第433話 要塞都市グラジエフ攻略1

Side:リュウヤ 時間はヒロキ離脱直後に遡る


「すまない。緊急事態だ。

俺たちの拠点が襲われた。

ヒロキは拠点に戻らせてもらった」


 ヒロキに温泉拠点防衛を任せざるをえなかった俺たちは、皇国側への説明に苦慮していた。

皇国軍総大将のタカヒサ殿を前にして、俺は委縮してしまっていた。


「一言も無しでであるか。

それほどの緊急事態であれば、それはいたしかたなかろう。

だが、ここもアレックスを目の前にした天下分け目の戦場いくさばでごわそう」


 タカヒサ殿の懸念は尤もだ。

実際、ヒロキが抜けたことによる戦力ダウンは計り知れない。

メテオストライクが使えない、新たな魔物を援軍に呼べない、それはこの場の戦力を大きく損ねるものだ。


「すまない。

だが、守らなければならない者たちがいるのだ」


「それは理解しもうす。

皇都が犯されたならば、我らも引き返すであろうからな。

だが、婿殿が居ないのでは、翼竜の攻撃もできなかろう」


「いや、それは俺が指揮権を預かったので継続できる。

だが、事が終わるまでは、援軍は望めないと思ってくれ」


「ならば、方針を変えねばなりもうさん。

婿殿が戻るまで、要塞攻略は限定的といたそう」


 ここで無理して損害が増えるのは俺たちも望むところではない。

ヒロキが戻ってからの方が有利に戦えることは間違いないだろう。


「では、翼竜や攻撃魔法で城塞を叩くに止め、要塞内への突入は控えることとしようか」


「要塞攻略は時間がかかりもうす。

アレックスがそこに居るならば、何年かかろうが落すまでであろう」


 納得してもらえて助かった。

これで膠着状態が続くうちにヒロキが戻って来てくれれば助かる。


 ◇


 そんな感じで俺たちや皇国が手を抜いていることは、アレックスには筒抜けだったようだ。


『皇国の兵に告げる。

お前たちが味方と信じている正統アーケランド王国を称する反乱軍は、魔王に支配されているのではないのか?

良く見て見ろ。

魔物を使役しているのは、どこの軍だ?

皇国は、魔王討伐を国是としている尊い国であろう?

なぜ、下賤な魔物を使役する者と共に戦うのだ?

お前たちは騙されているのではないのか?』


 アレックス側からの拡声魔法が響く。

どうやら俺たち正統アーケランド王国こそが魔王軍であるとのプロパガンダのようだ。

皇国兵は、総大将にアレックス打倒を命じられているとはいえ、その信念が揺らいでしまっていた。

俺たちへの視線が冷たくなって来ている。


 ヒロキが真の勇者であることを、皇国軍の上層部は把握している。

椅子の魔道具で皇族の系譜であることも判っている。

だが、末端の兵にまでは、伝聞のみが伝わっているだけで、その確証を持ってはいないのだ。

アレックス側からの揺さぶりは、じわじわと皇国兵の疑念を育てていた。


「惑わされるでない!

アーケランドは、勇者をたばかり、亡き者にしようとした国ぞ!」


 サダヒサが皇国兵に檄を飛ばす。


「でも、そっちもアーケランドだよな」


 皇国兵がボソリと呟く。

そうか。皇国兵にとっては、アレックスの下のアーケランドも、正統アーケランドも同じアーケランドなのだ。

タカヒサも二の句が継げなくなってしまっていた。


「そこは、俺たちを信じてくれ。

俺たちは、皇国の祖と同じアーケランドから脱出した召喚勇者だ。

アレックスに操られていたが、その呪縛から脱したのは皇国の祖と同じはずだ」


「たしかに……」


 俺の説得に皇国兵たちも納得したかに見えた。

司令部周囲の声が届いた兵にだけだが、この話が拡散すれば良い方向に行くかもしれない。


「「「「うおーーーーっ!!!」」」」


 その時、グラジエフ要塞の正門が開かれ、アレックス軍の大軍が打って出て来た。

その鬨の声が響く。


『我らこそ、勇者軍である。

勇者の力、目にも見よ』


 その先頭には勇者が30人――偽勇者20人含む――が勢揃いしていた。


「くっ、皆、応戦だ!」


 後輩勇者は召喚されたばかりとはいえ、勇者のギフトスキルを使用されれば一般兵はひとたまりも無いだろう。

そのうち20人は偽勇者だといっても、あれは王城にいた近衛騎士だ。

俺たち召喚勇者の育成にも関わっていたエリートたちだ。

やつらには俺たちと対勇者用の眷属たち、そして皇国の勇者の末裔たちが挑むしかない。


「赤T、腐ーちゃん、キラト、オトコスキー、ニュー、カミーユ、ミドリさんクイーン、アーケランド勇者は俺たちでなんとかするしかない」


「島津の武者も参るぞ!」


 俺たちが8人、島津の勇者の子孫が9人の合計17人。

30人のアーケランド勇者を相手にするにはさすがに人数が足りない。

まさか、アレックスが勇者を総動員して来るとは思いもしなかった。

ここは、ヒロキの眷属たちに頼るしかない。


「オトコスキー、頼めるか?」


「お任せあれん♡」


「ぐはっ!」


 ウインクで俺に精神的ダメージを与えつつ、オトコスキーが広範囲攻撃魔法を放つ。

こうでもしなければ、30人の強者は抑えられない。

当然だが、その後ろには一般兵が万の単位でいるのだ。


 だが、それが悪手だった。


『見ろ! 正統アーケランドを名乗る反乱軍は、魔族を使役しているぞ!

あの特徴は、王国アーケランドに伝わる古の文献に載っている、悪名高き魔王軍幹部、オトコスキーに違いない!

これこそ、正統アーケランドが魔王軍である証拠だろう!』


「「「「「!」」」」」


 その手があったか!

オトコスキーが魔王軍幹部だったのは、俺たちにも周知の事実。

その容姿がアーケランドの文献に載っていても不思議ではない。

いや、そう断言されるだけでまずい。

デマであっても誰も確かめようがないのだ。


 わざわざ拡声魔法で伝えられた説明台詞は、皇国兵にさらなる疑念を植え付けることに成功したようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る