後のアトランディア皇国との関係性に問題が生じるまずい結果だ。
アトランディア皇国は、勇者を祖とする皇室が統べる国だ。
そのため魔王を倒すことを国是としている。
つまり、アレックスという魔王を倒すために正統アーケランド王国に協力してもらっていたのに、その正統アーケランド王国の王配――俺ね――が倒すべき魔王となってしまったのだ。
さらに、アトランディア皇国との縁を深めるために、俺は皇国軍総大将島津鷹久の娘
これは、俺が真の勇者のジョブを持っていることが大前提の政略結婚であり、そのジョブあればこその同盟関係なのだ。
それなのに俺が魔王になったなど、アレックス打倒の今の流れを根底から覆す大問題だった。
「事情はよーくわかったわ。
それより、愛姫との婚姻条件って真の勇者前提だったの?
聞いてないよ!?」
しまった。そこまで詳しくは説明してなかったか。
ここで、小一時間説明に費やすことになってしまった。
「皇国との同盟に必要だったのね。
そこは納得するしかないね。
私のために魔王化までしてくれたし♡」
「だけど、その魔王化で破談なんじゃないの?」
瞳美ちゃんが頭の痛いことを指摘する。
俺が魔王化したと知られれば、破談どころか俺は皇国の討伐対象だろう。
「まさか、アレックスはそれもあって麗や結衣たちを先に狙ったのか!?」
俺の魔王化はアレックスの思うつぼだったのかもしれない。
「でも、ヒロキくんの外観は何も変わってないよ?」
飛竜纏を解除した俺の外観は、どうやら何も変わっていなかったらしい。
そこは、魔族勇者や魔族化した同級生たちの前例からも違っていた。
「これなら隠し通せるかな?
皇国を騙すことになって後ろめたいが……」
「そこは、真の勇者がステータスに残っているかじゃないの?」
ずっと黙っていた
魔族勇者2の手にかかって重傷を負い、
それにより完全回復したのだが、ちょっと様子がおかしかったのだ。
やっとこれで元のご意見番に戻れた感じか。
「それと、助けてくれてありがとう」
綾が唐突にお礼を言って来た。
「お、おう」
当たり前のことをしただけなのだが、そのお礼はなんだかくすぐったい気持ちを俺に齎した。
「そうだ、ステータスはどうなっているんだろうな」
俺は照れ隠しもあって話を変え、ステータス画面を開いた。
「ん? ジョブに真の勇者があるぞ?」
俺には魔王化したという確かな感覚があった。
事実、高度な闇魔法を単独で使えたりしている。
聖魔法で傷つくなど、身体が魔王化していた実感もある。
これはなぜなんだ?
戸惑いながらステータスを下に見て行くと、称号という欄が新たに加わっている。
「魔王を制する者?」
思わずその称号に【鑑定】を使う。
すると、説明文が現れた。
魔王を制する者:
正しき行い、尊き行いのために、魔王の力を使用した勇者に贈られる称号。
勇者の力と魔王の力を両方使用することが出来る。
これにより、肉体には魔王並みの強化が齎されるが、聖魔法で傷つくことはなくなった。
「つまり、魔王の力と肉体強化を得たけど、真の勇者のままということ?」
委員長は魔王化で真の勇者を失ったという。
この差はなんだ?
そうか、委員長は自らの欲のために悪しき行いをしたから完全に魔王となった。
だが、俺は自らの行動を悔いたために魔王化してしまったが、その力を仲間を助けることに使った。
つまり善行のための魔王化だった。
「きっと、魔族化する毒のある魔物は食べてないからだよ」
「え?」
結衣が言うには、魔物は一般生物から魔物になったものと、最初から魔物として生まれたものに分けられるという。
最初から魔物として生まれたものに魔族化の毒があるらしい。
だから鳥とか魚の魔物は毒も無く食べられたということか。
「私がしっかり気を付けてたんだからね」
さすが料理神の加護持ち。良い嫁さんもらった。
俺は結衣のおかげで毒のある魔物は一切口にしていなかったのだ。
どうやら俺の魔王化は、魔物を眷属として従わせたことと、俺が悪しき行いだと気持ちで決めつけたことがきっかけのようだ。
それが称号により善行だったと見做されて、解消されたわけだ。
「そうか。俺は皆に救われていたんだな」
癒しの事もあるし、愛情が俺を魔王にさせなかったのだ。
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