第423話 魔族勇者戦1
俺は【探知】を使って魔族勇者の現時点での所在を把握した。
ここはセオリー的には一番近い
だが、1対2+1で対抗出来ているため、青T・パツキン・さちぽよ各チームは案外余裕があるようだったため、優先順位を下げることにした。
青Tチームは屋敷から遠ざかり、パツキンチームとさちぽよチームはほとんど位置を変えていなかった。
まだまだ持ちこたえることが出来るだろう。
不二子さんたちも3対3に持ち込めたために、有利に戦っている。
魔法が効きにくく巨大なGSは魔法職には脅威だろう。
隠密行動で影から襲って来るGKも有利に戦っている。
問題は水堀に落ちた重装鎧の魔族勇者2人を襲わせていたモササウルスだった。
モササウルスは水の王者だ。
強靭な顎に俊敏な遊泳力を持つ。
重装鎧の魔族勇者5と6は、水に落ちたことでその本領を発揮出来ないでいた。
自らの鎧の重さが、水の中で不利に働いてしまっているのだ。
水堀はまさにモササウルスの独壇場だった。
だが、ここだけ2対1の戦いとなっていたのだ。
片方に手が掛かれば、もう片方への対処が疎かになる。
「まずは、そこか。
この2人のうちの片方がフリーとなりかねないからな。
青Tたちのいる東南を対処中に屋敷を襲われたらかなわない」
俺は探知結果により南の水堀を目指すことにした。
魔族勇者の1人がモササウルスから離れつつあったからだ。
いかに知能低下している魔族勇者でも、生存本能には長けていた。
魔族勇者5は、魔族勇者6がモササウルスと戦っている隙になんとか内塀に取り着き、脱出を試みていた。
どうやら魔族勇者には仲間と協力するという意志が無いようだ。
まあ、もし10人の魔族勇者が集中して同級生1人を襲ったならば、間違いなく死人が出ていただろうから、それはそれで幸運だったといえよう。
いや、魔族勇者にとってモササウルスは、邪魔者であってもターゲットではないということなのかもしれない。
魔族勇者5は、内塀に拳を打ち付け、穴を穿つとそこを手掛かり足掛かりにして壁を昇っていた。
モササウルスは魔族勇者6にかかりきりで対処出来ないでいる。
「間に合わないか!」
ついに魔族勇者5が内塀の上に辿り着いた。
水から出られると、水の王者モササウルスには打つ手がない。
ついに魔族勇者5がフリーになってしまった。
魔族勇者5は、仲間を援護することなく屋敷を目指し始めた。
だが、そこは鈍重な重装鎧の魔族勇者5。
そのスピードは大したことがなかった。
俺は魔族勇者5の行く先を塞ぐように地面に降下を始める。
だがその時、水堀の中から膨大な魔力の奔流が立ち上った。
「っ! なんだこれは!?」
俺は魔族勇者5の存在を片隅に追いやり、水堀の魔族勇者6に注目した。
どうやら魔族勇者6が何かを行なったようなのだ。
俺の目の前で、肉塊が膨れ上がって水堀から溢れ出ていた。
次から次に肉が膨張しているようだった。
「モササウルス!」
モササウルスは、その肉塊に包まれて、空中に身体が浮く。
水から出たモササウルスは、急激に機動力を失ってしまう。
そして次の瞬間、その肉圧がモササウルスを襲う。
「眷属召喚、モササウルス!」
俺はモササウルスを召喚で転移させて助けようとした。
だが、それは叶うことがなかった。
俺とモササウルスの眷属の繋がりは、もう途切れていたのだ。
いや、それが無くても連続召喚の弊害でモササウルスはまだ再召喚出来ない状態だった。
そういった事情もあり、手遅れでモササウルスは肉塊に圧し潰されてしまったのだ。
モササウルスは養魚場で幼体から育てた眷属だ。
狂暴な魚竜だが、あれで可愛いところもあった。
その眷属を失ってしまった。
これからもそのようなことはあるだろう。
魚など、食材として平気で命を奪ってしまっている眷属もいる。
だが、さすがにパン屋さんやモササウルスの死は堪えるものがある。
パーン
そんな音がしたかと思うと、肉塊が破裂した。
みるみるうちに肉塊が崩れはじめる。
その肉塊は自壊を始め、水堀を赤黒く染めた。
魔族の血は黒寄りの赤だったのだ。
魔族勇者6は自爆攻撃でモササウルスを道連れにしたのだった。
「おいおい、これを同級生にされたらヤバイぞ!」
いま、6人の同級生が自爆攻撃の危険に晒されていた。
魔族勇者5を逃がせば、結衣たちの救護所も危険だった。
各個撃破。
指揮官タイプの魔族勇者2が、そう拡声魔法で言ったと聞いた。
だが、その後で屋敷に集まれとも言ったはずだ。
つまり魔族勇者2の命令は生き残って集合だ。
「魔族勇者6の行動は、生命の危機を迎えたからこその自己判断だったということか」
ならば、魔族勇者5の前に俺が現れれば、奴は俺を倒すことを優先する。
足止め、いや、ここで魔族勇者5を倒してしまわないと、結衣たちが危険だ。
屋敷で自爆攻撃をされたならば、多くの犠牲者が出る。
そして直ぐにでも他の同級生たちの救助に向かわなければ。
見ず知らぬ他人で疎外感すら持っていた同級生に、ここまで思い入れができるとはな。
人生はわからないものだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
青Tチームと不二子さんのいる位置が逆だったので修正しました。(2022.5.31)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます